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泡沫の告白、空白の二文字

 この想いは……口には出せない。口にしたらたちまち泡のように消えてしまうから。そうやって恋情を手放す子を、僕は何人も見てきた。  告白という未知の行動をすると想いは昇華されてしまうのだと聞かされてきた。まるで悪戯な悪魔が想いだけをそっと奪い取ってしまうように。掻き消された後に、想いは残らず、彼らはただの凡庸な人形のようになった。だから僕はけして口にしないことに決めた。  この世界では恋愛結婚などというものはありえない。理由は上記の通り、恋愛と言うものが成立しないからだ。恋するも愛するも、秘められた間だけ成立する。そもそも恋愛とは汚らわしいものだと学園では教えられる。学園、それは僕ら子供が通う学び場の総称で――そこで隔離されて僕らは大人になる準備を進めるのだ。  僕は臆病者だから、この恋を永遠にしまっておきたい。大っぴらに叫ぶことがどれだけ気持ちいいのか、僕は知らない。でも構わなかった。ずっと何年経ってもこの想いだけを抱えていられれば。  ここは硝子(ガラス)の国。冬になると不思議な現象が起きて、氷の欠片が町中に降り注ぐ。言い伝えでは、古く聳(そび)えるリーンガン山脈から氷の神であるイクシロンが冬風を撒き散らしているのだという。  僕が昔話の書かれた本を読んでいると、肩を叩かれる。そこには目を引く、輝くような金髪に色素の濃い碧眼、健康そうな褐色の肌を持った青少年が居た。彼と違って僕は、透き通った銀髪に赤目で色白だ。正反対の僕と彼。 「エド、お待たせ。ん? どうしたんだい、君、なんだか顔が赤いようだけど……」 「な、なんでもないよ。ラグノーこそ今日はどうしたの? 随分時間が掛かったみたいだけど」 「聞いてくれ、実は……」  ラグノーは今日補修を受けていた。彼はクラスでも人気のある生徒だけど、賢くないんだ。だけど僕は彼のそんな部分も好きだった。そう、僕ことエドはラグノーが好きなのだ。  ラグノーと出会ったのは五年前の夏の日。僕が授業のプールから出てくると暑苦しい中、夢中になって暑苦しい野外で一人遊ぶ少年を見つけた。その子の笑顔はまるで向日葵のようだった。僕は教室へ帰るはずだった足を止めて、彼に見惚れていた。 「君も一緒に遊ばないか?」  少年に笑顔で声を掛けられて、僕はその時初めて授業をサボった。彼が遊んでいたサッカーボールを二人だけでボールを転がして遊んだ。汗をかいて先生に見つかるまでそうしていた。あとで彼と共にこっぴどく先生に叱られた。だけどそれをきっかけに僕らは仲良くなっていった。嬉しかった。  でも今は苦しい。彼が他の子と連れ立って歩く姿を見るだけでも、この心臓は痛みを覚える。それが嫉妬と呼ばれる感情だと、僕は本を読んで気がついた。嫉妬とは醜くて汚らしい感情だと本には書いてある。僕は素直に納得した。それでも、僕の心は嫉妬を訴える。これがよくない感情だと知りつつも。  隣にラグノーがいない。いない、それだけなのに寂しかった。  そんな僕に転機が訪れたのは、秋の風が吹きすさぶ10月のことだった。学園の教室で僕がいつもみたいに本を読んでいると、彼がやって来て急に僕の手を引いたことがきっかけ。 「ちょっとラグノー、手が痛いよ」 「ごめん、でも我慢して! 急いでるんだ」 「そりゃ見たら分かるけど……」 「エドも急いで!」  何段もの階段を駆け上がり、そうして急きたてられるようにたどり着いたのは古びた匂いのする一室。正確には部屋と言うよりもの物置のような印象を受ける。僕は息急き切って走らされたので息が上がっていた。 「ここ、普段は使われていない屋根裏部屋なんだ」 「へぇ、こんな場所が学園にあったなんて……」  学園はどこも清潔だ。だからこんな風に埃だらけの見目の悪い場所というのは初めて見た。 「ね、ここを今日から僕らふたりの秘密基地にしないかい?」 「え、ええっ!?」 「どう? いい提案だと思うんだけどな」 「そんなことして大丈夫なの?」 