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第10話 8、幸福と不幸の総量

「お~い、入るぞ~」  ドニスの軽やかな声が聞こえる。慌ててリヒトは、ドニスの脳内へ、『し~っ!』と、メッセージを送る。メッセージが届いたようで、静かにドニスが入ってきた。 「押し倒したのか?」 「違うっ! 疲れて眠っただけだっ!」  ヒソヒソと、静かに二人は話をする。 「……拒まれたのか?」 「拒まれてないっ!」 「……振られたか?」 「違うっ! まだ振られてないっ!」 「……て言うか、この人だろ? 噂の無属性の人」  言い辛そうに、ドニスが話すと、リヒトは、ふんっと威張って、 「それがびっくり、驚きだ! 俺だけの能力を増幅させるんだ」 「お? それは珍しい能力だな。リヒト限定?」 「勿論! 番の俺だけの力だっ!」 「お~、それは番さん、恥ずかしいだろうな。ハハッ」 「恥ずかしくない! 二人で一つなんて幸せじゃないか」 「そりゃそうだな! リヒトの脳内、花畑満開だな」 「おいっ!」 「まあ、でも、オールマイティなリヒトの能力が増幅されれば、怖いものなしだな。後は童貞と脳内花畑をなんとかすりゃ完璧か?」 「確かに……って、おいっ」  親友か悪友か分からない会話を繰り広げながら、さて本題へと、話を進める。 「シメオン先生は、リヒトの飛び級はいいんじゃないかって。学園長に話すから、早ければ早速明日から大丈夫だろうって。番さんもVIP待遇なんだな。番さんの為にの措置だろう?」 「勿論VIPだよ。それを周りが理解してなかっただけだろう?」 「シメオン先生が眼をかけてる時点で、何かあると思うのが普通だろうにな」  ドニスはそう言って笑い、椅子に座って、続ける。 「シメオン先生って、リヒトの兄さんと最強パーティー組んでるんだろ? それ以外は毎日ここで番さんの授業請け負ってる。どう考えても何かあるだろ?」 「見る目がないって、残念な人達って事だよ。もしかすると、ジル先輩の能力は、まだ開花するかもな。俺の中に入ってきた魔力は凄まじいものがあったよ」 「中に魔力が隠ってるだけか。成程ね。じゃあ、リヒトとコラボしたら凄い魔法が完成するかもな! おいおい、こんな面白い話、俺抜きで進めるなよ。パーティーには、俺、入れろよ」 「勿論だよ! ジル先輩とドニスと俺は確定だな。クレスも誘うか? よし、最強パーティー組むぞ!」 「あ~、なんかワクワクしてきたな!」 「ドニスも飛び級すればいいのに。一緒のクラスで策を練ろうぜ!」 「それもありかもな。クレスにも声をかけるよ。よし、シメオン先生に掛け合ってくる!」  そう言うと、ドニスは立ち上がった。 「おう!」  リヒトも立ち上がり、二人は拳を合わせた。 「やってやろうぜ!」  そう言ってドニスはシメオンの下へ急いだ。  静かに話していたとはいえ、それでもジルはスヤスヤと眠っていた。起こすのが可哀そうだなと思いながらも、今の話を伝えたくて、暫し見守った後、ジルを起こすべく、リヒトもベッドに潜り込んだ。  無意識のまますり寄ってくるジルが可愛くて、つい襲ってしまいそうだと思いながら、ジルに声をかける。 「ジル先輩、起きられますか?」 「……」 「ジル先輩、ジル先輩」 「……ん……」 「ジル先輩……ジル」 「……ん」 「ジル、これからはずっと一緒だよ。ジル、大好き」 「……ん」  笑みを浮かべながら、それでも幸せそうに眠るジルを起こせる自信は、リヒトにはなかった。苦笑しながら、何度か声をかける。ジルの額にそっとキスを落とし、片手を体に滑らせる。  俺の番。俺の運命。俺だけのジル。  リヒトはその温もりを噛みしめる。それでも幸せそうに、すやすやとジルは眠っていた。  