8 / 89

第8話

そろそろ晴麗は家を出ないといけない。 寂しそうにしていたけれど、何とかぐずらずに学校に向かってくれたから安心した。 「今日の晩御飯は晴麗の好きなものにしてあげよ」 「ハンバーグか?」 「うん!1番好きなんだって!可愛いよね」 俺と哉太も出かける準備をして、母さんに電話をした。久しぶりに電話をしたから、早速怒られてしまったけど、晴麗の写真を持って行くと言えば機嫌が良くなったから良かった。 「哉太、行ってくる」 「送ってく。」 「いいよ、ゆっくり歩いていく」 「いいから甘えとけ」 頭を撫でられると、そうだなと考えがすぐに変わる。哉太に送ってもらうことにして、哉太の部下が車でマンションの下まで迎えに来てくれたから、それに乗り込んだ。 「帰りはタクシー使えよ」 「えー…お金勿体無いよ」 「ダメだ。言うこと聞けねえなら外に出さねえぞ」 「…タクシー拾います」 それから実家に着くまで他愛のない話をして、目的地に着くと挨拶くらいしてくれたらいいのに、忙しいからと俺を降ろしてすぐに行ってしまった。 実家のインターホンを押そうと伸ばした手が震える。 「ユイ!」 「ひっ!!」 いざ押そうとした時、玄関のドアが開いて母さんが出てきた。逃げたくなるのを堪えて薄く笑い手を振る。 「ユイ!あんたは本当…っ、元気だったのっ!?」 「あ、あー…うん。元気だよ。母さんは?」 「元気に決まってるでしょ!あんたを叱ってやるんだから!」 「…怒られるのは嫌だなぁ。」 ヘラヘラ笑ってると肩を思い切り叩かれて、「早く入りなさい!」と久しぶりに実家に入り、懐かしい香りに"帰ってきたんだ"と感じた。 「それで?晴麗ちゃんの写真は!?」 「息子の俺が来たことをもっと喜んで」 「あんたはもういいのよ。晴麗ちゃんを見せなさいよ!」 「…はいこれ。昨日の入学式」 写真を取り出すと盗む様に取られて、浮いた手をそっと戻した。 「可愛いわねぇ…。晴麗ちゃんこんなに大きくなったのねぇ…。あんたにそっくりじゃない」 「でしょ。今日も朝から大好きって言ってくれてね」 「今度連れて来てよ。少しくらいお婆ちゃんらしくしたいわ。…今は菊池君と住んでるんでしょ?…あの子のことは知ってるし、信頼してるけど、職業が職業だから、周りに注意しなさいよ」 「うん。何があっても晴麗の事は守るよ」 「それは勿論だけど、あんたも自分を大切にしなさいよ」 俺が学生の頃はあんまり感じたことがなかったけど、母親の有難みが今になってすごくわかる。 俺を大切にしてくれてること、俺の子供も愛してくれてること、俺が愛してる人を否定しないこと。 それはきっと普通なら難しい事なのに、無条件でそうしてくれてる。 「母さん」 「何?」 まだ晴麗の写真を眺めてる母さんに、恥ずかしいけどちゃんと伝えないとって思った。 「大好きだよ。いつもありがとう」 そう言うと母さんはケラケラ笑って、けれどすぐに泣いてしまって、慌てた俺は背中を撫でて何か悪いことしたかな、と馬鹿な頭で考えていた。

ともだちにシェアしよう!

この小説を読んだ人におすすめの作品

オメガバース系ファンタジーです
76リアクション
21話 / 49,334文字 / 264
2017/7/8 更新
あきらとはるの5年後。。ひたすら一途に愛し合うふたりなのですが。。
101リアクション
24話 / 19,392文字 / 152
2018/1/4 更新
魔王様のお気に入りは、敵対している勇者様です。
11リアクション
4話 / 16,755文字 / 56
2018/9/17 更新
性癖拗らせ高校生(ドM)とハイスペック叔父さん(天然S)のおかしな共同生活
18リアクション
10話 / 14,766文字 / 179
1/22 更新
平凡部下×美人上司の、初々しいオフィスラブ作品です。
28リアクション
8話 / 37,538文字 / 20
8/17 更新
冒険者×冒険者派遣所職員
11リアクション
1話 / 6,428文字 / 148
8/29 更新