「さぁ? でもここなら先生も他の大人も来ないから恰好の基地に出来るはずだよ! ねぇエド、強力してくれない?」 「う~ん、分かったよ。そこまで言うなら協力するよ」  渋々頷いた僕だが、それでもラグノーは嬉しそうだった。そんな無邪気な彼を見て僕も嬉しくなる。今日からここが、彼と僕だけの秘密の場所。  それから僕らは秘密基地をまともな場所にするため、掃除道具を借りてきて部屋を綺麗に磨いたり、予備の布団などをこっそり貰ったりして着々と部屋の準備を整えた。11月に入る頃には立派な部屋が出来上がっていた。  いつものように秘密基地である屋根裏部屋でくつろいでいると、急にラグノーが僕に触れてきた。真正面から僕の指から腕にかけてなぞるように触られる。困った。これでは本に集中できない。くすぐったい刺激を受けて彼を見た。 「ラグノーあんまり触られると……ん……困るっんだけど……」 「エド可愛い。そんなに気になる、これ?」 「僕は可愛くなんかない! そりゃ気になるに決まってるだろう。そんなとこ触ってなにがいいのさ」 「なんかぷにぷにしてて気持ちいい」 「ひどっ! ええい、僕も触ってやるうぅぅ!」  僕はラグノーの僕よりも逞しい腕を触ると案外筋肉質だなと思った。触られてラグノーも「なんかくすぐったいからやめてっ!」と懇願する。僕は悪い顔になって「お返しだよ」なんていいながら本格的にラグノーをくすぐり始めた。  そこまでは他愛の無い無邪気な子供同士の遊びだったんだ。  ふと、ラグノーが僕に向って真剣な目を見せる。 「――ね、みんなに内緒で僕ら、パートナーにならないかい?」  突然の言葉に僕は動揺した。  「え? パートナーってあのパートナー? 大人同士が生殖の為になる番ってこと?」 「生殖って何? 番は分かるよ。二人で一人ってことだ」 「それを言うなら二人で一組じゃないかな」 「ははは、エドは詳しいな。僕なんかじゃ敵わないよ」 「でも僕ら両方とも男だよ? 同性同士はパートナーになれないって書いてあったよ?」  でもこの時そうは言っても、内心僕は舞い上がっていた。彼の提案が喜ばしいものだったから。 「いいじゃん。そんな本の受け売りばっかり気にしないでさ――試してみようよ」 「試す?」 「そう。本当に男同士だとパートナーになれないのかどうか」 「その発想は無かったよ」  僕は正直に話した。 「じゃあまずは――キスしてみようよ」 「キス? 口と口を合わせる謎の行為?」 「僕一回してみたかったんだよね」 「なんでラグノーがキスなんて言葉を知ってるの? 僕みたいに本を読んでるわけじゃないのに……」 「僕ね、僕、見たことがあるんだ」 「へ? キスを??」  不自然な話だった。キスを見る機会なんて僕らにはない。まして先生も詳しくは教えてくれない。それとパートナー、生殖行為がどう関係するのかも僕には理解できなかった。不純だと言われる恋愛小説にはよく出てくるけど、それがどういうもので、一体何の目的の為に交わされるのか理解できない僕。 「僕が昔かくれんぼで木の上に上っていたら、大人たちがその下でキスをしていたんだ。それもじっくり長く、角度も変えながら。最初はなにしてるのか分からなかったけど、『どうだいヘレン、俺とのキスは気持ちいいだろう?』『ええ、ルイスそうね。あなたとのキスは最高だわ』って言ってるのを聞いちゃったんだ。その後僕は必死で隠れて大人達に見つからなかったのは良かったけど、誰も僕を見つけてくれなくてね……って関係ないか」 「そうなんだ」 「だからエドとキス、してみたいんだ。ダメかな?」  心臓が押し潰されそうなぐらいの窮屈さを訴える。忙しなく音を鳴らして、僕もそれにつられてしまう。彼が膝立ちして僕に迫る。僕も彼に続いて膝立ちになる。 「ううん、ダメじゃない。僕もラグノーとキスしてみたい」  躊躇いがちに近づく指。ラグノーに顔を押さえられて、唇と唇が軽く触れ合う。これがキス。最初は無感動だったけれど、した後でじわじわと体の奥底から昂ぶるなにかがあった。僕はラグノーとキスをした。キスには苺の味がした。 「ラグノー、苺食べたでしょ?」 「え、なんで分かったの!?」 