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「俺が言える立場じゃないけど、本当に強情だよな。」 「はは…強情っていうか、嘘は無いと思うよ。事実だよ。」 あの有史は、強がっているようには見えないのだ。 やけに冷静に対処する有史のあの目を見ると、僕なんてもういらないと訴えているようにも見えたのだ。 「……え?嘘、恭、君?」 二人で足を止めて喋っていると背後から女性の声が聞こえて振り向く。 「え…?有史の、お母さん?」 昔とは変わらずに可憐で小柄で昔よりか髪が伸びている有史のお母さんの姿だった。 隣に居た皇も吃驚して、え、と声を上げていた。 僕が声を発すると確信して目を大きくして満面の笑みを浮かべた。 「吃驚した~!偶然!元気だった?久し振りね!小学生振りよね?有史と同じ学校だったのね?あの子何も言わないから~。」 「お久しぶりです!吃驚しました…!!元気そうで何よりです。はい、同じ学校です。…あの、僕何も挨拶出来ずに転校してしまってすみませんでした。」 「いいのいいの。あの後お母さんにも会えてしかも挨拶もしてくれたんだから。気にしないで。あの子ね、分かりやすい程家で落ち込んでたのよ。」 「…そうですか。」 有史のお母さんと僕のお母さんは近所という事もあって仲が良かった。 特に有史のお母さんは優しくて外で会うと優しく声を掛けてくれて、いつもお菓子をくれたりしていたのだ。 「けどねー。次はあの子の番だなんて。だから偶然でも今日会えて良かったのかも。」 有史のお母さんは笑い終えると何処か遠くを見て寂しそうに呟く。 僕と皇は同じタイミングで目が合い、小さく呟いたその言葉に変な汗が出た。 「…あの、何の話ですか?」 「…聞いてないの?嘘でしょ、去年から決まっていた話だったんだけど、私から言うのも変な話だけど、転校するのよ。」 時が止まり、声が詰まる。 てんこう? 今転校って言ったよね? …有史が、転校するの? いつから?いつ決まったの?何で?僕の所為? 嘘だろ? 信じられなくて目を見開く事も忘れてしまった。 「いやだ、本当に言ってなかったんだ。ごめんね、私から話す事になっちゃって。卒業してからアメリカの大学に行く予定だったんだけどね、有史が行きたい学科のコースに入るには必須科目が多くて…って恭君!?」 「…ぅっ…っ」 有史のお母さんからそう呟かれた瞬間、心で押さえ付けて溢れないように我慢していた何かが溢れだした。 声を押し殺せないくて、どんどん目から涙が溢れてくる。 未だに信じたくないのに有史のお母さんの説明を聞けば聞くほど核心を突いていく。 何で有史のお母さんが学校に居るんだろうと思うと、より事実なんだと実感して色んな感情の我慢が出来なかった。 転校先がアメリカというワードだけでも、これこそ本当に有史との距離が離れて一生会う事は無いんだと思ってしまった。 本当に本当に離れてしまうんだ。 皇の顔も有史のお母さんの顔も見えないくらい目の前が涙でいっぱいになる。 有史のお母さんが肩を掴んで泣く僕を宥めるように頬に手を添えてきた。 「恭君泣かないで。ごめんね、あの馬鹿は何で友達に話さないかな~。」 「うっ、…っ、す、みませっ」 どうしていいのかもう分からない。 どんな理由であれ、有史が僕に言わないのはどうでもいいからという理由しか思い付かない思考にしか辿り着けない。 さっき有史のお母さんは僕が転校した時は有史は落ち込んでいたと言っていたけど、その気持ちが今痛いほど分かってしまう。 涙を止めたい、二人は絶対に困っている。 どうにか止めたくて顔を手で涙を拭っていると拭う手を引っ張られた。 「…こ、う?」 「有史のお母さん、すみません。話し途中突然で申し訳ありませんが、恭を少しお借りしますね?」 「あら?え、えぇ。構わないけど…?」 有史のお母さんもきょとんとした顔で僕から手を引く。 皇が僕の手を掴んでその時初めて皇の顔を見上げる。 少し笑みを浮かべて有史のお母さんを見るとそのまま僕を見下ろした。 「ノアに会いに行こう。」 「え…っ、えぇ?」 皇が有史のお母さんに一礼し、手を引かれて早歩きで寮の方へ歩き出した。 「こ…!こう、まって」 泣き途中だったからか上手く話せない。 会いに行くって、こんな気持ちが整っていないぐちゃぐちゃな気持ちで会おうなんて言い出す皇に戸惑いを隠せない。 そして今まで会えなかったのにどうやって会うんだと言う気持ちも同時に来る。 そして今日なんて有史は体調を崩していると言っていたし。 すると皇は僕を見ずにスマホを取り出し耳に当てた。 「…」 少し経って切ると、また掛け直す。 一体誰に掛けているのだろうとドキドキしながら無理矢理足を動かしている状態だ。 寮内に僕の部屋を通り越してどんどん突き進んでいく。 「…あ、出た。もしもし?俺今恭と一緒に部屋に居るんだけど、今から抱くから。恭が喚こうが嫌がろうがもう俺我慢しないから。これが最後だ。それが嫌なら今すぐ俺の寮に来て。」 「え!?」 皇は直ぐに言いたい事だけを言うと電話を切った。 皇らしくない淡々とした発言に涙が引っ込み次は汗がジワジワと出てきた。 足取りが重くなるが皇は全く止めようともしなく、遂に皇の部屋に着いた。 着いた途端慣れた手つきで鍵を開けて入ると「靴を脱いで」と急かされ靴を脱がされる。 「・・・ちょっ、と待って、皇!何の話?今の電話って」 「ノアだよ。恭、大丈夫。何もしないから。ここまでしないと来ないっしょ。」 そう言うと靴を脱いだ僕の手を引っ張り部屋の中に無理に連れていかれるとベッドに投げ出された。 「わっ、…皇!」 「恭、あのさ。」 僕を押し倒すと皇は自分のネクタイを軽く緩めた。 薄暗く外の明かりだけが洩れる光に照らされるこの雰囲気と、何を考えているのか分からない皇に急に怖くなり胸を押し返そうとすると皇はやけに冷静に呟く。 「…俺、恭の事も大好きなのは本当だよ。“これ”見た時嫉妬したし。けどそれってどっちに嫉妬してたか未だに分からない。どちらも失いたくない時ってどうしたらいいんだろうな。」 静かな部屋に皇の声が響く。 これと言いながら僕のネクタイを緩めて鎖骨まで剥くと前と同じ様に有史につけられたキスマークの痕があった所を人差し指で触る。 よく分からない状況の中、‟恭の事も”という言葉が耳に残る。 僕の事も大好き?どちらも失いたくない? も、って事は…他に誰かいるって言う事?
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