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第7話 5、そういうことか

「ジルは本当はどうしたい?」  ジルはじっとシメオンを見つめた。シメオンも優しげな視線を送る。暫しの沈黙の後、ジルがおずおずと口を開いた。 「……でも、もう半年も残ってない、ですし……」 「残りの時間も頑張るって約束したよね」 「……は、い。でも、もう……」  ジルの目に薄ら涙が浮かび、零れないように視線を上にあげる。 「クラス、変わるか?」 「……」  ジルはふるふると首を振る。 「Fクラスがキツいなら、学園長に相談してもいいぞ」 「……」  ジルはまた首を振った。そして、シパシパと瞬きを繰り返した後、ぽつぽつと話し始める。 「……もう、属性とか、いいです。みんなもそう思ってる。僕だけが拘ってて……シメオン先生にも……迷惑かけて……魔法はもういいです」  シメオンはそれを聞き、リヒトを見た。リヒトは話を聞きながら、最善策を考える。 「……じゃあさ、辞めるのは保留って事で。Fクラスに籍を置いたまま、シメオン先生の部屋で授業受けるってのは?」 「……それじゃあ、シメオン先生の迷惑になります。ただでさえ入り浸っているのに……」  ジルはそう呟いた。 「俺は迷惑じゃないけど? ジルがここでいいなら、ここにおいで」  シメオンは、穏やかに微笑んでいる。 「うん、俺もそれがいいと思う。今すぐ結論は出さなくてもいいんじゃないかな」  リヒトも同意を示す。 「……ありがとうございます。でも、もういいんです。最後まで勝手なことで、すみません……」  ジルは頭を下げた。 「……あのさ、シメオン先生。さっき妙な感覚があったんだけど」  リヒトが話を変え、シメオンは眉をひそめリヒトを見る。 「あ、いや、話を遮る気はなくて。さっきジル先輩と手を繋いでいた時なんだけど、なんかこう、込み上げるものがあってさ」  そりゃ、お前が舞い上がってただけだろうが! と、言いたい気持ちを抑え、シメオンは早く続きを話せとばかりに、冷ややかな視線を向ける。 「シメオン先生、目がコワイから。で、その時なら竜巻じゃなくてハリケーン位出せそうでさ」  シメオンはその言葉に喰いついた。 「それだ!」 「え?」  ジルは驚きの声を上げた。 「リヒトは、風と土と光が得意だな」 「はい」 「光でいくか」 「はい」  リヒトは立ち上がり、窓の外を眺めた後、精神を集中させる。突如空から輝く光が降ってくる。 「ジル、リヒトと手を繋いで」 「……はい」  何が起きるんだ?   そう訝しみながらも、そっと手を繋ぐ。リヒトがぐっと握り返してきた。なんだか恥ずかしくなり、ジルは俯いた。 「ほら、ジル。見てごらん」  すると、先程とは比にならない程の、眩しい位の光が舞い踊っているのが見え、ジルは思わず息を呑んだ。 「リヒト、恥ずかしいから踊るな」 「……すみません」  何のことだか分からないが、確かに先程とは違う様子に、ジルは息を呑んだまま驚愕した。 「リヒトが浮かれているから、光が踊っているが、まあ通常はこのレベルの光は、人ひとりでは出せない。となると、ジルの魔力に関係があるのかもしれないな」  シメオンの言葉に、ジルは更に困惑する。 「僕の魔力? 僕に魔力は……ありませんよ?」  シメオン先生ならご存知ですよねと、心の中でジルは呟いた。 「いや、ジル本人では表せない魔力かもしれないな。人に媒介して発揮するタイプかもしれんぞ。試しに俺とやってみてくれ」  シメオンが窓を開け、水を放ったかと思うと、瞬間氷の塊が宙に浮かんだ。 「手を繋いでくれ」  ジルは、リヒトから手を離し、シメオンの下に行き彼と手を繋いだ。 「……そういうことか」  シメオンの氷には何の変化も見られなかった。 「……シメオン先生、手を離してください」  こめかみをぴくぴくさせ、リヒトが静かに怒りを表す。 「ああ、すまないな。だがもしかするとだが、分かったことがある」  ジルから手を離すと、シメオンはにっこり笑って言った。 「俺もそう思う」  リヒトも賛同する。 「分かった事? ですか」  ジルは困惑のまま尋ねた。 「恐らくだが、ジルの魔力は番の相手の力を増幅させるんだ。だからジル自体に属性はない。番の相手によってジルの属性が変化するんだ。だから俺には効果がない。まあ、恥ずかしい能力って訳だ。ハハハ!」 「シメオン先生、恥ずかしいとか言わないでくださいよ! ラブラブな証拠なんですから」  リヒトが猛反撃をする。 「番の人だけに効果を発揮する? ラブラブ?」  瞬間、ジルはボッと、顔から火を噴いた。 「な、恥ずかしいだろ? 番にだけ発揮するなんて恥ずかしいなあ、ジル!」  そう言いながらからかうも、シメオンは嬉しかった。ジルの努力は無駄ではなかったと感じた。ここまでリヒトの魔力を増幅させることが出来たのは、ジルの今までの努力の賜物以外の何物でもなかった。  やんわりとその事も伝える。ジルはポロポロと泣き出した。すると、リヒトが慌ててジルの涙をハンカチで拭った。暫しの間、三人はそのままで過ごした。 「一先ず学園長には報告をしておく」  ジルが落ち着いた頃に、シメオンが二人に伝える。 「あの、ノベール家には?」 「そのことも学園長に相談しよう」  ジルの事情を知っているシメオンは、そう答えた。そして、今後の話を始める。 「じゃあ、今後はその能力の増幅と性質の強化でいこうか」 「はい。僕辞めなくてもいいんですか?」 「ああ、問題ない。辞めたらリヒトが荒れるぞ」  そう言われ、そっとリヒトを見ると、笑って、うんうんと頷いていた。 「二人は運命の番だ。まあ、さっきのを見れば一目瞭然だがな」  ジルは顔を赤くするも、自分の存在価値が見え嬉しかった。 「リヒトくんは、本当に僕でいいの?」  思わず尋ねると、凄い形相で目をキラキラさせ、両手を取られ、ブンブン上下に振り回される。 「もちろんですよ! ジル先輩は俺の番ですっ! 俺以外の能力の増幅なんて絶対やめてくださいっ!」  リヒトにそう言われるも、ジルの意志で出来る事ではないと思ったが、今は言わなかった。こんなにも自分を認めてくれる人に、わざわざ伝える事ではないと思った。 「ありがとう。よろしくね」  にっこり微笑まれ、リヒトの脳内は先程の光よりも踊りだした。 「はいっ!! 絶対どうしても何がなんでもよろしくお願いしますっ!」 「リヒト、気持ちは分かるが、落ち着け。恥ずかしいぞ」  シメオンが笑いながら言った。  その後、三人は今後の話をしながら別れた。リヒトも一度教室に戻ることとなり二人で教室に向かって歩き出していた。 「ジル先輩、発情期ってきてますか?」  おずおずとリヒトに聞かれ、ジルは首を振って答える。 「まだ、なんだ。シメオン先生は、僕が今、不安定だから来ていないって言っていた」  ホッと顔を緩ませ、リヒトが微笑んで言った。 「じゃあ、もう直ぐきますね。ああ、後でジル先輩の部屋に行ってもいいですか? 渡したいものがあるんです」 「うん。大丈夫だよ。僕の部屋分かる?」  ジルは自分の部屋の説明をすると、リヒトも真剣に聞いていた。 「じゃあ、先輩、また後で」  そう言って、二人は別れた。
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