「味がした」 「そういうエドは……えっとエドは……」 「ないならないでいいんだよ、ふふっ」 「エドはね、味はないけど、柔らかかった!!」  何故かそう言われて恥ずかしくなる僕。唇の感触が柔らかいと感じたのはきっとお互い様だが、いやラグノーの方は少しかさついていたか。唇と唇を合わせる行為では生殖できないことは知っている。だけれど小説には度々登場する。老いも若いも男も女もキスに夢中になる。それが僕には不思議だった。だが、今彼とキスして少しだけ理解した。唇を合わせあうこの行為には名前がつくぐらいにはふわっとした感じがする。たぶん、気持ちいいとかそんな感じ。 「もう一回してもいい?」 「いいよ」  ラグノーに聞かれたので僕は当然のように同意した。また口同士が重なる。だけど今度は、少し違った。急になにかが僕の口内に入って来たのだ。僕は生ぬるい感触の物体を差し込まれてドキリとした。それが舌だと分かってからも、僕の驚きは消えない。じゅるっと唾液を零しながら口の中をまさぐられる僕。こんな感覚僕は知らない。それは身体さえ蕩けてしまいそうな情熱的なもので、僕の予想をはるかに超えていたのだった。  舌と舌が絡み合い、やがて引き離される頃には僕の体からは力が抜けていて、僕らの間を結ぶように銀の糸が繋がった。  ――これは本当にキスなのか?  霞のかかった頭の中で考える。キスにも種類があって舌と舌を絡めるこれもそうなのか?  濃厚な交わりに動揺を隠せない僕。慌てて衣服で唾液を拭うが、僕のだらしのない顔はすっかりラグノーに見られてしまった。ラグノーは真っ赤な顔をして僕をじっと見つめていた。その視線に耐え切れなくなり、僕はそっぽを向く。  それから僕らは秘密基地で何度もキスをした。それは時に軽く触れ合うだけものものだったり、舌を絡め合って互いの口に迎え入れたりと、心を奪われてしまうような激しいものだったりした。僕らは夢中でキスをした。舌を捕まえて放さないように、何度も何度も求め合った。  寝ながら本を読んでいる所へ声が掛かった。仰向きで斜め上を見つめると、彼は苦しげな表情をしていた。 「なんかエド見てるとチンコが痛くなるんだ。これって病気かな、エド……」  彼は不安そうな声音で正直に吐露した。 「痛いの?」 「いや痛いっていうか、パンツの中で大きく硬くなるんだ。それが苦しくてムズムズするんだよ」  僕はその現象に心当たりがあった。それを彼に向けて話す。 「それは――勃起っていうやつじゃない?」 「勃起って?」 「保健の授業の時に先生が言ってたはずだよ。確か――ちんこがむくむくっておこりたつことだって。それは射精ってやつをするまで続くって」 「どうすれば射精できるの、エド教えてよ。僕もう辛くて……」  腰を左右に微妙に揺らしながら泣きそうな表情になるラグノー。 「それは僕にもよく分からないけど――確か触ったりすれば自然に出来るんじゃなかった?」 「触る……分かったやってみる」  すると彼はズボン越しにちんこを触り出した。すると益々ズボンの中で窮屈げになるそこ。 「ダメだ、エド。触っても直らないよ? 僕なんかおかしいのかな」 「う~ん、直に触ってみたら? とりあえずズボンの中だと苦しそうだよね」 「うん」  ラグノーはズボンを下着ごと下ろした。ボロンと彼のちんこが顕になる。色黒なそれは、ラグノーの肌の色と同じだった。ラグノーがそれを触り始める。ぺたぺたと触れるだけだった手つきが、その内本能の赴くままに、手を丸めて上下に扱き始めた。 「ん、はぁっ、なんか変……だけど気持ちいいっ、これが射精?」 「違うよ。射精っていうのはちんこから白い液体が吹き出すんだよ」 「ええっ! それって変な病気じゃなくて?」  大げさに驚いてみせるラグノー。僕はくすりと笑うと彼に言い聞かせた。 「うん、正常なしくみだよ」 「はぁ、そうなの? エドは物知りなんだね」  物を知らないラグノーが可愛らしく思えた僕。素直なラグノーが愛おしいとさえ感じる。彼の頬にキスをすると、「口じゃないの?」と何故か残念がられてしまった。