甘い匂いに誘われ、ジルは少しずつ目を覚ましていた。 『ジル、大好き』 『ジル、可愛い』 『ずっと一緒』 『幸せ』  欲しかった言葉が、ジルの中に次々と溢れてくる。今まで誰からも顧みられることなく、一人で生きてきた。物理的な困りは少なかったが、心は寂しかった。 『人生は幸福と不幸の総量は決まっている』  誰かが、そう言っていた。  幸せな時はずっと続かない。  幸福の後には不幸が待っている。  しかし。  辛いことはずっと続かない。  辛さの後には幸福が待っている。  それは螺旋のように。  学園に入ってシメオン先生と出会い、希望が見えた。  そして今、心を満たしてくれる人に出会えた。  この幸せを失くさないように、しっかり彼について行こうと思った。  そう思いながら、ジルは目を開けた。 「ジル」 「……ん、リヒト、くん」 「あ、起きました? 気持ちよさそうに眠っていたから、起こすのが忍びなかったんですが」 「リヒト、くん。今のままで、いいよ」 「ん?」 「敬語。ない方がいい。ジル、って言って?」 「うっ!」 「え?」 「やばい! 心臓直撃!」 「え?」 「破壊力満載! 了解! ジル」 「え? あ、うん」  二人で笑いあった。気付けば二人で抱き合っていたが、不思議としっくりくる。離れている方が不自然な位、リヒトの傍は居心地が良かった。 「じゃあ、俺もリヒト」 「え?」 「俺、リヒト」 「……うん。リヒト」 「……!」 「え?」 「やばい! やばすぎる!」 「……?」 「うわっ! 俺大丈夫か?」 「大丈夫?」 「……(まじで襲いそう……)!」  暫しの間悶絶していたリヒトだったが、どうにか収まりをつけ、本題に入り、先程の話を伝える。 「そんな事、本当に可能なの? いいのかな?」  心配そうなジルに、リヒトは微笑んで伝える。 「ワクワクするよね! 合体魔法編み出そうね!」 「うん。僕も頑張る!」 「一緒に頑張ろう! なんか目標があるっていいね」 「そうだね。僕にも出来る事があって、嬉しい。リヒト、ありがとう」 「いえいえ、こちらこそ! じゃあ、夕食食べに行こう」  そう言って、二人は名残惜し気に立ち上がり、食堂へ向かった。  食堂では、相変わらずクレールは、取り巻きたちと賑わっていた。さり気なく彼らの視界に入らないようにしていたはずだが、クレールが気付き、こちらへ向かって来た。 「ねえ、リヒトくん、考え直した? やっぱり僕の方がいいでしょ? こっちに来てもいいよ」  ニヤニヤと笑いながら、クレールが話しかけてきた。 「結構しつこいですね。俺は遠慮します。結構です。間に合っています。やめてください。迷惑です」 「!」  リヒトにそこまで言われるとは思っていなかったクレールは、その瞬間憤怒の表情になった。慌てて取り巻きたちが反撃する。 「お前、クレールに何言ってるんだ?」 「信じられないな、お前!」 「そんな態度でいいと思っているのか?」  リヒトは、微笑んで答えた。 「いけませんか? 俺は俺の大事な人を守ります。そちらはそちらで好きにすればいい。但し」  一呼吸おいて、リヒトは表情を変えた。 「ジルに手を出した瞬間、後悔するってこと、忘れないでくださいね。……俺、容赦はしませんから」  一瞬にしてその場の空気が、文字通り凍った。クレールも、取り巻きたちも微動だに出来なかった。息をすることさえも苦痛だった。 「……ジルは俺の番です。そのジルを傷つけるものは、一切の容赦はしませんから」  ジルも息をのんだ。先程までの優しいリヒトは影を潜めていた。やはり彼はαの中のαだと、身をもって感じた。  リヒトの凍りつく空気にあてられないよう、ジルは温かな光に包まれていた。
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