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「お…お…、起きてんじゃねえよ!」  俺は手近にあったものを、ベッドの上にいる男に向けて投げた。投げた後に、「しまった!」と後悔をした。  だって、俺が投げたものは、穿こうとしていたジーパンだったからだ。俺のジーパンは、男の足元で失速してぼとりとベッドの上で落ち着いた。  全然、届いてねえし。  男の漆黒の鋭い瞳が、ジーパンから俺に向いた。  がたいの良い身体は、筋肉隆々で、同じ男としてなんかむかついた。  なに、無駄に鍛えてんだよって気がして、見ているだけでイラつく。イラつくけど、綺麗な身体に視線が奪われてしまうのも事実だ。  ホント、むかつく。悪代官のおっさんのくせに! 「お前は朝からテンションが高いのだな」 「はあ? 昼夜問わず、テンションの低い低血圧なおっさんに言われたくねえよ」 「それだけ元気なら、良い」 「はあ? 意味わかんねえ…てか、ここ、どこだよ」 「寝室だ」 「んなのは、いいんだよ。場所を聞いてんの。帰りたくても、どこにいるんだかわかねえんじゃ帰れねえっつうの」 「島」 「ああ?」 「だから島だ。人工島に作った私の別荘だ」 「島だあ? 一人で帰れねえじゃねえかよ」 「一人で帰れると思ったのか?」  男の言葉に、俺はぽかんと口を開けたまま硬直した。  一人で帰らねえで、誰と帰れっつうんだよ! 「おま…何考えてんだよ」 「静かなところで話がしたいと言ったのはお前だ」 「ああ、言った! 確かに言った。それは覚えている。あんたの会社に乗り込んで、社長室とやらにお邪魔してやったさ」 「お前の要望に応えた」 「監禁か?」 「監禁をしてどうする? お前にそんな価値はない。監禁して得られる利益など、お前に一銭もない」 「ぬぅわぁに! 俺をバカにしているのか?」 「正直に答えたまでだ。それに記憶が無いからって、人のせいにするな」 「は? なんで俺に記憶がないってわかるんだよ。勘違いも甚だしいっつうの」 「そうか。てっきり記憶がなくて、俺に八つ当たりしているのかと思っていた。記憶があるなら、良い。ここに来る道中、ジェット機内で酔って気を失い、目が覚めたと思ったら水を酒と間違えて、酔っぱらい…醜態を晒したのをわざわざ私の口から言うまでもない」 「…んだと!」  男がにやりと笑って、俺に勝ち誇ったような笑みを見せた。  俺に記憶がないと確信を持っていやがってて、俺に嫌味連発しやがって。  この悪代官魔人がっ。 「男が男に抱かれて善がって。それが醜態を晒したと言わないのなら、なんと言えばいいのか。私にはわからん」 「言わせておけば! 醜態を晒した男を抱いたのはどこの誰でしょうねえ。は? 俺には目の前にいる男だと思うんですけどぉ?」 「お前はなかなか可愛かった」  昨日の出来事を思い出したのか…男が幸せそうに微笑んだ。 「…な、何を言ってるんだ、このボケ茄子!」 「まあ、良い」と男は呟くと、ベッドのわきにある棚に手を伸ばした。  白い電話の子機を手に取ると、短縮ダイヤルで誰かに電話をかけ始めた。  何が、『まあ、良い』だよ。意味がわかねえんよ。  俺は目にかかる前髪を掻き上げると、『ちっ』と舌打ちをした。

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