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第3話 第一章 1、ジルの日常①

「今日の魔法の授業は、『地』だろう?」 「ああ、俺の得意魔法だから、楽勝だぜ!」 「あいつは、今日も見学か?」 「だって、属性が未だないんだろ? なんの為にここに来ているんだか」  ジルは、学友の嘲笑を耳にしながら受け流す。  気にしない、気にしない。だって本当のことだもの。  本やノートを鞄にしまい、歩き出した。すると、その先にスッと足を出され、勢いよく転んだ。 「ハッハッハッ! まじドンくせ~奴!」 「さすが無属性だな!」 「……」  派手に転んでしまい、恥ずかしいやら痛いやらで、ジルはノロノロと起き上がった。 「そんなのも察知出来ないんじゃ、先が思いやられるな」 「……」  学友たちの嘲笑を背に受け、俯いて部屋を出た。  この魔法学園は全寮制。そして、属性や能力毎にクラス分けされていた。  優秀な者から特A(全てに於いて優れている者・光)から順に、A(火)、B(風)、C(水)E(地)F(Ω性が主、また、その他)に分けられており、勿論ジルはFクラスだった。  Fクラスでも、ジル以外は何らかの属性があり、肩身の狭い思いは否めなかった。  主にΩは体力的にも劣る者が多いためか、F(その他)クラス集中していた。地属性の者も少数いたが、体力的なことを考慮し、F(その他)クラスに配置されていた。  Ωはこの学園では、Cクラスに少数とFクラスに大半が配置されており、無属性のジルはΩの中でも異質な立場であった。  ジルは、ある教室に向かっていた。そこは特Fクラス。 「先生、入ります」 「ああ、入れ、入れ」 「失礼します」  ここは、ジルの避難場所。魔法の実地授業の時は、この部屋へ来ていた。  この部屋の主はシメオン・ヤニック。魔力では名のあるヤニック家の番のいるαである。ジルの事情を知っており、ジルが入学してから、こうして彼の居場所となっていた。  シメオンにもΩの番がおり、Ωとしてのジルの立場や、属性がなく居場所がないであろう彼の立場を理解し、保護していた。 「さあ、今日はジルも実地の練習をしようか」 「はい、お願いします」  ジルはΩであり、属性もない。ジルの身を守る方法は唯一武器だった。しかしΩ故、いくら体を鍛えても筋力がつかなかった。そこでジルが考えたのが、短剣だった。針も同様に投擲として練習をしていた。  シメオンはそれを評価し、更にジルが実践で活かせるよう工夫し練習させていた。  番がいればここまでしなくとも、番のαが守ってくれるだろう。しかし、現在のジルには番の相手と出会っておらず、現状では自分の身は自分で守らなくてはならないと判断していた。  αは大半が2~3属性があり、特に優秀な能力を誇っていた。  βは主に1属性があり、優秀な者は2属性ある者もいた。  Ωは主に水や土属性が多く、1属性が多い。  しかし、Ωの半数以下ではあるが無属性の者もいた。ジルが無属性でも、Ω故仕方のない事だった。  ここ、中心部ではほとんど魔獣は出没してはいないが、郊外では頻繁に出没している。ジルの今後を知っているシメオンとしては、自身の番が同じ状況だったらと思うと、放っておけなかった。少しでもジルが生きやすくあるために、護身術は身につけさせておきたかった。  ジルは幼い頃より、短剣を使って投擲の練習をしていた。勿論自身が思いつくいろいろな方法で、属性が現れるように練習をしてきた。投擲にしろ、属性の練習にしろ、全て独学だったため、偏りがあった。それをシメオンは修正するという方法で指導していた。  ジルは悲観するだけでなく、自身が成しえる事を必然とし励んでいた。 「ジル、手首に負荷がかかり過ぎだ。もし集団で襲われたら素早さで負けるぞ」 「はい。癖になっちゃったんですかね。まずいな」 「投げる瞬間に僅かに手首を捻っているんだ。真っ直ぐ投げろ」 「はい。もう一度お願いします」  暫く二人は投擲の練習に励んだ。  投擲の練習の後は、ジルだけが必要であろう、庶民の暮らしについてのレクチャーだった。いないものとして扱われていたとはいえ、ジルは名のある家の出身である。その為庶民の暮らしを知らなかった。近い将来、いずれここを出なくてはならないジルに、シメオンは実地も兼ねて教えていた。  シメオンは勿論、自身の縁故の仕事場を探すつもりでいる。しかし下積みも必要だと、生きてく術を教えていた勿論属性が現れ、このまま在学できるよう練習も重ねていた。しかし、もうすぐ新学期が始まり、ジルは高等部二年に進級する。ジルの誕生日は半年後。 「シメオン先生。ありがとうございました。またよろしくお願いします」  再び授業に戻るため、ジルはシメオンに挨拶をした。 「ああ、いつでもおいで」 「はい」  特Fとは名ばかりの、シメオンの研究室のこの部屋は、シメオンとジルしか使っていない。ジルの背景を考慮した上層部が、シメオンに相談し緊急措置を取っていた。 「ああそうだ、ジル、転んだら直ぐに手当てするんだよ」  そう言われ、傷にでもなっているのかと自分をチェックするも、傷は見当たらない。 「?」 「ここ、ここ」  シメオンに差されたのは顔。鼻だった。鼻を擦りむいていたのかと恥ずかしくなり、顔を赤らめ、ペコリと頭を下げ退室する。酷い傷ではなさそうだと思い、ハンカチで軽く拭った。恐らくここに来る前の教室で、派手に転んだ時のものかと思う。痛みもないので、そのまま歩き出した。  次の授業は、教室に戻って魔法の講義。いつか属性が現れた時に活かせるよう講義は必須であった。よし! と、気合を入れなおし、教室へ戻って行った。 「でさあ~」  ガラッ。  ジルが扉を開けた途端、静まりかえる教室内。萎えそうになる気持を奮い立たせ、ジルは一歩一歩踏み出した。 「うっわ~! 勉強しても意味のない奴が戻って来ちゃったよ~」 「名家が名折れだよ」 「ハハハッ」  表情を見られないように、俯き気味で自分の席に戻った。クラスメイトたちの気持ちは、分からないでもない。無属性の自分がここにいる意味はないのかもしれない。それは自分でもよく分かっていた。  しかし、ここで学ぶことは、今後の自分に役立つはずだと思い、学べる間は学びたいと思っていた。  ジルは物心ついたときから一人だった。両親はジルをいないものとし、空気のように扱っていた。  幸いにも無属性と分かった産まれた直後に、使用人たちがジルを預かり育ててきた。使用人たちは命じられたので育てることを請け負った。  そして、『親に見捨てられた可哀そうな子』を、育ててあげていた。使用人たちはほぼβで、α家系であるジルの両親の言いつけが全てだった。  親に見捨てられた可哀そうな子へ愛情などはなく、ただただ蔑み哀れみ同情した。主に、その同情した使用人たちの手で世話をしてもらい、ここまで大きくなっていた。  屋敷内に部屋を貰え、自由に過ごしてよかったことは幸いだった。ジルは図書室で本を読むことが出来た。物心ついた頃より、少しずつ字を覚え、本を読み、独学で属性が現れるよう試していた。  例え空気のように扱われていても、属性が出れば認めて貰えると思い、使用人たちに嘲笑われようとも、ジルは一人で試していた。
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