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14:17、地震発生⑩

久し振りに警察学校時代の呼称で呼ばれ、驚愕に目を瞬かせた。 「ゆ、め……見てたんだよ。八潮ちゃんと出逢った頃の夢だ。寝惚けてた。なんでい荻原、其処まで目くじら立てて怒ることでもないだろうに」 努めて明るく、はは、と笑いやり過ごそうとするが、一向に定義の顔に笑みが浮かぶ気配はない。 じっ、と凝視される居心地の悪さに泣きたくなる。 「怒りますよ。君はもう少し自覚を持った方がいい。僕に愛されていることの意味をちゃんと考えて下さい」 腕の自由を奪われたまま、定義の顔が近付いてきた。 耳元で低く囁かれ、普段の優男然とした穏やかさも和やかさもない、今まで見たこともない定義の雰囲気に博信は息を呑む。 「な、に……言って」 「好きですよ、ヒロ。こんなに愛しているのに、他の男の名前を呼ぶなんて、本当に残酷な人ですね、君は」 定義の舌が耳朶を舐めた。 耳から頬にと移動してきた舌に口端を撫でられる。 ぬるり、と湿った肉に下唇を辿られ、博信は必死で定義の下から逃れようとするが、足に力は入らない、腕は定義に拘束され、どうにも逃げ場がない。 「やめ、ろ! 荻原、テメエ仕事はどうした! 俺に構ってる暇があんなら指示だせっ、馬鹿野郎!」 キッ、と睨むと漸く定義に微笑が浮かぶ。 睨んでいるのに笑う神経は解らないが、ピリピリした空気よりはマシに思える。 「愛しいヒロがそう言うから終わらせてきましたよ。……八潮君が病院の受け入れ体制を調べてくれました。此処ら一帯の病院は被害が大きくて無理なようです。電車も動いていない。道路も寸断され車はとても通れない。ただ、隣の市に行けば診てくれる病院があります。ドクターヘリの要請も多くて此方まで回るのには時間が掛かるでしょう。ですから、僕が担いで行きます」 間近にある定義の顔は真面目そのもので、博信は唖然と口を半開きにしてしまう。 「バカかテメエは。危ないだろ。またいつ揺れるか解らねぇし、足元だって定かじゃない。何時間掛けて行くつもりだ。ヘリを待つか、どうしても行くってんなら八潮ちゃんに頼んだ方が」 「ヘリを待っていたら何日後になるか解らないんですよ! 手遅れになる前に、何とか病院に連れて行きたいんです。いつも君は八潮君には素直に従う癖に、僕には食って掛かる。君を守るのは八潮君ではなく僕です」 ギリギリ、と手首を押さえる力が強くなり痛みに眉を顰めた。 激昂している定義を落ち着かせようと言葉を探す。 「落ち着けって。八潮ちゃんが嫌なら坂中でもいい。体格の問題だ。荻原と俺じゃあ、そんなに背が変わらないだろ。お前の負担が大きい」
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