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第1話 気まずさ

「…………」 広めのリビングに、食器が擦れ合う音だけが静かに響く。 ……気まずい。非常に気まずい。 俺は今すぐにでもこの場から立ち去りたくて、猛スピードで目の前のカレーを口の中へ流し込んだ。 「白兎(しろと)君、そんなに慌てて食べたら喉に……」 ガチャン! 「ごちそうさま。俺、部屋いくから」 紅羽(くれは)が最後まで言い終える前に、俺はスプーンを皿に投げ入れ、わざと大きい音をさせて遮った。 「白兎君……っ! 待って、良かったらこの後一緒にテレビでも視ない? 面白い番組が……」 服の袖を軽く掴まれた……イラつく……っ 「いい。俺、学校の宿題、あるから」 それだけ言って袖を振り払うと、階段を音を立てて勢い良くかけ上がり、自分の部屋に逃げ込んだ。 バタン! 勢いに任せて部屋のドアを乱暴に閉めると、解放されたような感覚になり、へなへなとその場に座り込んだ。 (もーやだ……っ! ぜんっぜん馴染めない……っ) 俺はもともと人見知りな性格もあって、最近母さんが再婚して一緒に暮らし始めた義理の父と、その息子である大学生の相沢紅羽(あいざわ くれは)に全く馴染めず、毎日不慣れな気遣いと、それによる苛立ちを感じて過ごしている。 そもそも、俺の母さんが離婚を決意するに至ったのは、父さんの浮気が原因だった。 父さんはいつも帰りが遅くて、母さんの作った料理もあまり手をつけず、帰宅後はすぐに寝てしまうことが多かった。 休日もよく出掛けていて、父さんいわく "休日出勤" とのことだったけれど…… 実際には、会社の女の人と会っていたらしい。 その事が発覚したのは、俺が中学一年になった頃だった。 冷めきった夫婦関係にうんざりした母さんは、ついに離婚を決意、俺を連れて家を出ることにした。 母さんは自分も仕事を持っていたから、当分は俺を養えると言って、三年間、とにかく頑張って働いた。 その間に出会った "会社の取引先の人" というのが紅羽のお父さんだった。 母さんが俺に、紅羽とお義父さんを紹介してくれたのが一昨年の夏。 それからトントン拍子に話は進み、家族四人で新たな生活をスタートさせるべく、今年の春には新居まで建ってしまった。 義兄となる紅羽は、四つ年上の現在大学二年生。幼い頃に母親を亡くし、15年間、父親と二人で暮らしていたらしい。 父親は忙しい為、家事全般を紅羽がこなしていたという。しかも、かなり幼い頃から。 そのせいか、初対面の時から気が利いて優しい兄という、まさに好印象だった。 長身でスラッとしており、顔はいわゆるイケメンてやつだ。 実際、紅羽は何か嫌なこともしてこないし、むしろとても気遣ってくれている。 (さっきのだって……) 俺はつい先程の出来事を思い出す。 (振り払って……悪かったかな……) おそらく紅羽は、俺がリビングに行く前に、テレビの番組表を色々調べていたのだろう。 いつもはテレビの横に置かれているリモコンが、さっきはリビングの低いテーブルに、テレビ画面に向けられたまま置かれていたし、紅羽はそういうマメなヤツだと思う。 特に、義弟である俺には気を使っているだろう。だから別に紅羽が嫌いという訳でもない。 多分俺は、どうにも馴染めない自分に苛立っているんだ……。 勿論、ある程度は覚悟していた。見ず知らずの他人と一緒に生活を始めるのだから、最初はこういったストレスもあるだろうと。 でも、こんなにイライラして苦痛に感じるなんて、思ってなかった。 「はぁ……」 俺はため息をついて、ゴロンとベッドに横になった。 (俺はまだ高校一年だし、一人暮らしは無理だよなー……) そんな事を考えながら、ボーッと天井を見つめていると、だんだん眠気が襲ってきた。 「……ん……」 眠い目を擦りながら時計を見ると、まだ八時前。寝るには早過ぎるけど、ちょっとだけ…… そう思いながら、俺は深い眠りに落ちていった――――

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