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第1話 プロローグ

* 家族ってなんだろう。 「同じ家に住み生活を共にする、配偶者および血縁の人々」って辞書には書いてあったけど、いまいち分からない。 だって、お父さんと俺は同じ家に住んでいるはずだけど、生活を共にしてはいないから。 セットしたアラームに起こされ、朝食は適当なもので済まし、自分で鍵をかけて学校に行く毎日。 学校に親しい友達はいなくて、移動教室も昼食も、家に帰って来たって、ずっと一人。 どうして? どうして俺は皆と違うの? どうして俺には“家族”がいないの? どうして俺は人と上手く接することが出来ないの? そうやってひたすら考えて、涙を流した夜もある。 皆が当たり前に出来ていることが出来ない自分が、嫌で嫌で仕方なかった。 そんな自分に抗って、お父さんにメールをしてみたりクラスメイトに挨拶をしてみたり、そんな小さな努力をした時期もあったけど、どれも上手くいかなくて、あぁ自分には無理なんだ、自分にはこの生き方しか出来ないんだって分かった。 だから今は、寂しいなんて感情は持っていない。きっと、これからも特に何も考えずに生きていくんだと思う。 俺が思い描く未来には、自分以外の誰かはいない。 だって、それが俺の“普通”だから。 だからこれからも自分は一人きりで生きていく。おじいさんになってこの世から居なくなるまでずっと、俺はひとりなんだ。 そう思っていたのに‥‥‥。 ある人のおかげで、俺の人生は180度変わることになる。 高谷広 (たかやひろ) 担任で、従兄弟で、優しくて、格好良い、俺の大事な人。 そんな先生と二人で暮らすようになってから、俺は誰かと一緒に過ごす幸せを知ってしまったんだ。

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