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第3話 出逢い(3)

 どのくらいここにいるのかわからないが、傘は差しておらず、頭からつま先までずぶ濡れだ。しかし不審者という容貌ではない。  襟足の長い茶色い髪は濡れて肌に貼り付いているが、無精して伸びているようには見えない。ここから見える横顔はまだ若く、二十代前半くらいだろうか。  彼は黒いシャツに白のジャケットを羽織り、黒地のスリムなデニムを穿いている。革靴はダークブラウンの落ち着いた色合いで、いまどきの若者にしては珍しい装いだ。  着る者が違えば、気障に思える格好だが、目を惹く容姿をしている彼にはよく似合う。  横顔だけでも絵になると言うのは、こういう男のことを言うのだな。  鼻筋の通ったその顔立ちは、笑みでも浮かべれば、ずいぶんと華やかであろう。  しかしいまの彼は、どこを見ているのかもわからないほど、空虚に見えた。  止めた足を動かし、その人の前を通り過ぎてみるものの、彼はそれにさえ気づいていないかのように、身動き一つしなかった。 「おかしなやつ」  こんなひと気のない公園で、一体なにをしているのだろう。濡れるのも構わず、どのくらいの時間ああしているのか。  奇妙な男だと思った。けれどいまは、出かける目的を早く済ましてしまいたくて、歩くスピードを上げて通り過ぎることにした。 「いらっしゃいませ」  足元を濡らしながらレンタルビデオ店につくと、返却分はポストに放り込んで、また新しいものを物色して三枚ほど借りた。  映画鑑賞は趣味だ。  仕事の合間に見るのが息抜きになっていい。パソコン画面に向かって、キーボードを叩くのが仕事だから、集中力が切れた時にこうして借りてきたものを見る。  作品は比較的雑食だ。  ロマンスものも見るし、SFやファンタジー、アクション、ミュージカル、ドキュメンタリーと多種多様で、ジャンルにこだわりはない。  見るものに当たり外れはあるけれど、どんなものでも興味深く見られる点は長所だろう。  用事を早々に済ませて店を出ると、雨脚はさらに強くなったような気がする。内心で毒づきながら舌打ちをしてから、ザーザーと降り注ぐ雨の中にまた足を踏み出した。

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