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14:17、地震発生⑫

器用に反対の手でポケットから錠剤を取り出し、水分補給用の水筒を渡してくる定義の表情はいつも通りのにこやかなものに戻っていた。 「……手ぇ放せよ。飲めない」 敢えて仏頂面を背け、捕われている片手を揺らす。 一瞬、更に強く握られた手は、次の瞬間には解放されていた。 「ねえ、神田。覚えていますか? 僕が君に好きだと告げた時のこと」 錠剤を口内に放り、流し込むように水を飲む。 水筒を、ずい、と定義に突き返した。 それを受け取った彼が唐突に問い掛けてくる。 「なんでぇ、いきなり。まあそら、衝撃、だったからな」 怪訝に思い頭を掻く博信に微笑みを向ける定義が何を考えているのかさっぱり解らない。 曖昧な答えで濁したが、記憶はあるようなないような、衝撃的で忘れられないが、衝撃過ぎて曖昧にしか覚えていない、そういった状況だった。 「僕ね、知っていたんですよ。君が八潮君に電話していること。いつも受付前の公衆電話から掛けていたでしょう?」 驚き過ぎて博信は言葉一つ出せずに定義を凝視する。 半開きになったままの唇に定義の指が触れ、博信の肩はビクついた。 「君が必死で隠しているのが可愛くて、ずっと黙っていましたけどね。毎回泣きながら電話をしている神田の泣き顔に僕は惚れたんですよ。……ですから、これからは八潮君にではなく僕に泣き付いて下さい」 博信の思考は定義の台詞の意味を処理仕切れずに呆然と彼の瞳を見詰めてしまう。 意味が解らなかった。 「……っ、な、っ、なん、っ、……今、言うなよ。んなこと。もう訳わかんねぇわ。俺、お前キライ」 パニックに陥った脳は思考を放棄しようと定義を突っ撥ねることを選ぶ。 ふい、と顔を逸らし子供みたいな台詞を吐き出す。  警察学校時代、博信はよく充光に電話をかけていた。 誰の前でも泣くことの出来ない博信が唯一その時間だけ涙を流すことが出来たのだ。 それを見られていたと言うことは、出逢う前から泣き虫だとバレていたと言うことになる。 必死で虚勢を張っているのを陰ながら知られていたのだ。 恥ずかしいのか、悔しいのか、感情の整理がつかない。 「キライ、だなんて言わないで下さい。はじめにちゃんと言ったじゃないですか。君の全部が好きで愛しい、と。ヒロが言葉の意味を受け止めきれていなかっただけです。まあ、強がる君を見ているのも愉しかったんですがね。そろそろ八潮君を殺してしまいそうなので」 悪びれた様子もなく微笑む定義の腕が体躯に回され抱き締められていた。 ふふ、と笑って物騒なことを告げる定義は怖い。 顔を両手で覆い頭を振る。
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