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第20話 4、気持ちが反映

 ぽっ、ぽっ、ぽっ。  二人の周りに小さな光が現れている。ゆらゆらと淡く光っている。先程のジルの発言は真実だったのだ。皆は言葉がなかった。 「えっと、リヒト。ご、ご飯、食べよう?」  光には気付かず、ジルはリヒトに声をかけた。 「そうだね。あ、ジル、光」 「え? あ、光……」  ジルは慌てて光を手で払おうとした。 「ははっ。いいよ、目立つし」  リヒトは笑いながらジルの手を引いて、そのまま歩き始める。 「え? リヒト。でも……」 「いいんじゃない? 目立って」 「いやいや、目立つから」 「うん、そうだね」  何でもないようにリヒトが話すから、ジルも困惑しつつもそのまま歩いた。 「これからもっと凄いことが起きるかも知れないんだよ。だからこの光は自然に消えるまでそっとしておこう」  リヒトは注目を浴びる事には慣れている。しかしジルはそうではないだろう。こんな風に注目を浴びることは、なかったはず。それならばいい刺激になるはずだとリヒトは考えた。敢えてそうする必要まではないだろうが、その機会があればそれはそれでいい。  そんなリヒトの考えなど露にも思わず、ジルは困惑したまま歩いていた。そっと心の中で、光、消えてと思ってみる。しかし消えない。ジルは消えなかったことに焦り始める。  消えて、消えて。  でも消えない。  どうしよう、消えない。  焦りは焦りを生み、先程の風が吹き始める。しかし今回はふわりと吹いてきた。その風に煽られるように、光が宙を舞い始める。 「ジル、光が踊ってる」  リヒトに言われ、はっとそれを見る。先程の様な突風ではなく、ふわっと通り過ぎるような風。その風に乗って光が舞い踊っているように見えた。 「ジルも俺と一緒だね! 光と風が得意みたいだ」  いやいや、そんな呑気なことは言ってられないからっ!  ジルは焦る。消えないどころか大事だ。 「リヒト、どうしよう。消えないよ」 「うん、いいんじゃない? ほら、皆も見てるし」  ジルは周囲の人々に目をやると、驚いたような表情が見える。 「ね、皆困ってないでしょ。こんなこと他にも皆、いろいろやってるでしょ」  そう言われればここは魔法学園。魔法なんて、他の者に迷惑をかけなければ、大抵のことは大丈夫だ。 「あ……そっか。大丈夫か。僕、慌てちゃって」 「慌てるジルもかわいい!」 「いやいや、そんな場合じゃ」 「かわいいな~! っと、爽やか爽やか」 「え?」 「こっちのこと」  うっかり本音がダダ漏れのリヒトは、爽やかさを全面に押し出す。ジルの一挙一動に胸がときめく。さすがは童貞脳内花畑である。リヒトはぶれない。 「さ、行こう! 今日も美味しそうだね」 「あ、う、うん。そう、だね」  リヒトのペースに巻き込まれていくジル。舞い踊る光も二人に寄り添っている。  全く動じないリヒトを見ていると、ジルの心も段々落ち着いていた。  リヒトって凄い。  リヒトが言うと、なんだかそうなんだって思える。  ジルがリヒトのことを考えていると、その光が集まり、一つの大きな光となり弾けた。キラキラ光の粒子が消えていき、皆の上に降り注いでいた。 「なんだ、今の……」 「凄くね?」 「ヤバすぎ……」  そんな皆の声はジルには聞こえない。ジルは呆然とその光景を見ていた。 「……ねえ、リヒト。これって……」 「うん。多分ジルが思ってる通り、ジルの魔法はジルの気持ちに反映されてる。だからコントロールを勉強しよう。今までは魔法が使えるようにとか、属性が現れるようにとかに特化した勉強だったでしょ? これからは魔法のコントロール。ね。魔法の威力は多分勝手に上がってくるだろうからさ」 「……そっか。びっくりした……」 「驚いたジルもかわいい!」 「……」 「ああ、ごめん、ごめん。つい本音が」 「……リヒト……」 「ごめんね。