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第49話 初夏の便り(3)
ホールに着いてみると、多くの人が集まっていた。年齢層は幅広く、男女比は女性が少し多いくらいだろうか。
開演は十七時からだから、あと一時間くらいは時間がある。みなパンフレットを片手に、開演をいまかいまかと待ちわびている様子だ。
プログラムが印刷された紙は来場者に配られるが、パンフレットは別途購入しなくてはならない。どうしようかとしばらく悩んで、気がつけば財布の口を開けていた。
客席がオープンになるまでのあいだ、空いた椅子に腰かけパンフレットを眺めることにした。
そこにはインタビュー記事などと共に、たくさんの写真が収められている。白や黒の燕尾服を身にまとうリュウは、なんだかどこぞの王子様のような風格だ。
元々見目がいいので、とてもよく似合っているが、なんだか変な気持ちだ。
うちにいるあいだは、安物のワイシャツやTシャツという、簡素ないでたちだった。
近所のスーパーへ行き、特売品をぶら下げ帰ってくる。そんなごくありふれた日常にいたのに、あれはやはり一時の夢のようなものだったのか。
彼の本当の世界は、きらびやかで華やかな光をまとう世界。自分とは違う世界だ。
「そろそろか」
ぼんやりと考え込んでいると、いつの間にか客席がオープンになっていた。客席内へ向かう人々の波に乗るべく、自分も立ち上がることにする。
パンフレットは手提げのビニール袋にしまい、片付けた。もうこれも、見ることはないかもしれないなと思いながら。
「あの、失礼」
客席へ向かうためにフロアを歩いていたら、ふいに後ろから声をかけられる。聞き覚えのない声に、なにげなく振り返ると、見知らぬ五十代前後の男性が一人、そこに立っていた。
相手は振り返った自分を見て驚き、なぜか興奮したように頬を赤らめる。
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