33 / 88

第33話 独占欲(3)

 それから毎晩のように、彼とは身体を繋げるようになった。リュウがねだるように求めてくるのだ。  あまり何度も肌を重ねるのはよくない、とわかっていても、甘え縋られるのを拒むことができなかった。  抱かれているあいだは、なにも考えなくていい。そのおかげで雨音に悩まされることも、悪夢にうなされることもない。  だからこのまま憂鬱な雨の日が、過ぎ去ってくれればいいとそう思っていた。 「桂木さん、今年はなんだか顔色もいいし、元気そうですね」 「え?」  手元の紙面に視線を落としていたら、ソファに腰かけていた客人がなんだか興味深げな顔をして、こちらを見ていた。  彼は出版社の編集者で、いつも自分に仕事を依頼してくれる三原と言う男だ。もう随分と長い付き合いだったと思う。  月に一度は手土産を持って、ここへやってくる。  メールでも郵送でも原稿は送ることができるので、わざわざ訊ねてくる必要はないのだが。どうやらそれは自分の生存確認だったようだ。 「毎年この時期になると、真っ青な顔して死にそうだったのに、なにかあったんですか?」 「ああ、ちょっと気が紛れることがあって」 「そうですか、それはよかった。じゃあ、安心して仕事をばんばん頼めますね」  曖昧に笑った自分に、三原は特に気にするそぶりも見せずに肩を揺らした。  いつも雨の時期は格段に仕事が遅くなる。最初の頃は締め切りが重なったり、スケジュールが押しまくったりで、大層迷惑をかけた。  いまでは彼のほうで、うまく調整してくれるようになった。  こうして食いっぱぐれることなく、仕事ができてるのは、彼のおかげなのだろう。 「うん、原稿はこれでオッケーです。また来週になったら連絡を入れますね」  手渡した原稿を確認すると、三原は大きく頷きゆっくりと立ち上がった。毎月決まってやっては来るが、いつも無駄な長居はしない。  今日も滞在時間は三十分ほどだろうか。だが困ることは一つもない。  用件を早々に済ませてくれるので、こちらも気が楽で助かる。彼を見送ろうと自分も立ち上がったら、ふいに寝室の戸が開いた。  そしてやけにのんびりとした声が響く。

ともだちにシェアしよう!