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第25話 存在(2)

 愛しているがゆえに、恋人との終わりを選んだ。苦しみから解放するのではなく、自分の愛から解放する。だから彼女は泣きもせずに、笑みを浮かべたのか。  ひねくれずに素直に受け止めれば、彼と同じ答えが見つかっただろうか。 「そういう解釈もあるんだな」 「宏武は?」 「つまらない考えだよ」  そんな優しい考え方、自分にはできそうにない。でもなんだかリュウの言葉は、物語を語っていると言うよりも、なにかを見てきたみたいな物言いにも聞こえた。  彼はどこかでそんな想いを、してきたんだろうか。愛する人のためにすべてを終わりにするような、そんな悲しい結末を。 「宏武、お風呂入る?」  ぼんやりと真っ暗になった画面を見つめていたら、ふいにリュウがこちらをのぞき込む。その顔には、もう先ほどの悲しげな表情はなくて、優しい笑みが浮かんでいた。 「ああ、そうだな」 「じゃあ、お湯ためる。待ってて」 「ありがとう」  リュウはすでに風呂に入って、寝間着に着替えているが、彼はあまり湯船に浸かることはしない。シャワーだけで済ますことがほとんどだ。  おそらくそれは、生活習慣の違いと言うものだろう。いつも仕事が終わってから入る、自分のために湯をためてくれる。  ご機嫌な様子で、風呂場に駆けていく後ろ姿を見送ると、ソファから立ち上がり、プレイヤーからDVDを取り出した。ケースに戻した、それをなんとなく見つめ、リュウのことを考える。  彼はいままでどんな恋愛をしてきたのだろう。恋愛対象が同性でありながら、それを良しとはしない環境にいたのは、なんとなく想像がつく。  だが彼はまっすぐでとても素直だ。自分の感情にもきっと正直だろう。 「彼に愛される人は幸せだろうな」  繕うことなく愛情を向けて、ひたむきに愛してくれる。ただ傍にいるだけの自分にも、彼はひどく優しい。  彼といると、毎日が楽しくて世界が明るく見える。――しかしそこまで考えて、思い馳せるような感覚を振り払うように、大きく首を振った。  また余計なことを考えている。気持ちを落ち着かせるように大きく深呼吸して、胸に溜まった感情を追い出した。

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