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第22話 6、脳内大騒ぎ

「うちは本当に騒がしいから、ごめんなさいね」 「い、いえ。僕は全然」 「遠慮はしないでね。遠慮されると私が寂しいわ。少しずつでいいから、うちの賑やかさに慣れてね。ああ、そうだ。週末はリヒトと一緒にうちに帰ってくれば? そうよ、それがいいわ。そうしましょう。アーロンはまだ帰らないのかしら。今すぐ絶対帰ってきてって言ったのに」 「ソフィア!」  その時勢いよくドアが開き、父親が飛び込んできた。 「アーロン!」  母親は立ち上がり、二人は抱き合った。ジルは呆気にとられ開いた口が塞がらなかった。 「ジル、父と母だよ」  ぽかんと開いた口も可愛いよな~ジルは。ああ~可愛い!  脳内とは別の爽やかな表情で、ジルに伝える。 『お前、表情と脳内が一致してないぞ。早めに花畑をばらしておいた方がいいんじゃないのか』  ラオネのささやかな棘が刺さる。 『い、いいんだよ。まだ出会って間もないんだから。これから徐々にで』 『そんな悠長なこと言ってると、誰かに取られるぞ。こんなに可愛い子羊ちゃんなんだから』 『そ、それはっ!』 『いいのか? 誰かにとられても?』 『それはダメ! 絶対ダメ!』 『なら、早く既成事実作れよ』 『だからそれは』 「おお、騒がしい兄弟だ。お前たちが騒がしいから、見てごらん。子羊ちゃんが怯えているよ」  リヒトとラオネは脳内で会話していたので、そんなはずはない。だが二人は反論せず沈黙した。 「あ、の。僕、僕は」 「ああ、大丈夫だよ。この二人は煩いから静かにしてて貰うから」  ええ~? そうなの? 煩かったかな? 何も話してなかったような……。 「君がジルくんだね。話は聞いてるよ。まあリヒトは煩悩の塊みたいなものだから、夜は特に頑張らないとね」 「は、はい?」  ぼんのうのかたまり?  ジルは『煩悩』について考えた。 「ジル! それは」  ぼんのう…… 煩悩? ……煩悩!  何かに辿り着き、ジルは顔から火を噴いた。それを見てリヒトも火を噴いた。 「はははははっ! 初心だね~」 「そうよね~」  二人は笑っていた。  煩悩って欲の塊だよね? 夜頑張らないとって、そういうことだよね?  ジルは脳内で悶えた。  何の羞恥プレイなんだろう……  最近こういうのが多いんだけど……  ううっ、番って恥ずかしい。  思わずリヒトを見ると、リヒトはリヒトで真っ赤になっていた。  でも、可愛い。リヒト、かわいい。  するとリヒトと視線が絡み、二人はもっと顔を赤くした。そんな様子で暫く談笑した後、本題へと移った。 「聞くところによると、ジルくんはノベールから籍が出るんだって?」  リヒトの父、アーロンに言われ、ジルは、はっと表情を変えた。 「はい。父と学園長の約束なんです。僕の誕生日までに僕の属性が出なければ平民になります」 「それは今の現状でも?」 「はい。シメオン先生から学園長に話をして貰っています。父にも話を伝えて貰っていますけれど、変わりはないようです。そうですよね、僕自身には魔法も属性もないんですから」 「成程ね」  アーロンは暫し考え、ジルに言った。 「リヒトからも提案があったと思うが、もううちの籍に入りなさい」 「え? いえ、でも、それは……」 「リヒトの事だ。ジルくん以外に番を持つような馬鹿な真似はしないはずだから、安心していい」  ジルは言葉に詰まった。 「……嬉しいのですが、ご迷惑では……」 「はははっ! 見てごらん、あの必死な顔を」  そう言われてリヒトを見ると、凄い形相でジルを見ていた。 「あの様子じゃあ、ジルくんが引いた方がいいと思うよ。そのうち監禁されるかもよ? はははっ」 「かんきん……監禁? ええ~?」  驚くジルに、リヒトはうんうんと頷いた。 「この国では運命の番に関しては15歳以上から籍が入れられるんだ。