この頃の僕はキスというものは愛情を感じさせて、示すものだと思っていた。それはなんだか素晴らしい行為のようにさえ思えた。 「ん、は、なんかクる……あっあ――っ!!」  夢中でちんこを扱いていたラグノーだったが、限界が訪れたのか、そのちんこから白い液体を撒き散らして――射精して――彼はビクビクと震えていた。その顔は恍惚といった有り様だった。 「どうラグノー? 治まった?」 「ん、治ったみたい。なんか気持ちよかった。射精ってすごいね」 「それはよかった」  それからラグノーはしばしば僕を見てたら勃起したと言っては目の前でちんこを扱いて――手淫というのだと後から調べて知った――をして射精していた。本来自慰というものが秘められた行為だということも知ったが、これはあえて言わなかった。なぜだか僕もラグノーが自慰をしている様を見ると興奮するのだ。それを止められそうになかった。一応彼には秘密基地以外ではしないように明言した。彼は神妙な顔つきで頷いていた。  そんなある日のことだった。人の声が階下から響くことに気付いた僕ら。顔を揃えて青くなる。 「ここじゃまずい。こっちに来て、エド!! 早く!」  慌てて僕らは咄嗟に戸棚の裏に隠れた。 「あら?」 「どうしたんだい?」 「いつの間にこんな内装になったのかしら?」 「さぁ、他にも誰かが使ってるんだろう。なぁ、それより早くしようぜ」 「ええ、そうね」  この秘密基地――いや屋根裏部屋というのは大人達も使っていることを知らされた瞬間だった。大人にとってもここは子供に対して秘密の場所だったのだ。そこで彼らは文字通りの交わりを始めた。それは男女で行う生殖――セックスだと気付いた僕は最初畏怖した。女性の中に男性器をつっこむ行動。あられもない姿で高い喘ぎ声を出す女性。激しく腰を打ち付けて野太い声で穿つ男性。知識も無いのに生で見せられた衝撃たるや凄まじかった。  隣を見れば同じように赤い顔をしたラグノー。彼は興味津々といった様子で眼前の大人達の行動を見つめている。僕にはそれが信じられなかった。その猛々しい行為が終わると、僕らは黙って解散した。  その翌日、僕は何も言えないままだったが、ラグノーは違った。僕は気付いたら彼に押し倒されていた。何事かと思い、振り向けば、勃起したラグノーの姿がそこにあった。 「もうダメ、我慢できない。ごめんね、エド。ごめんね……」  そう言って僕を抱き締めたラグノー。彼は泣きじゃくっていた。何を謝っているのか分からないまま、僕は流された。彼は僕のシャツの前を開くと、そこにキスを繰り返した。まるで小鳥が餌を啄(つい)ばむように。胸に唇が何度も押し当てられた。  それから彼は僕のズボンを下ろし、ちんこを勝手にパンツから取り出して扱き始めた。自慰慣れした彼に上下に擦られたり、時には首の部分をなぞられたり、強く口の部分を引っかかれたりすれば堪らない快感が波のように押し寄せた。僕は抗えず、その波に溺れる。  前から先走りとかいう液体が出てぬるぬると滑りがよくなると、動きはより活発化した。僕は抵抗した。 「やめっ……ラグノー、やめてっ!」 「ごめんね、エド……本当にごめん……嫌だったら殴ってもいいから、僕を止めて。僕だけじゃもう限界なんだ」  言われたとおり僕は彼を殴ろうとした。でも、その瞬間、涙に濡れた綺麗な水色の瞳が潤んで僕は動けなくなった。  辛そうだった。出来ることなら僕の力で彼を慰めたいぐらいには。彼がどうしてこんな暴挙に出たのかは分からない。それでも、彼を突き飛ばして逃げるという選択肢が僕の中から消えてしまうぐらいには衝撃的だったのだ。  そうこうしてる間にも僕にも限界が訪れる。 「はぁ、やめっ、っ――!?」  射精だ。何度も見てきたが自分が体験するのは別物だった。頭がからっぽになってすっきりしたような感覚。  だがその直後、僕は震えた。彼が僕の身体を弄(まさぐ)っていたから。知識があるわけでもないのに彼は驚くべきことに僕を抱こうとしているのだと気付いた。気づいた時には鳥肌が立った。生き物の本能とは恐ろしいもので、彼は僕の下半身から尻の穴を見つけてこう言った。 