ジルがかわいくて」 「……それは、ありがとう……」 「いえいえ」  リヒトって……  ジルはなんだかおかしくなってきた。自分は真剣に悩んでいることが、リヒトにとっては大丈夫なことになってしまう。  うん。リヒトがいるから。  リヒトと一緒だから、僕の魔法は大丈夫!  ジルはふふっと笑った。  昼食を済ませ、再びシメオンの元へ向かう。先程の話をすると、シメオンはニヤッと笑ってジルに言った。 「な、恥ずかしい能力だろう」 「……恥ずかしい、ですが、大丈夫です」  ジルははにかみながら言った。 「リヒトと一緒だから僕の魔法が使えるんです。恥ずかしいのは大丈夫です」  するとリヒトが慌てる。 「恥ずかしくないでしょ? 俺ともっとコラボしよう」 「えっと、うん、そうだね。頑張るよ」 「そうそう。その意気!」 「じゃあ暫くはジルはコントロールを学ぼうかな。威力はリヒトが言うように、勝手に上がってくるから、コントロールの方が大事だな」  シメオンの言葉にジルは頷く。先程の様な事は無くなる様にしたい。 「じゃあ、始めようか」  三人で中庭へ向かう。中庭には魔法の結界が張っており、例え魔法が暴走してもある程度は抑えられるようになっている。ジルはリヒトと手を繋ぎ、彼の魔力の流れを感じた。 「ジル、今日はここまでにしようか」 「は、い」 「だいぶ疲れただろうから、今日はもうこれで授業も終わりでいい。帰ってからは十分に休むように。リヒト頼むぞ」  連続で魔法を使い続けた為、ジルはくたくたになっていた。中庭は結界がかかっている為、被害は少ないがかなりの規模の魔法も飛び出した。  ジルは気持ちのコントロールが課題なので、シメオンはジルに精神の揺さぶりをかけてきた。その度に心が乱れ、強力な魔法が飛び出していた。  危険のない範囲でリヒトも手をださない。勿論シメオンも。なのでその現実も目の当たりにし、ジルはどっと疲れが押し寄せていた。  ……目を瞑れば、ここでも眠れるかも。  ジルはそう考える程、一歩も動きたくなかった。 「ジル、大丈夫……じゃないよね」  そう言うとリヒトは、軽々とジルを横抱きに抱え上げた。 「ぅ、わっ、リ、リヒト! あ、いいよ。僕、自分で、歩ける、から」  疲労と動揺でたどたどしくなってしまった。リヒトとシメオンは笑っていた。 「ダ~メ! ジルは頑張ったんだから、今からは俺が頑張る番! って言うか役得!」  スタスタとリヒトは歩いていく。とりあえずカバンを取りに戻ろうと、シメオンの研究室へ向かう。すれ違う人々からの視線を勿論感じ、ジルはわたわたと慌てた。 「リヒ、ト。みんなが、見てる、よ」 「うん。そうだね」 「僕、歩けるから」 「そうだね」  しかしリヒトは爽やかに微笑んだまま歩いている。 「あの、リヒト」 「うん。シメオン先生の部屋に戻ってから俺たちの部屋に戻ろう」  シメオンの研究室に入ると、片手でジルを抱えたまま、リヒトは二人分のカバンを肩から下げた。 「リヒト、僕重いから。カバンもあるし、ね」  ジルはリヒトの顔を覗き込んでお願いしてみた。 「うっ!」 「え?」 「可愛すぎる……ジルが可愛すぎる……」  勿論リヒトの下半身に直撃した。が、リヒトは鋼の精神でそれを抑え込む。 「かわいい? 僕が?」  ジルはじっとリヒトを見つめた。  何が可愛かったんだろう……僕は可愛くはないと思うんだけど……。  しかしリヒトにはその視線も可愛く映って、心中で悶えまくった。  可愛い! 可愛い! 可愛い~!  あ~! 襲いそう。襲いたい~!  勿論ジルへの交信には、しっかりと蓋をして。 「あ~ごめん。つい本音が」 「僕、可愛いかな。僕は可愛くはないよ?」  ジルは小首を傾げて考える。 「!」  もうダメだ! ジル~!  リヒトがそう思った瞬間、『この馬鹿っ! 場所考えろ』と、リヒトの脳内に罵声が飛び込んできた。
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