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第48話 初夏の便り(2)
しかし訝しく思いながら手紙の封を切ると、そこには細長い紙が一枚入っているだけだった。
封筒からそれを取りだし、手に取ってみれば、紙切れはコンサートのチケットだというのがわかった。
そういえば彼は、このために日本へやってきたのだった。
チケットに刷られたリュウの名前を、思わず指先でなぞってしまう。ここに行けば、またリュウに会えるのだと、そんな期待が我知らず心に湧いてきた。
日付は三日後の日曜日。チケットを見つめたまま、自分はその場に立ち尽くしてしまった。確かに彼の姿は一目でも見たいが、やはりピアノは苦手なのだ。
あれは雨と同じくらい心を蝕む音でしかない。
しかしリュウが奏でる音ならば、そんなものを吹き飛ばしてくれるのではないか。そんなことを考えてしまった。
それと同時に、自分が思っている以上に、まだリュウのことが忘れられずにいるのだと、思い知らされた気分になる。
さよなら――とそう告げたはずなのに。
手紙が届いてから三日間。
随分と悩んだが、日曜の昼過ぎから自分は、いそいそと出かける支度をしていた。彼に会うことで、心の片隅に残された未練が大きくなる懸念もあったけれど。
もうこんな機会でもなければ、姿を見られることもないかもしれない。
そう思えば、重たい腰も上がるというものだ。それに会場の客席から彼を一目見たら、帰ればいい。どうせピアノは長く聴いてはいられないのだから、一曲聴いて席を立てばいいだろう。
そんな言い訳を心の中で繰り返し、電車を乗り継いで会場へと向かった。
コンサートが行われる場所はイベントホールで、五百人ほど収容できるなかなかの広さを持つところだ。
こんなにたくさんの客が集まるくらい有名だったのだと、興味本位で買った音楽雑誌を見て知った。
クラシック音楽は、いままで興味を惹かれることがなかったので、まったくと言っていいほど知識がない。
なんでも見聞きするのが好きな割に、なぜここだけ食わず嫌いだったのだろうと、不思議に思うほどだ。ピアノは苦手だけれど、それ以外の楽曲は多くあるというのに。
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