7 / 11

第7話

 この日は家族で観光に出ることに決まっていた。 家族で出かけている間も、観光はそこそこになぜか頭の中には佐倉が居座っている。 肩を貸してもらった時の香りや触れられた場所の感触、惜しみなく注がれる微笑。 優しさの全ては営業用とはわかっている。 わかっているのに。  ーー惚れたのか?  ついにそんな台詞までが脳内に浮かび上がった。  早まるな。 失恋したてで、次を早く見つけたいのはわかる。 けど落ち着いて考えろ。 今までに好きになったタイプと全然違うぞ? お前の好みは守ってあげたくなるような可愛らしい子だろ?  涼司は自分自身を説き伏せていた。  明日。 どうせ明日にはもう会えなくなる相手。 スキー場や海で出会うとかっこよく見える、あれみたいなもんだ。 次を探すのは、大阪に戻ってからだ。  その日の夜は、ホテルの近くの神社で祭りがあるらしく、ホテルの中でも大々的に宣伝されていたし、祭りムードに乗っかって、ロビーの一角に屋台が出たりもしている。  行くつもりのなかった涼司だが、朋子に引っ張られて結局神社に足を運んでいた。  いつの間にやら陽はとっぷりと暮れて、花火大会開始が近いアナウンスが流れた。人々は花火が見える場所へと流れて行く。  さして興味もない涼司は引き続き屋台の辺りを彷徨い、ビール片手に串刺しの唐揚げを齧っていた。  もう部屋に戻ろうとホテルに向かう途中、少し脇道に逸れたところに従業員の駐車場らしきものがあり、そこで思わず涼司は足を止めた。  視界を遮るものは何もなく、大輪の花火がまるで涼司のためだけに打ち上げられているかのように目に飛び込んできた。 「きっれー…」  興味はなくともさすがに見とれる圧倒のスケールと視界の素晴らしさ。  ああ、アイツにも見せてやりたかった。 絶対好きだろ、アイツこういうの。 一緒に見たかったな。 今頃仲良くやってんのかな…  何年と忘れていた、頬に熱いものが伝う感触。 泣いてんの? 自分でも驚いた。  案外思い切り泣いたら、サッパリ吹っ切れるかも。  ただ花火を眺めながら呆然と、溢れるに任せて、涙を流し続けていた。 気が済むまで泣いたら、次に行けるはず…。 「ここを見つけられるとは流石ですね」  その声にはっと振り向くと、やはり。 「…」  さすがの佐倉も絶句している。 目の前で、大の男が、涙でぐしゃぐしゃになっているのだから。 「…ここは一部の人しか知らない、花火鑑賞の穴場スポットなんですよ」  すぐにいつもの佐倉に戻り、にこやかに話題を振ってくる。まるで何も見ていないかのように。 「副支配人さん」 「何でしょうか」 「客の頼みなら何でもきいてくれんの?」 「可能な範囲なら何なりと」 「…じゃ、そのままおってくれる?」 「…?はい」  佐倉の肩に、コテンと涼司の額が乗った。 「しばらくまた、肩貸して」 「…承知いたしました」  実際、立っているのも辛かった。 佐倉が来なければ、この場で大の字になって泣いていたかもしれない。  しばし声を殺して涙を流した後、鼻をすすりながらゆっくりと顔を上げた。 「…ありがとう。もう大丈夫」  まだ詰まっている鼻がグスッと鳴る。 「いえ。少し落ち着かれましたか」  柔らかな笑顔が向けられる。 鼻腔をくすぐる、ほんのわずかな煙草と香水の匂い。 周囲は闇に包まれ静まり返り、時折花火の音だけが響き渡る。 「もいっこ、頼んでいい?」 「ええ」  正直、雰囲気に流された感もなきにしもあらず。 「…キスしたい」
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!