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第22話 ひと時(3)

 なにをしているかと言えば、朝から晩までテレビを見ていたり、家にある本棚の本を片っ端から読んでみたり。  言葉を覚えることに興味が向いているようだ。  借りてきたDVDなどは、字幕で観ていることが多い。彼はフランス語だけでなく、英語も理解しているらしい。  英語で聞きながら、目で見て言葉の意味を覚えているのだろう。リュウは日本語を聞くことは完璧だ。だけれど話すことと、読み書きが苦手らしい。 「また懲りずにあれ借りたのか」  プレーヤーに挿入されたDVDが再生されると、おどろおどろしいタイトルバックが流れる。  それはホラー映画で、何作か続き物になっているのだが、ホラーが苦手なくせになぜか、リュウはそれを借りるのだ。  そしていつもソファの上でクッションを抱きしめ、一人で跳び上がったり悲鳴を上げたりしている。今日もまた、半泣きになりながら見終わるのだろうと、思わず想像して笑ってしまった。 「宏武」 「……ん? どうした」  しばらく一人で騒いでいたリュウだったけれど、ついに一人で観ていることができなくなったのか、助けを求めてきた。  そこまでして観なくても、いいだろうと思うのだが、涙目で訴えかけられると、放っておくのも可哀想になってくる。仕事も区切りがいいので、息をついて眼鏡を外した。 「傍にいて」 「仕方がないな」  床に腰を下ろしたら、潤んだ目でソファを叩いてくる。少し面倒くさいな、と思いながらも立ち上がれば、今度は座っている足のあいだを叩いてこちらを見つめてくる。  一瞬ためらったが、しぶしぶそこに腰を下ろした。するとすぐに後ろから手が伸びてきて、身体を抱きしめられる。  クッションの代わりかよとぼやきながら、一時停止されていた画面に向かい、リモコンを向けた。  このシリーズは街にあふれるゾンビと、生き延びた人間のよくあるバトルものだ。その中に人間模様が描かれているのだが、最終回は賛否両論だった記憶がある。  あらすじしか読んでいないので、詳しくは知らないけれど、どちらかと言えばB級ホラーの位置づけだった。  ただ恋人と共にゾンビと戦う、ヒロイン役の子がなかなか綺麗でそこは評判がよかった。確かシリーズ全編通して、彼女が主役を演じていてた気がする。

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