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第1話つまらない男

 マンションの管理会社で働く俺は、夜逃げした部屋の撤去作業の立ち合いにきていた。本来は休みの日にもかかわらず、わざわざこんな暑い日にスーツを着ている。まぁ、立ち合いといっても、少しだけ撤去業者と顔を合わせるだけで、あとは作業終了後に最終チェックをするだけだ。  エレベーターのボタンを押したが、なかなか上がってこない。一階で作業員が荷物を下ろしているのだろう。階段もあるが、俺は待つことにした。別に急ぐ予定もないからだ。  ガラス越しに自分の姿が映る。  無駄に背が高くて、自分で言うのもなんだが強面で、つまらなさそうな顔をしていた。  杉岡唯史、三十二歳。  生まれてから今まで、特別何かに心を動かされたことはない。  先月、三年間付き合って同棲もしていた彼女に「私たち別れましょう。私、最近唯史といても楽しいって思えないの。それに唯史だって、いつもつまらなさそうな顔してるでしょ」と言われてしまった。  彼女はよく笑い、よく泣く人だった。  日常のちょっとしたことでお腹を抱えて笑い、安っぽいドラマによく泣いた。俺はそんな彼女を見ているだけで十分だった。  でも彼女は違ったんだろう。  一緒に笑ったり泣いたりしてほしかったんだろうと思う。  エレベーターがやっと上がってきた。扉が開き、備え付けの鏡に自分の姿が映ると彼女の言葉に納得する。  俺は、つまらない男だ。
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