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第12話 10、ジルの魔法?

 楽しい食事が済むと、ジルとリヒトは、リヒトの部屋へ戻った。  ワンルームだが、特Aの部屋とあってなかなか広く間取りが設計されている。バストイレ洗面所完備で、さすがは特Aの部屋だとジルは感心していた。 「ねえ、本当に僕、このまま居座っていいの?」  ジルは念のため、もう一度確認した。 「勿論! 勿論だよっ! この部屋は俺とジルの部屋なんだから」  凄い勢いで言われ、びっくりしたが、ジルはその分嬉しかった。 「ありがとう! 嬉しいよ。僕共同生活ってあんまり経験ないから、失礼な事しちゃったらごめんね」 「いえいえ! 何も失礼なんてないからっ!」  そんな初々しい話をしながら、二人はゆっくりと話をしたり寛いでいた。  その時、トントンと、音がし、一人の青年が入ってきた。 「リヒト、あれから戻ってこないんだもの。探したよ~。って、あれ? 無属性の人? なんでリヒトの部屋に居るの?」  それを聞き、昼間の話が思い出され、思わず立ち上がる。 「おい、シャルル、その言い方は失礼だって言っただろう」  リヒトが窘めるが、シャルルは構わず続ける。 「あのね、僕は真実を言っているだけでしょ? 別に意地悪とか、そんなんじゃなくて」 「すみません! 勝手に入って、すみませんでした。あ、リヒト、くん。ごめんね!」  脱兎のごとく、ジルは駆け出した。 「ジル! ああもうっ! シャルル、お前その言い方何とかしろ!」  リヒトが追いかけようとするも、またもシャルルはリヒトに絡み付いた。 「ええ~? 何? その言い方! むかつく!」 「むかつくのはこっちだ! あ~もう! とにかく離せっ!」 「だ~めっ! 話。話があるから、座って」 「座ってじゃねえよ! とにかく離せ!」  そうこうしながらも、シャルルはリヒトを離さなかった。  ジルは寄宿舎内を走っていた。いつもの投擲の練習場として使っている裏庭へ向かった。 「はあ……」  やっぱり、リヒトくんは無理して、あの部屋に居させてくれたんだ……。  申し訳ないこと、しちゃったな。  荷物はまた取りに戻ろう……。  ジルはそう思い、いつもの大木の下に蹲った。今日はなんだか色々ありすぎて、疲れてしまった。  幸せだと思えた瞬間もあった。  思い出として、胸に残しておこう。  一瞬でも、自分はみんなの輪に入ることが出来た。  それで十分だと思った。  悲しくはない。元々自分は一人だったのだから、これからもそうあるだけ。  ジルは立ち上がり、草を払うと、とぼとぼと歩き出した。短剣はカバンに置いてきてしまったが、幸いなことに上着のポケットに針を仕込んである。  大丈夫。自分のことは自分で守れる。  そう思い、歩き出した。  一方、またも出遅れてしまったリヒトは、懸命にジルを探した。寄宿舎中を探したがジルを見つける事は出来なかった。しかも出会って間もないので、ジルの足取りが分からない。ピアス越しに交信しても、ジルからは応答はなかった。 「くそっ! 何やってんだ、俺は!」  裏庭に向かった時、リヒトは魔法を使った。地属性の魔法『サーチ(探索)』を使うと、この場所に先程までジルがいたことが分かった。その足取りを辿った。 「ジル! ジル!」  ジルはあの時、「リヒトくん」って言った……。  ジルは『リヒト』ではなく、『リヒトくん』と言った。このまま学園を去るつもりなのか、リヒトは焦った。そして、あの大木に残された、沢山の傷跡を見た。恐らくはここで、一人魔法や投擲の練習に励んでいたと思われた。  その場所から離れて、どこへ行くんだと、リヒトは『サーチ』の魔法の強化を図った。  ハアッとため息を零しながら、ジルはトボトボと校舎へ向かっていた。正面玄関はもう既に閉まっており、ズルズルとそこに座り込んだ。  