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第289話 日本酒の力

「ふぅん、キスがいいんだ?」 「う……っだって……紅羽……っ」 勇気を出して言ったのに、からかうように見つめられて、俺は赤くなって俯いた。 「じゃあまずは、白兎君のお口の中からキャラメルフレーバーを取り除かないとね」 「へ……?」 意味がわからず見上げると、くいっと顎を掴まれて上向かされる。そしてそのまま、強引に唇を奪われた。 「ん……っ」 分厚い舌に口腔を犯され、息が上がる。いつもより少し強引なキスは、俺の体の中までも溶かしていく。 「は、ぁ……っんは……」 キスから解放される頃には、俺は頬を蒸気させ、視界は涙で滲んでいた。 「白兎……すごくエッチな顔、してる」 「……っ」 指摘されると意識してしまい、紅羽の視線から逃れようとすれば、両頬を捉えられて前を向かされる。 「だーめ。これから味見するんでしょ?」 そう言って、紅羽はマスカットフレーバーの紅茶を口に含み、すぐに口付けてきた。 「ん、んく……っ」 少しずつ、俺の口の中にマスカットの香りと紅茶が流れ込んでくる。 (わ……マスカット、おいし……) 思いの外マスカットフレーバーが美味しく感じられ、俺は紅羽の襟元を掴み、コクコクと紅茶を飲んでいく。 「んん……」 上手く口移し出来なかった紅茶が、唇の端からツーっと垂れていき、ちょっとエロい気分が増す。 (あ、もうないのかな) 紅茶が流れ込んでこなくなったので、俺は紅羽の唇を舌で割り開くと、微かに残るマスカットの香りを堪能するように舌で口腔を舐め回す。 「ん……白……っ」 「ん、んむ……」 紅羽の僅かに喘ぐ声が聞こえ、そっと唇を離すと、熱を帯びた瞳に捉えられて動けなくなる。 「白兎……キス、エロ過ぎ」 「そ、そんなこと……っ」 頬を染めて謙遜すると、紅羽はため息混じりにクスリと笑みを漏らした。そして、日本酒の瓶を手に取ると、蓋の部分を回して開けた。 「そろそろ、〆に入りたいかな……白兎君がエロ過ぎて、俺そろそろ我慢の限界かも……てことで、少しだけ、()いでくれる?」 「えっ……あ、うん!」 日本酒の瓶を手渡され、目の前にはコップが用意された。瓶はずしりと重みがあり、俺は慎重にコップへと注いでいく。 「あ、そんなもんでいいよ……ありがとう。白兎君の注いでくれた "白兎" 、いただきます」 紅羽は軽くコップを掲げると、そのまま口へ運び、ぐいっと一口飲んだ。 「……ど、どう? "白兎" 」 「ん……あ、わりとスッキリしてて美味しいかも。うん、これはイケる」 そう言って、結構いい速度で "白兎" を飲む紅羽。大丈夫かな……? 少しハラハラしながら見ていると、紅羽はコップに注いだ分の日本酒を全て飲み切ってしまった。 「だ、大丈夫かよ? 日本酒、初めてなんだろ?」 「あー、うん、大丈夫。俺、酒は強いからね」 「まぁ、それならいいけど……」 確かに、今はまだ飲んだばかりだし大丈夫そうではあるけど。 心配していると、紅羽は余程気に入ったのか、 "白兎" の瓶をまじまじと見つめている。どうやら原材料名の書いてあるラベルを見ているようだが…… 「へぇ、硬水で作ると辛口になるってことかな? ね、白兎君、もう少しだけ注いでくれる?」 「ええ……まだ飲むのかよ。本当に大丈夫か?」 「大丈夫だって。これ、すごく美味しいんだよ。白兎君も飲めればなぁ……」 残念そうな笑顔を浮かべつつ、コップを差し出す紅羽。おいおい、なんか心配なんですけど……!? 俺は嫌な予感を覚えつつも、コップに少しだけ "白兎" を注いでやる。すると、紅羽は嬉しそうに、またしてもそれを飲み干す。 「んー、うまい。白兎君、もうちょっと……」 「だ、だめっ! もうやめとけよ、初めてなんだし、危ないかもしれないだろ?」 尚もコップを差し出す紅羽に、俺はピシャリと言って瓶を取り上げる。 「え~、いいじゃん。あと一杯だけ、お願い!」 「だーめー。紅羽になんかあったら、俺嫌だもん」 俺は瓶を抱えたままソファーにうずくまり、紅羽から瓶を死守する。 すると、紅羽の手が伸びてきて、後ろからまったり抱きつかれた。 「白兎ー……お願い……」 「ダメです。つーか……紅羽? もしかして、ちょっと酔ってない?」 嫌な予感が的中しそうで、俺は恐る恐る振り返る。すると、紅羽の熱い息が頬を掠めた。 「んー……白兎ぉ……」 「ちょっ……おい、紅羽!?」 「白兎も、味見……する?」 「えっ!? ちょっ、まっ……んんっ!」 これは明らかに……酔っている!! またしても強引に口付けられると、今度は仄かな日本酒の香りが口に広がった。 (わ……お酒の味、する……っ) これでは俺まで酔ってしまいそうだ。 「ん、はぁっ、く、紅羽、だめ、離せよ……っここリビング……!」 「んー……白兎ー……少しだけ……」 「あっ……!」 抵抗するものの、ぐいっと手首を捕まれて、ソファーに押し倒されてしまった。 しかし、あくまでもここはリビング。母さん達も帰ってくるし、ここでイチャついているのは極めて危険だ。 「紅……んんっ、はぁ……っ」 足をばたつかせてみても、ぎっちり体を押さえ込まれており、無駄な抵抗に終わってしまう。 「ん、はぁ……っだめ、だって……んっ」 いけない、危険だと思いつつ、俺はついドキドキしてしまい、体の力はどんどん抜けていく。 その挙げ句、こんな風にお酒に酔って、強引な紅羽も、ちょっといいかもなんて思ってしまう。 (これ……ヤバい、かも……)
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