「ここになら入るかな?」  服越しに指を入れられる。といっても本当に入ったわけでなく、つつかれたといった表現の方が正しいようだった。暫く彼はそこを眺めていると、突然僕のパンツを脱がせた。露になる臀部。秘められた部分が曝け出されてしまい僕は羞恥に染まる。 「やめっ……ン!」  僕が嫌がっているのに一向に行動を止めないラグノー。僕の尻を割り開いて、窄まりを見られる。その熱い視線に僕は先ほどより赤くなる。 「ココに、入れるよ? ね、いいでしょ、エド」 「だ、だめ、そんなとこに、ひぃ!?」  彼が僕の穴の中に乱暴に指を突き入れた。そして数度抜き差しを繰り返すと何が分かったのか「うん、大丈夫そう」などと言い、ちんこを穴の入り口に宛がった。 「やめっ、そんなとこ、使っちゃ……あぐっ!」  僕の拒絶する言葉も空しく、彼は先っぽから少しずつちんこを尻の中の肉に埋めていく。 「う……きつい……、エド痛いよ。そんなに締めないで」 「痛い、あ、うあ、やめてラグ……ノー……うあああああっ!」  ずりゅずりゅとねじ込まれる彼のちんこ。小さな窄まりだった場所に大きな杭が穿たれた瞬間。尻の中では摩擦で、直腸内はひどい有様だった。痛い、切れる、熱い! 僕に考えられたのはそれだけだった。 「はぁ、全部入った」 「う……だめだめっ、動かないで、ラグノー……ああっ!!」  そんな制止の言葉も聞き入れられず、彼がゆっくりと腰を動かす。前後に引いたり、中を突いたりと彼のちんこが僕の中で暴れ狂う。まるでじゃじゃ馬だと思った。その間に多分中が切れたのだろう。血で滑りが増したところで入り口から奥への往復は早められた。スピードを上げられ、何度も打ち付けられる中。そのうちに僕の目の奥がちかちかとしてきた。そして強引に齎される射精感。僕は派手に精液を飛ばした。そして――「出ちゃう、エドの中に、僕の精液が……ああ――っ」僕の中に彼の精液が吐き出された。たっぷりとした量に僕が唖然としている中で、彼は動きを止めている。  終わったのかな?  僕がそう思ったのもつかの間、再びごめんと繰り返し謝る彼に僕は抱かれた。彼が飽きて、というか泣き腫らした瞳で眠るまでそれは続き、僕の穴からは泡立つ音がずっと聞こえていた。  あれから季節は移ろいで、12月に突入した。青白い氷が空から降り始める時期。寒さから吐く息は白く、凍えるような冷たい風が全身を苛む。 「ね、エド、今日もしてもいい?」 「えーヤダよ。ここ寒いもん」 「だから、さ、ね? アレしてる間は寒いことも忘れるよ」 「でも……」 「いいから、ほら早く脱いで」  仕方なく僕は自分の衣服を脱いでやる。すると全裸になったラグノーに抱きつかれた。金髪碧眼の容姿は相変わらずだが、肌を重ねあうようになって、最近少しだけ褐色の体は逞しさを感じるようになってきた。それに伴い彼がふとした瞬間に格好良く見えてしまってたじろぐ僕。  家庭科室から拝借した少量の油を使って、ラグノーの指が僕の後孔に押し入ってくる。最初の悲惨な体験からラグノーは進化を遂げて、僕の中をちゃんと慣らすということを覚えた。今では痛みを感じさせないスムーズな挿入が可能だ。指で慣らし終わると性急に彼のものが挿入される。 「はぁ……んン……ラグノー」 「エド可愛い……もっと、もっとしよう」 「もっとって……んふ、キスのこと?」 「そう。キスもこれも、もっといっぱいしたい」    俗に言うセックスというものを――男同士で生殖出来ない場合にもこの呼称は適応されるのか不明だが――ラグノーとするようになってから、キスといいその回数は増えて、僕らはほとんど秘密基地に暇さえあれば入り浸るようになっていた。おかげで腰が痛い。  だが、そんな安寧の日々も突然終わりを告げる。  僕らが憩いの場である秘密基地で屯(たむろ)していると、偶然居合わせた先生に見つかってしまったことがきっかけだ。そのまま秘密基地は、屋根裏部屋は閉鎖されることが決まった。僕らはお説教を受けた。罰として掃除当番二週間が言い渡された。僕らはセックスをする場所も、キスをする場所も失った。  ラグノーと目が合うだけで、体が疼いて辛い。