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第290話

*** 「今日からこのクラスに新しく入った、斎賀実千流だ。ご家庭の事情でこんな時期だが、皆んな仲良くするように」  一悶着あった翌日、朝のホームルームに担任と一緒に現れた斎賀さんに、昨日の胸のモヤモヤが再発する。  悠斗とはあれからこれと言った話もせず、気不味いまま互いの家に帰宅した。朝の登校も俺からは挨拶程度で、悠斗が俺の後を一歩下がって追い掛けていた。  無言の俺に悠斗は話題を振るが、リアクションもせず、足早に教室に向かった。  子供みたいに拗ねているのは自分でもわかっている。欲しいものが与えられないで、癇癪を起こしている。良くないと唱えても覆い被さるように、ドロッとした感情で塗り潰される。  謝罪で完結させようとする悠斗に、どうしても納得出来なかった。 「……初めまして。斎賀実千流です。よろしくお願いします」  小さな声で下を向きながら自己紹介をする斎賀さんに、クラスの男子は色めき立つ。教室中にどっと湧く歓声が耳障りでならない。 「……ぶりっ子……」 「……柳君? 聞こえたよ? 柳君がそんな風に言うなんて珍しいね?」 「……ぶ、ブリ大根! 食べたいなぁ〜って……。矢田さん、あれって探してた天使じゃね? 感想は?」 「惚けちゃって……。そうだね……清楚で見た目も申し分無い。でも、何だろ……刺さらない。ビビッと来ないんだよね。う〜ん……作られた感じ?」  立てた指を頰に当てながら首を傾げ、ハッキリ口にする矢田さんの方が断然可愛らしい。 「作られたって? やっぱり女子同士だと見方も変わるのかね?」 「それも有るかも知れないけど、ん〜……どう表現したらいいのかな。引っかかる……みたいな?」  斎賀さんとまだ話をしていない矢田さんは、何かを察知でもしたのだろうか?  俺は十分昨日の生徒会室で、裏の顔を見せられたのだ。多分あれが通常運転なのだろう。  教壇に立つ斎賀さんはお淑やかに振る舞い、クラス中の男子のハートを初日だけで鷲掴みにしたのだった。 * 「でよ。お前らナニ? 夫婦喧嘩なら二人の時にしろ」 「まだ冬にもなってないのに、雪が降ってるよね〜」 「どうせユウが原因だろ? ヤナは理由も無しに怒らねぇし」 「……俺は別に……」 「……良く言うな。浮気者!」 「違うってば。浮気してないよ。昨日も話たでしょ?」 「ああ、あの子な。すっかりクラスのマスコットだぜ」 「納得させられないなら、話した内には入らねぇぞ。取り敢えず謝れ」 「だから、謝ったし。……それに今瀬菜に話ても、瀬菜は信じてくれないもん」 「──そっ、そんな事ないし。俺は斎賀さんと何があったか知りたいだけで……。でも悠斗、何も教えてくれないから。だから俺、変に勘繰っちゃうんじゃんか……」 「ならさ、王子の言い分ちゃんと聞いてあげようよ〜♪ 勘違いは良く無いし!」  昼休み屋上でランチをすると、俺と悠斗の距離感に回りがギブアップしたらしい。不自然なほどよそよそしい空気は、伝染し食事も喉を通らないようだ。  そんな俺もこのままの態度ではいけないと思いつつ、どう接したらいいか意地を張り過ぎて迷子になっていた。  多澤がそんな空気を裂くと、便乗するように村上も由良りんも俺達の仲を取り持ってくれた。 「本当に食事会で一度会っただけなんだ。夏休みに入って直ぐの時、爺様の古くからの知人に紹介したいからって。店に着いたら白桜南の理事長で、俺もびっくりした。その時に一緒に来てたのが実千流ちゃん」 「……一度会っただけで随分馴れ馴れしいよな! あっちは恋人気取りでベッタリだし!」 「それは……この学校で知り合いも居なくて、心細かったのかなって。今日はそんな素振り無かったでしょ?」 「──それは……そう……だけど……」  言われてみれば、同じクラスになったと言うのに、斎賀さんは悠斗に話し掛けて来る事も無かった。クラス中が新しい仲間に夢中で、人が集まり質問責めで斎賀さん自身、余裕が無かったとは思う。  昨日生徒会室の扉の前で、困っていた姿が脳裏に浮かぶ。 「なぁ、瀬菜もういいだろ? 悠斗が言ってる事、多分嘘じゃねぇよ。年中お前に盛ってて、他に気取られてる暇なんて悠斗にゃ無いぜ」 「ははは……俺もそう思う。てかさ、柳ちゃんだってカナちゃんとたまにベッタリじゃん。王子の事ばっかり攻められないよ?」 「ひっでぇ! 俺はヤナと友達として付き合ってんだ! わきまえてるっつーの!」  村上の的を得た言葉にギクッとする。好意を持たれているのは、状況は違えど確かに同じだ。 「あの時瀬菜に連絡も取れなくて、凄く落ち込んでた。同じ歳って事もあったけど、実千流ちゃんに瀬菜の事、気付いたら一杯話してた。それだけで俺、瀬菜が近くに居る気がして元気になれたんだ。それに実千流ちゃんは、瀬菜ときっと仲良くなれるなって、その時実感したんだ」
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