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第八話『 優しいサディスト 』 上

「へぇ、例の“もんちゃん”に会ったんだ」 「うん」 「どうたった?」 「なんか、イメージと違った」  ほどよく空調の効いた室内で、美鶴(みつる)を前後で挟むようにして座った二人の幼馴染はふとそんな言葉を交わしていた。  そのうちの一人はその日の放課後、美鶴のルームメイトである"もんちゃん"こと瑞季(みずき)と初対面を交わした真智(まち)だ。  真智は美鶴の前を陣取り、美鶴と向かい合うようにしてもう一人の幼馴染と話している。  その日、美鶴と真智は、彼らの良く知るもう一人の幼馴染の家に遊びに来ていた。その幼馴染の彼は、短髪を深緑色に染め上げており、高校生らしからぬ体つきをしている。  そんな彼に真智が漏らした瑞季の第一印象に、美鶴は弱々しいながらおかしそうに笑ったのだった。 ― 虹色月見草-円環依存型ARC-ツキクサイロ篇-Ⅰ❖第八話『優しいサディスト』 ― 「真智(まち)……、もんちゃんの事、どんな人だと思ってたの?」  少しだけ呼吸を乱し始めた美鶴(みつる)は真智に尋ねる。 「う~ん、もっと無神経そうな奴かなって」 「あ、はは……――っ」  真智の言葉を聞くなり美鶴はまた短く笑ったが、その後すぐに眉根を寄せ、息を詰まらせた。 「実際はどうだったわけ?」  そんな美鶴を、背後から支えるようにもたれかからせている大柄な彼は、また楽しそうにしながら真智に問うた。  この、釣り目がちな糸目で優しげな表情を作っている彼は、(いちじく)洋介(ようすけ)という。彼もまた美鶴にとってのかけがえのない幼馴染の一人で、真智と同じく鷹ノ宮(たかのみや)高校の生徒だ。 「そ~だな~、俺はちょっと話したくらいだったけど、普通に良い人そうな感じだったな。――美鶴が言ってた“優しい人”っていうのも、確かにって思った」 「なるほどね――ん、そっち、もういいんじゃない」  話の途中ではあったが、洋介はそこで気付いたようにそう言った。 「あぁ、だな」  そして、それに対し真智が頷くと、洋介は美鶴の体をそっとそのまま横たえるようにした。  そうして横たえられた美鶴はすでにくったりとしていたのだが、真智の指が離れた後も、まだ度々身体をびくつかせては小さく声を漏らしていた。  そこで、そんな様子を楽しそうに眺めていた洋介は、すっと美鶴から身を離す。そして、真智はそれとは逆に更に美鶴に身を寄せ、そっと腰を押してつけるようにして美鶴にひとつ口づけた。  すると、美鶴もまたそれに応えるように真智の唇を食んでは、艶っぽい吐息を零す。 「なんつぅか……基本的な人当たりは洋介に似てるかもな。――ま、サディストな部分を抜いてだけど」  会話の続きであろうそんな事を言いながら、熱のこもったそれを美鶴の中に深く収めた真智が、その中を味わう様にゆっくりと腰を揺らす。それにじんわりとした刺激を受け、身体を反応させた美鶴は思わず高めの声を漏らす。  真智はその様子に目を細め、次いで美鶴の首筋に舌を這わせは軽く己の八重歯をあてがう。真智の八重歯は一般的な人のそれよりもやや鋭利だ。美鶴はその歯で肌をなぞられるのに弱い。  そのように首筋からも腹の底からも性感帯を刺激された美鶴は、それからただ駄々をこねるような嬌声を部屋に響かせていた。 「なるほどねぇ……」  そして洋介はといえば、その二人の艶めかしい様子を、同じベッドの上で随分と満足気に眺めていた。洋介は、自身が交わりに加わるのももちろん好きだが、この二人がこうして交わっている様子を見るのも好きだった。 「――“もんちゃん”にはサディストな部分が感じられなかったわけだ」 「ん、まったく――ッ……おい洋介」 「ん?」  