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※ ※ ※ (あ~……腰が痛い……やっと――家に帰れる……でも、家には……っ……) よろ、よろとした足取りでトイレ内の個室から出て行く。【月野】は行為を終えると――そのまま無言で先に出て行ってしまった。まったく、余韻もムードもへったくれもない――つまらない男だ。 と、その時―― どこからか――視線を感じた……ような気がした。先ほどまでしていた卑猥な月野との行為の事を考えて不安に感じた俺は慌てて全部の個室に誰かいないか確認する。 しかし、誰もいない――。 (良かった……気のせいか――じゃあ、帰りたくねえけど……家に帰るか……日比野マネも……待ってるだろうし……仕方ねえな) 憂鬱そうに、ため息をひとつ吐くと――そのままトイレを後にして首を長くして俺を待っているであろう日比野マネの所へと戻って行くのだった。 ※ ※ ※ 「た、ただいま……」 家に着くなり――弱々しく蚊の鳴くような声で挨拶する俺。 俺の実家は、それなりに繁盛しているケーキ屋だ。 だから、昼間は両親達は大抵店の方にいるため今の時間帯は比較的静かなのだが――、 「にいたん、おかえり!!」 「お兄ちゃん、おそーい!!」 一番下の妹と二番目の妹である花と紫が家の中から俺を待ちわびるようにして勢いよく飛び出してきた。 「よしよし、ただいま……花、それに……紫……あれ――」 「陽なら、いないよ……お兄ちゃん」 紫のその言葉を耳にして――安堵してしまう俺。俺は、どうしても双子の弟である陽とは顔を合わせたくない事情があるのだ。 (そうか……よかっ……た……) ――トン……トン、トン…… と、そんな俺の期待を裏切るかのように――ふいに階段から俺が一番会いたくない双子の弟である陽が、気だるげな顔をしつつ嫌がらせの如く絶妙なタイミングで降りてくるのだった。 「…………」 「…………」 一瞬にして、廊下中を沈黙が包み込む――。 陽も陽で――俺をひと目見るなり、眉を潜めてからサッと目線を逸らす始末。ある事があってから、俺と陽の関係は――ずっと、こんな感じで気まずいのだ。
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