そんな日々を悶々とやり過ごすうちに、僕は徐々に苦しくなっていった。体を重ねることも、唇を合わせることができなくなってやっとの思いで過ごした12月の最後の週。それはセイントデイズと呼ばれるお祭りの期間で、学園中が出し物をしたりおいしい食事が卓に並んだりと皆浮き足立つのだ。この時期は学業もお休みとなり、先生達もどこかへ行ってしまう。代わりに見張り番という人たちが立つが、彼らは些細な悪戯などを黙認してくれて、ほぼ場所を動かない。  僕はここしかない、と思った。ラグノーの寮の個室へ急ぐ。すると案の定彼は居た。彼は目を丸くして突っ立っていた。 「あれ、エド? どうしてここに――!?」 「触れ合いたかったよ、ラグノー!」  そんな僕を受け止めて「僕もだよ」とはにかむラグノー。久しぶりの彼の体臭を胸いっぱいに吸い込みながら抱き締める。彼の体温が近いことに安堵した。欲求不満になるごとに、僕の思考を占めていったラグノーへの恋情。募る想いは氷のように降り止まず、やがて大きな塊となった。  僕は形振(なりふ)り構わず彼にキスを仕掛ける。歯列をなぞり、舌先で彼の舌を吸う深いキス。それに応じるように彼の口へと引きずり込まれる僕の舌。酸欠になりそうだったので、一度離れる。 「あぁ、エドとのキス久しぶりだね」 「そうだね。こんなに長い間出来なくなるなんて思ってもみなかったよ」 「ね、エド、こっち来てよ」  そう言って連れ出されたのはバルコニー。彼の部屋は寮の二階なので、青白く輝く校庭や校舎がよく見える。僕らは再度キスを交わす。今度は浅いキス。だけど――愛情の気持ちが込められているようなキスを。  その瞬間、世界は静寂に満ちていて、周囲の喧騒も忘れた僕。今しかない、と思った。  降り積もる、恋心。塊となってなお氷山の一角のように巨大に成長し続けるそれ。僕の中で抱えるには精一杯で、とても持ちきれない。  だから――この想いを伝えたい、と思った。昔は恋情を叫んで発散する理由が分からなかった。でも今は違う。もうそれしか方法が無いほど、募って、溜まって、どうしようもなかった。この気持ちを届けたい、君に。  無くす事を厭わず、僕は叫んでいた。 「ラグノー、僕は君が、ずっと、ずぅっと――……」  だがそこで水晶のように煌く瞳とかち合ってしまい、叫べなくなる。    こんなにも苦しいのに――、同時にこんなにも愛おしい感情を、僕は失ってしまっても構わないのか、と。  胸がきゅうきゅうと鳴り出しそうなほど切なくて、心がわくわくするほど浮き足立つ。そんな想いを。 「エド……?」  不思議そうな顔をするラグノー。でも、もう我慢できなくて、気付いたら口から漏れていた。 「ラグノーの笑顔が、僕より逞しい体が、抱き締められた時の温もりが、全部、全部全部……」  それは一角ずつ零れ落ちるように、胸の中から溶け落ちていく。それはきっと恋情と呼ばれるものなのだろう。一言話すごとに僕の中から欠けていく。 「好きだよ、ラグノー」  駄目押しだった。  最後の言葉を――あれ、僕はなにをしていたんだっけ? 確かラグノーに伝えたいことがあって、それで――それで――……  僕のなかから  が消えた。  目の前のラグノーが目を瞠(みは)る。僕は彼を見てももうドキドキしないことに違和感を覚えた。 「なんで……エド、どうしてそれを言葉に出しちゃったの! 出さなかったら僕らずっと一緒に、一緒に……僕も君とお……ダメだ。僕には言えないよ。僕にはそれを無くしてまで告白する勇気が無いよ……ごめんねエド、気持ちを伝えられない情けない僕でごめんなさい!!」  そういって何故かラグノーは泣き続けながら僕を抱き締めていた。僕には彼がどうして泣いているのか理解できなかった。  それからのことは早送りでエンドロールが流れるが如く、僕の日常は過ぎ去っていった。僕にはかけがえのない友人がいる。ラグノーだ。彼は優しいけど鬱陶しい。いつも僕に話しかけてくるのだ。くらだらないことも、真剣なことも、いっぱい話した。それでも話は尽きなくて面白かった。だけど時々、ラグノーは辛そうな表情をする。