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第21話 ひと時(2)

 その後ろ姿を見ていると、自然と笑みがこぼれてしまう。近づき過ぎるのはよくないと思っているが、それでもまっすぐに慕われるのは、悪い気がしない。 「でもそんなことばっかり、考えるのもよくないな」  これ以上、余計なことを考えないように仕事をでもしようと、リビングの片隅に置いたパソコンデスクに足を向ける。  スリープモードから立ち上がると、パソコンは小さなモーター音を響かせた。  光を放つモニターの前に座り、仕事用の眼鏡をかける。すぐ傍にぶら下がった、カレンダーで日付を確認すると、二、三日中の締め切りが二つほどあることに気づいた。  雨の季節は普段より、仕事のペースが落ちる。急いで片付けてしまわなければと、ファイルを開いた。 「はい、宏武。お茶淹れたよ」 「ありがとう」  そっとデスクに置かれた、透明なティーカップの中で、優しく揺れるのはルビーのような、赤色をしたハーブティーだ。  カップを持ち上げて鼻を利かせると、甘酸っぱい香りがした。 「クランベリーか」 「疲れた目にいいよ」 「ありがとう」  健康志向なのか、リュウはハーブティーもそうだが、食べ物もオーガニックなものを好む。  自分は腹を満たせれば、なんでもいいというタイプなので、それを知った時は少し驚いた。しかしいまは、リュウの気が済むようにさせている。 「テレビ、見てていい?」 「いいよ。借りてきたの観れば?」 「うん」  リビングにデスクがあるので、テレビなども目に入ってくるのだが、集中してしまえば音も聞こえなくなる。なので仕事中でも、リュウには好きなようにしていいと言ってある。  朝から晩まで、一日のほとんど二人とも家にいる。自分は仕事が家で事足りるものなので、作業中はまず外に出ることがない。  リュウには、いつでも出かけてくれて構わないと言ってはいるが、家を出るのは一緒に買い物に出る時くらいで、同じようにほとんど家にいた。

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