ゆったりと動かしていた腰をぴくりと反応させるなり、真智は不満げな表情で背後を振り返った。  洋介はその表情に対してほがらかな笑みを浮かべて首を傾げてみせる。 「“ん?” じゃねぇ、何してんだよ」 「何って……ナニ」 「うっせぇわ……ッ……」  そして、問答無用で洋介に腰を抑えられた真智は、これまでなんとなくそこを隠していたワイシャツを捲られては、洋介の指で後ろをなぞり上げられた。  いつのまにこんな身体になってしまったのか。真智はそれだけで腰から力が抜ける自分の体に落胆のため息を零した。  だが、洋介はと言えばそんな真智の心境などお構いなしに、今度はそこに少しひんやりとしたものを垂らし、それを擦り込むようにして真智を更に刺激する。 「あは、真智、もう諦めなって。洋ちゃん、最初からその気だったから」 「は、ぁ……だったら行動に移す前に言えよ――って美鶴、コラ」 「ん~?」 「離しなさい」 「ふふ、や~だよ」  徐々に呼吸を乱しつつある真智の首に腕を回し、彼を緩い拘束状態にした美鶴は満足そうにそう言った。そして今度は美鶴から真智の唇を食む。  すると、思わず漏れ出しそうになる声を耐えているらしい真智も、それに応えるようにキスを返す。そうして何度か角度を変えながら唇を重ねては舌を絡め合う中、真智の体が示す反応は徐々に大きくなっていった。  洋介の指で内側をなぞり上げられる度に、真智の腰は大きく揺れる。その度に美鶴の中にあるそれが、とろけきった奥を抉り上げては彼を刺激する。  そうして“次の段階”の為に真智の身体が解されてゆく中、真智はついに前後からの刺激に耐え切れず美鶴の肩口に顔をうずめた。 「はっ、あ……深……、真智の声やば……脳みそおかしくなりそ……」 「ん……うっせ……」  そうして肩口に顔をうずめた真智が耐え切れずに声を漏らす度、美鶴の聴覚が刺激される。だが、それは真智も同じだった。  真智が腰を跳ねさせればそれで同時に美鶴を深く貫く事になり、その刺激により溢れ出た美鶴の嬌声は、真智の耳のすぐそばに零れ落ちてくるのだ。 「……ッ」 「ほら真智、息詰めない」 「あっ、あ˝……そんなん、むり……」 「洋ちゃ……待っ……も、奥、だめだから、ぁ……っ」  大柄な洋介らしいそれで押し入られている真智が、耐え切れずに洋介から逃げるようにして美鶴に腰を押し付ける。すると、そのせいで真智に更に奥まで入り込まれるような状態になった美鶴が、真智と同じように洋介に一時の制止を懇願した。  だが洋介は、それに目を細めるようにしただけで動きをやめようとはしなかった。  洋介にとって、このような彼らの言葉は、自分たちが得ている快楽を声高らかに示されているようなものだったからだ。強請るような嬌声をあげながら、嫌だ駄目だと言われても、その顔や体の有様を見ればやめる必要などないと分かる。それにそんな様子で制止を懇願されても、洋介の情欲を焚きつけようとしているようにしか感じない。  美鶴は艶っぽい声を漏らしては濡れた瞳でこちらを見上げてくるし、真智はといえば顔は見えないものの色白な肌を赤らめ、熱く蕩けきった中で洋介を締め上げてくる。そんな歓迎を受けては、攻め立てる事をやめられるはずがない。  これがサディストと呼ばれる一因であろうことは洋介も自覚しているが、それについてはまったくマイナスに感じたことはない。 「うん、いいね」  洋介は真智の中にすべてを収めたところで、その深く低い声で満足そうにそう呟いた。そして、相変らず楽しそうな様子で、ゆったりと二人を味わい始めた。  そんな洋介の声はもう聞こえていないのであろう二人は、熱に絡め取られた身体を何度も跳ねさせては対処のしようのない激しい快楽の波に呑まれ、その後の時間を過ごしたのであった。      

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