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第14話 距離(3)
それと同時に、悟られたことに気づいたのか、彼の顔が一気に耳まで紅潮する。しかし逃げ出すかと思った彼は、そこに立ったまま相変わらず動かない。
向けられる視線はなんとなく居心地が悪いが、長く息を吐き出しながら、ズボンに足を通しシャツを羽織った。
「リュウ」
入り口に立ち尽くす彼のに近づくと、こちらを見ていた目が所在なげに泳いでから伏せられる。けれどその目をじっと見つめれば、ゆるりと視線を持ち上げ、彼はこちらを見た。
「ご、ごめんなさい」
「別に怒ってるわけじゃない」
叱られることを想像していたのか、目の前の彼は首をすぼめて、身体を萎縮させている。その姿に自分は大きくため息を吐き出して、手を伸ばした。
すると叩かれるとでも思ったのか、ぎゅっと目をつむったリュウは、ビクリと肩を跳ね上げた。
「怯え過ぎ」
傷を負った動物が、その身を守ろうと必死になっているかのようだ。
彼にとってこのことは、自分には知られたくないこと、だったのかもしれない。だから不安が募って、落ち着かないのだろう。
「宏武?」
「純真な動物にも欲はあるよな」
彼は無垢な生き物だけれど、やはり動物なのだ。それ相応の欲は持ち合わせているわけで、素直な性格そのままに、その欲が顔を出しただけ。
まさか自分が、彼の欲を駆り立てるに値するとは、思ってもみなかったけれど。
「気持ち悪くない?」
「別に、人の性癖なんて気にならない」
それに自分も人のことは言えない。自分は恋愛する相手にこだわりはないのだ。だから男でも女でも、情が湧けば好きになることもある。
いままでどちらとも、付き合ったことがあるけれど、どちらがいいとかそういう風には思ったことはない。
情が湧いて、相性が合えばそれでいいのだ。だからリュウの恋愛対象がなんであっても、気にはしない。
しかしリュウはきっと、その性癖が正しくないと言われて育ったのだろう。
人に知られることも、公言することも恥なのだと、言われてきたに違いない。だからあんなにも怯えたりするのだ。
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