なんとなく首のプロテクターを触る。彼にも迷惑をかけたなあと思い、その手が落ちる。    誰だろう、あの人……。随分親し気だった。  リヒトのただの知り合いとは思えない様な親密さを感じ、ジルの胸に黒い靄がかかってきた様だった。  親密な関係なら、後から来た僕の方がお邪魔虫だな、悪い事しちゃったな……。  ジルは一人でそう考えた。  番の人に出会えたと思ったんだけどな……。  番に出会えたと喜んだ分、ジルの落胆は大きかった。そしてクレールにしろ、先程リヒトが言っていたシャルルにしろ、自分とは違う、キラキラかわいい容姿に自分を比較して更に落ち込んだ。  あんな人なら皆に好かれるんだろうな……。  リヒトくんの力を増幅させるって言ってくれたけど、僕自身は何もしてないし、出来るわけじゃない。  これから鍛えても僕が魔法を使えることはないかもしれないし。  僕が無属性って言うのは変えられない事実のようだし。  相手の能力を増幅させることとは違うが、二人でお互いの魔法をコラボして上級魔法や高等魔法を完成させる術はある。何も自分でなくてはという理由にはならないのかもと、一人で考えているとネガティブな思考に囚われる。  元々一人で考え一人で実行していたから、自分の考えが偏っても気付かない。  リヒトくん、ごめんね……。  そう思った途端、『ジル! 今行くから動かないで』と、脳内にリヒトの声が響いてきた。  あれ? 今リヒトくんの声が聞こえた気がしたんだけど……?  辺りをきょろきょろと見回すと、裏庭に続く道から、リヒトが走ってくるのが見えた。あんなところから、まるで至近距離で話しかけられた様な声が届くのだろうかと思っていると、リヒトがジルの元に辿り着いた。 「ハッ、ハッ、ああ~走った! 焦った! ハッ、ハッ、ちょっと、待って。動かないで」  勢いよく飛び込んできたので、リヒトは一先ず息を整える。 「リヒトくん? どうしたの? さっきの人は?」  シャルルは用があってリヒトの部屋に来たのではないかと思い、何気なく尋ねた。 「あ~のね。シャルルは幼馴染。あいつはΩだけど番じゃないから、誤解しないで」  番じゃないと言われても、明らかにシャルルの方はリヒトに好意を抱いている。それはジルにも分かった。 「でも、シャルル君は、リヒトくんのこと、好きなんでしょ? 僕が邪魔しちゃったみたいだから」  ごめんねと続けようとしたら、慌ててリヒトが言い募った。 「だから、それが誤解だって。シャルルにははっきり断っているし、俺はあいつとどうこうなりたいとか思ってないし。俺はジル一筋だし!」 「……あ、りがとう。でも、シャルルくんはそうは思ってないみたいだし、僕は」  引くよと言いたかった。でも更に慌ててリヒトは言う。 「でも俺が好きなのはジルだし! ジル、逃げないで」  そう言われ、手を取られる。繋いだ手から、お互いの体の中をぐるぐると魔力が駆け巡る。 「こんな事、他の人とあった?」  リヒトに言われ、ジルは首を振る。 「ううん。リヒトくんにだけだよ」  人と手を触れあったこと自体が少ないが、少なくとも今まではなかったこと。リヒトとの間に生じたことが初めての事だった。 「ねえ、俺の事考えて? 俺の事好き、でしょ?」 「……えっと……」  言葉には詰まるが、心は正直に返事をした。  ポン。  小さな光が二人の間に現れた。 「え?」 「ね? もっと考えて? 俺と一緒だと嬉しいでしょ?」  ポン ポン ポン。  小さな光が、小さく小さく現れている。 「ジルの心は正直だね! へへッ。俺の事好きでよかった」 「……これ、リヒトくんが?」  この現象は何なんだ? と、ジルは不思議に思った。 「これはジルの魔法! 俺じゃないよ。ジルの魔法なんだよ」  リヒトは微笑んだ。
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