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※ ※ ※ 「ち、ちょっと……おにーさん!!何で、俺がうまくあの社長を宥めようとしてんのに――ことごとく邪魔してきたわけ?おかげで……せっかくの金ヅル社長を逃しちゃったじゃんか!!」 「…………」 頭から血のように真っ赤なワインを浴びて、びしょ濡れになっているにも関わらず――【月野】という店員は喚きたてる俺を無視して黙々と未だに床の四方八方に散らばった向日葵を拾い続けている。 (こ、こいつ……巷で人気者で通ってる俺の言葉よりも――ぐしゃぐしゃになった向日葵の方が大事なのかよ……あ~、ムシャクシャする――あの金ヅル社長が出て行っちまった今――まるで、俺がこいつを苛めてるみてぇじゃねえか……つーか、体くらい拭けよな……) 明確な理由が何かは分からないものの、無性にムシャクシャしつつ目線を横に逸らすと、まだ使用していなかったタオルが目に入り――軽く舌打ちしてから、すたすたと歩いて行く。 「あのさ、おにーさん……とりあえず――向日葵を拾い上げるのは、このタオルで体を拭いてからにしなよ。それともさ……金ヅル社長を逃した責任……その身で払ってくれてからのどっちかにしてくんない?もし後者なら、さっさとシャワー……浴びてきてくれない?」 「…………」 と、俺が言うや否や――向日葵の花を拾い上げる手をピタリと止めると【月野】はジロッと僅かに戸惑う俺を睨み付けてから――無言ですっくと立ち上がり、部屋の隅にポツンと置かれている電話の方へと歩いていく。 【あ、新人くん……?悪いけど、暫く帰れそうにないんだ。ん、ああ……大丈夫――そんな謝らなくていいよ……うん、店長に伝えてもらってもいいかな……あ、それと……せっかく君が作ってくれた向日葵の花束――訳あってボロボロにしちゃったんだ……うん、ごめんな……この埋め合わせは後でするから……本当にごめんな……】 ガチャンッ……と【月野】が受話器を置いてから、何故か尚一層のことモヤモヤした得たいの知れない感情を抱いた俺は―――此方へ目線も向けずに、真っ直ぐとシャワールームへと向かうヤツの背中をジッと睨み付けるように見つめるのだった。
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