リヒトと一緒になることが出来るよ。何の問題もなくなる」  ジルはリヒトに聞いた。 「リヒトは本当に僕でいいの? 正直番と結婚って結びつけて考えていなかったんだけど、今こうして話をしていると、リヒトの人生を今ここで決めてもいいのかって」 「決めていいよ。決めよう! 俺はジルがいい。ねえ、ジル結婚しよう? それで発情期がきたら番になってさ」  そこでラオネがリヒトの脳内に囁く。 『そして監禁して?』 「そう、監禁して、っておい! しないから監禁なんて!」 「リヒト?」 「違うから! もう兄貴は何で邪魔するんだよっ!」 「面白いから?」 「ああ~もう! 今真剣なんだから!」  ははっと笑いながらラオネは言った。 「大丈夫だよ。ジルは選択する。リヒトが言うんだから選べるよね」  流し目でそう言われ、ジルはぐっと息を呑んだ。  僕がリヒトの人生を決める……?  そんなことがあっていいのかな…… でも、いいのかな。 「ぼ、僕は……リヒトが僕を求めてくれるなら……お願いします」 「ジル~!」  その瞬間リヒトがジルに飛びついた。大きな光がそこら中に舞い踊った。リヒトがジルに抱き着いたせいで、ジルからも光が飛び出し、部屋中キラキラ光が舞い踊ることとなった。すかさずラオネから苦情が飛び出す。 「あ~! 眩しい! 抑えろ、この馬鹿っ!」 「あ~ごめんごめん! 今はちょっと待って~!」 「リ、リヒト、く、苦しっ」 「ああ、ごめん!」  そんな能天気な二人はともかく、アーロンとラオネは顔を見合わせ頷いた。  意図せず二人で光を放つ魔力。  二人の力が合わさればエーテルが使えるのでは?  アーロンは考える。  今までエーテルが使えた魔導士は数少ない。リントヴルムという大型ドラゴンや、アトラスという大型巨人が複数出現したときは、エーテルが使えればそれだけで討伐することが可能なほどの威力だ。塵一つ残さず浄化してしまう。  現在このエーテルが使える魔導士は少ない。勿論ラオネは扱えるが、一度に滅することが出来るのは一頭ずつになる。しかしこの二人の魔力が合わされば、広範囲でそれが可能になるのではないのか。  話によるとジルの魔力は、ジルの中で出口のないままぐるぐると循環をしている状態だった。リヒトと出会ったことで、その出口が見つかった。しかし底なしに溢れる魔力をリヒトもまだ把握しきれてはいない状態だ。  魔法の訓練をした時も、扱った魔法の割には疲労度が少ないという。リヒトと繋がった状態で魔力の数値を計測してみる事も検討したい。因みにジル一人では魔力は0だった。  そして何よりリヒトの魔法が扱えること。今はまだ各属性を単発でしか扱えてはいないが、それはまだ日が浅いから。これからしっかりと訓練し、コントロールをすることを学べば、かなりの伸びしろが期待できる。  勿体ない事をしたな、ノベール家は。  彼をしっかりと育てていれば分かったはずだろうに。  彼はリヒトと共に偉大な魔導士になれる素質を持っている。  それを見抜けなかった愚か者には未来はないだろう。  指をくわえて、彼の未来の偉業を見ているがいい。  我がギュスターヴが、彼をリヒトと共に押し上げてみせよう。  ……面白くなってきたな。 「はははっ! 面白い! 実に面白い。なあ、ラオネ」 「そうだな。面白い二人だ」  アーロンとラオネは顔を見合わせ笑った。ラオネには父であるアーロンの考えが読めていた。と言うよりも、寧ろラオネもそう思った。  しかし、ジルにはよく分からない。よく分からないが、ジルも嬉しくなった。 「リヒト、僕頑張るね。ありがとう、僕を選んでくれて」 「いやいや。俺の方こそ嬉しいよ。ジルが好きなんだ。ジルが好き」  そう言うと、みんなの視線も構わず、再び抱きしめた。 「だから、その光はしまえ!」  ラオネは笑って言った。
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