そんな時、僕の胸はズキズキと痛んだ。そして同時に違和感が生まれる。それはまるで怪我した場所に瘡蓋(かさぶた)が出来るような。僕が学園を卒業する日まで、それは続いたのだった。 * * *  昔の話をしよう。  僕には学園時代  な人がいた。その人は僕のことを突然屋根裏部屋へと誘い出した。そして僕らは……キスというものをしたんだ。勿論、それ以上も。子供は潔白でなくてはならないのに、僕らは不純になった。その理由も知らないで。  僕らは不純値が高く、ターミナル検査で二人とも引っかかったのは懐かしい記憶だ。ターミナル検査とは、能力運用型循環社会に溶け込む為の適正検査のことだ。子供達が清純か不純かが脳波を調査する特殊な測定器で一発で調べられるのだ。その検査によって階級ごとに上流学園の行き先が振り分けられる。先生達はきっと秘密基地での出来事だろうと察しがついていたようで、僕らは異変ありでCランクの上流学園へと入学が決まった。異変さえ無ければ、能力的には二人ともAランクだったそうだ。ちょっと悔しくなったのを覚えている。  上流学園では、もう子供扱いはされなかった。全ての人間達は大人予備軍として責任ある行動を求められた。そして学園についても仔細を教えられた。学園は子供を温室管理し、守り育てる為の檻。そこから羽ばたく時は、一羽の鳥として、ひとりの人間として完全な存在になっているという。だから些細な異変でもタブーだったのだ。  そこからの日々はエンドロールというより、完全な静止画の連続。有り体の決まりきった日常の連続。だが僕には、いや僕らにはなんの不満も苦痛もなかった。それがまるで機械の部品がうまく噛み合わさるように、心地よささえ感じていた。この頃にはラグノーともあまり話さなくなった。というか、生徒間での談話はほぼ生まれず、喉を使うのはせいぜい歌の時間ぐらいだろうか。  それから六年掛けて、僕らは立派な『大人』になった。学園の卒業式では涙を流す子も居たけど、上流学園では誰一人涙を見せなかった。それが当たり前なのだ。ごく当然に、僕らは生きる機械のように、日々を生きる。それが理想の社会であり、人間像であった。  誰も不幸にならなくて、誰も苦痛を受けない充実した世界の姿。  それに何の反抗心も見出さないこと、それこそこの長年で培われた、いや、刷り込まれた世界平和の正体。  やっとその一部になれたこと、大人になったことを実感していた。    社会人としての出発点。成人式で僕は久方ぶりにラグノーと再会した。式ではさすがに様々な会話が生まれていた。皆かつての旧友との出会いに興奮しているようで一つの集団が珍しく盛り上がっていた。彼は随分身長が伸びていて、精悍な顔つきをして、男らしくなっていた。かつての友人と酒というものを酌み交わし、俺達は別れた。  幸せであれ、ラグノー。  心の底からそう思えた。彼のしあわせを一途に願う。  古い記憶を呼び覚ましていた僕だったが、窓ガラスを叩く音で眼を覚ます。僕は結婚し、家庭を持っている。だが妻を見ても何故か僕は生殖という人類の意義を果たせそうになかった。彼女の裸を見てもまるで興奮しないのだ。僕は医者にもかかったが駄目だった。原因は不明。それから妻と同じ部屋で眠るのは止めた。なんだか気まずくて、それ以上になにか良くないことをしている気分にさせられるのだ。僕は妻に隠している。僕がどれだけ不純な子供だったのかを。  考え事をしている最中もガラスを叩く音は止まない。妻が家の鍵を忘れたのだろうかと、裏庭へと回る。変だなと思っていたら、そこには予想外の人物が居た。窓を叩いていたのは、僕の元へやって来たであろう、ラグノーだったのだ。  僕は慌ててガラス製の扉を開ける。 「やぁ、久しぶり。元気だった?」  僕は目を丸くしていた。 「あ、うん。ところで……僕に何のよう?」 「それは――」  一瞬、息詰まる彼。だが僕をガラスに押し付けて、腕の中に囲い、顔を近づけてきて―― 「んふ……ン」  ――キス。それは間違いなくキスだった。あの日々の記憶が過ぎる。胸の内で光彩を放つ思い出達。蘇る感動の嵐。