67 / 68

◇67◇

花屋の店長がホカホカと湯気がたっているお粥を持ちながら部屋に入ってきた。てっきり、満月かと思っていた俺は少し緊張しつつも―――ゆっくりと身を起こす。 「あ、あの…………」 「あ、あんまり起き上がらない方がいいよ。月野くんから君な看病を任されてね……月野くんが戻ってくるまでは―――ぼくが面倒を見てあげよう。それにしても夢みたいだな―――アイドルの乙哉が目の前にいるなんて……」 ほとんど初めて店長と話す俺はガチガチに緊張しながらホカホカと湯気をたてているお粥にチラッと目を向けた。風邪を引いていても、腹は減るもんだな―――と思った途端「ぐぅぅー……きゅるる……」とタイミングがいいのか悪いのか腹が鳴ってしまい、あまりの恥ずかしさから慌てて真っ赤に染まった頬を隠すようにして布団を頭まで被ってしまう。 ―――今、目の前にいる相手が親しくなりかけている【月野】や【満月】ならばともかくとして、会話すらしなれていない花屋の店長に腹が鳴っている音を聞かれてしまい穴があったら入りたいと思える程に頭の中が羞恥心でいっぱいになった。 「あはは……お腹がすいてたんだね。お粥なんて久しぶりに作ったから味は保障できないけど―――はい、めしあがれ?」 「……んっ…………んむっ……お、美味しい……です……」 「それは良かった―――本当は満月くんが君のためにお粥を作るって張り切ってたんだけど……ちょっと悲しいことがあったみたいで泣きつかれて眠っちゃってね……ぼくが代わりに作ったんだ……さあ、あとは無理しない方がいい……安心して、お眠り?」 ふわり、と店長が身に纏っている香水の香りが辺りに漂う。おそらく、ラベンダーの香りだろう。 その店長の言葉通り―――俺はお粥を食べて割とすぐに強い眠気に襲われてしまい、その後店長が身に纏っているラベンダーの香りを嗅ぎつつも深い眠りの世界へと誘われるのだった。
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!