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第28話 雨音(1)

 部屋は広いけれど、寝る場所はここには一つしかない。必然的に眠るベッドは二人で一つだ。  とはいえ元よりダブルベッドで広かったので、男二人が横になってもそれほど窮屈さはない。  だが寝ているあいだに、背中合わせの背中がくっついてしまうくらいの広さだ。  そこに自分以外の誰かがいると、感じながら眠る。  窓の外から聞こえてくる雨音に比べたら、人の寝息や心音のほうがずっとマシだ。  最近はそのおかげか、雨の時期なのに眠りが深い。ぐっすりと眠れて、朝起きると気分がいいと感じる。  ただ一つ問題があるとすれば、目が覚めるとリュウに抱き枕にされていること、だろうか。  彼はそれほど体温が高くないので、暑苦しいとは思わないが、目が覚めるたびに目の前に顔があって驚かされる。  ここまで何度も続くと、彼のために抱き枕でも買ってやろうか、という気になる。 「……今日は、うるさいな」  ちょうど頭の上に出窓がある。そこからいつもより少し強い、雨の音が聞こえてきた。この時期になると、本当にこの配置が嫌になる。  しかし部屋の構造上、どうしてもベッドはこの位置になってしまうのだ。  ああ、本当に嫌な音だ。  雨が嫌いな理由の一番は、雨音かもしれない。音が耳障りで、とても不快な気分になるのだ。雨脚が強くなるほど気分が沈んでいく。  耳を塞いで、胎児のように身体を丸めると、薄いタオルケットに潜り込んだ。けれど耳を塞いでも、その音は鬱陶しいほど響いてくる。  なんだか身体の内から、ざらりとしたもので撫でられているような、不快感が湧き上がってきた。  浅い眠りの中で夢を見ているのだろう。  ポツポツ、ポツポツと雨音が聞こえる。それがどんどん大きくなってくると、激しいほどの拒絶が身体を強ばらせた。  嫌だ、この先へは行きたくない。  夢の中で漂う身体は、雨音の先へと進むことを拒んでいる。身体中の毛穴が開くような、粟立つ感覚に自分を抱きしめる手が震えた。  息が苦しいと呼吸を繰り返すうちに、足元が真っ黒な泥水に浸かっていることに気づく。  慌ててそこから抜け出そうとするが、そう思うほどに足がずぶずぶと泥水に沈んでいった。  もがくほど身体は身動きができなくなる。いつしか膝、腰、胸元、そして顎下まで沈んでいた。

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