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前編 29 変わる風景

「ん、おい、サワ」 「んー?」  振り返ったサワの頬を、指でぐいぐい拭いてやる。真っ赤な絵の具が、頬に線を引いていた。 「んー? 落ちねぇな。これペンキか?」 「うへぇ、マジ?」  サワはそう言いながらも、顔が笑っている。  お化け屋敷に決まったとき、喚いて嫌がったサワだったが、驚かす方は怖くないと気づいたらしい。  なんだかんだ言いつつ、楽しそうだ。  人見知りと潔癖のせいで、中学ではあまり共同作業に参加しなかった。 「今日、四組で衣装合わせしててさ」  圭介が板を釘で打ちながら喋る。 「ヒロが、例のメイド服着てたんだけど」 「うっは、見に行けばよかった」 「手にハサミ持って睨んでるから怖かった」 「俺はアイツにメイド服着せた女子のが恐い」  サワの言葉に、最もだと頷いた。 「長谷部も居た?」 「居た居た。黒髪ロングのヅラ被ってさ。超美人」 「ーーーメガネ、外さないでって言ったのに……」  ぶすっと唇を尖らせて、サワが小さく呟いた。  嫉妬して顔を曇らせるサワを見て、不思議と胸がざわつかなかった。 「当日、ぜってー見に行こ。マジウケる」 「俺も行く!」  騒ぐサワと圭介を見ながら、俺は不可解な胸のうちに、首を捻った。
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