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第15話 距離(4)
「じゃ、じゃあ、触れてもいい?」
けれどそれを自分は、拒絶することなく受け入れた。だから受け入れてくれる相手に、興味が湧いたのだろう。
彼にタイプがあるとして、それのどこかに自分が当てはまったとしても、それは気の迷いだ。
「それはあんたの目に、自分が性的対象に映ってるってこと?」
「宏武ステキだよ。すごく色っぽくてドキドキする」
恐る恐る伸ばされた手が、ゆっくりと頬に触れる。そしてぬくもりを確かめた手は首筋を撫で、胸元まで滑り落ちていく。
羽織っただけのシャツの隙間に指先が滑り込み、それをはだけさせる。
緊張しているのか、普段よりも触れる手が熱く、しっとりと汗ばんでいた。
いつも自分を見つめるキラキラとした瞳には、いま熱を宿した炎が揺れている。
その目を見つめて考えた。きっと彼との相性は悪くはない。健気な彼を自分の手の内に収めることは、多分きっと容易い気がする。けれどその先が考えられない。
「駄目だリュウ、離れて」
「宏武に触れたい」
「そんな感情、いまだけだよ。それは一時の気の迷いだ」
見知らぬ場所で、見知らぬ人に出会い、優しくされたから、心が勘違いしているのだ。もしそうじゃないとしても、自分たちはこれから先も一緒にいられるとは限らない。
そこまで考えて、そうかと納得する――彼のことを知るのをためらうのは、情が湧かないようにするためだ。
彼の隣は居心地がいいから、このままだといつか必ず情が湧いてしまう。目の前にある無邪気な笑顔が、愛おしいと思うようになる日が来る。
それは予感ではなく確信だ。だから彼のことを知りたくない。彼に惹かれてはいけないのだ。
けれどどうしたら傷つけずに、彼を引き離すことができるのか。不器用な自分にうまくそれができるのか、それがよくわからなかった。
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