秘密基地での出来事を。あのバルコニーでの体験を。  僕は目を瞠った。だって、ラグノーが涙を流していたから。その瞳は記憶にあった、辛そうな初めて体を重ねた時とも、僕が告白を躊躇する時に見せたものとも違って、どこか悲しみを帯びていた。 「ラ、ラグ……ノー……」 「ねぇ、今のはあの日言えなかった続きなんだ。君なら分かるよね? 忘れたり……してないでしょ?」 「忘れる、わけない。……忘れたり、するもんか」  僕は知らず鼻をすすっていた。ラグノーに釣られて熱い滴が頬を伝う。  僕は思い出していた。いいや、無感動な記録に、鮮烈な記憶が蘇って来たのだ。 「僕は、  だった。ラグノーが」 「それ以上何も言わないで。言わなくても分かるから。僕らの絆はそう簡単に消えたりしないでしょ?」 「絆……これが、絆? 僕は君の事を……そっか、そうなんだ!」  そこでようやく実感が湧いた。密かに育んだ恋。それがなにを意味するのかを。 「そうだ。君はそうなんだ。僕のことをそう思っていたはずなんだよ」  大の男が泣きじゃくりながら、僕の肩を揺さぶる。胸が高鳴る。彼を見つめて高揚する体。僕はそうだ、この名前のついた感情に突き動かされて――彼に告白をしたのだ。  だという二文字を使って。 「今も僕のことをそう思うなら、二人でどこか遠くに逃げよう?」 「それは駆け落ちってこと……?」 「駆け落ち? ん、ああそうだな。僕と君とで一緒に逃げよう」 「でも……俺には家族が…………」 「ごめん。こんなこと言って困らせる気はなかったんだ。やっぱり君は……――」  態度を改めるラグノー。だが見ていて痛々しい程だった。今すぐにあの時のように慰めたい衝動に駆られる。僕は躊躇する。しかし――この恋情は掻き消えそうにもなかった。 「君が家族を大切にしてる気持ちは分かる。いや、家族すら作れなかった俺には本当の意味では理解出来ないのかもしれない。でもごめん。僕は君を放せそうにないよ」  ラグノーは意外と強情だ。こうと決めたら曲げもせず、真っ直ぐに突き進む。 「だから僕に――君を奪わせて」  ぞくりとする流し目で見られれば、僕には抵抗など出来ないことを、彼はもしや知っているのではないだろうか。腰を支えるように彼に支えられて手を取られる。 「君を不幸にはしない。絶対に」  そんな言葉を耳元で囁かれる。いつの間にこんなに男前になったのだろうか。僕の知らない間に変わったラグノー。僕が恋情を無くしていた間も僕を一途に想い続けたラグノーに、僕は感極まった。  ラグノーか妻か。そんな選択肢を与えられれば、答えは決まっている。その答えに僕は自身を薄情な人間だと思った。 「さぁ、行こう」  ぎゅっと抱き締められた体温は、最後に触れてからどれぐらい経つのだろうか。触れているというのに恋しく想う。彼に連れ立って僕も走らされる。それは氷降る真昼の逃亡劇。これじゃあ裏切りの確信犯だと思う。離れていく家を見て僕は小さくすみませんと妻に謝った。そこからは一度も振り返ることはなかった。    僕らは走る、遠くどこまでも。氷降る、空の下を。繋いだ手から伝わる、温もりだけを頼りに心を通わせて。       その昔、硝子の国には呪いが掛けられました。好きという思いを一度(ひとたび)口にするだけで、心ごと昇華されてしまうのです。後にはからっぽな感情が残されるだけ。それがなんだったのかを理解はしていても、実感は湧いてきません。確かな記憶はあっても、それは当人には他人事のように感じられてしまうのです。  そんな国で起きた、小さな小さな奇跡。  今、氷の欠片が降る季節。少年だったふたりは成人し、大人としての責任を置き去りにしたまま走り出します。遠い安住の地を目指しながら。そっと片隅に思いをしまい、口には決して出さず、けれど彼らは伝え合います。愛の言葉無く、好きと言う感情を。 〈完〉
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完結済/12話/56,982文字/31
6月5日
海軍将校×海賊船長のお話。
連載中/2話/6,919文字/0
6月13日