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第23話 7、リヒトが溺愛する理由

 その後、みんなで賑やかに食事をした。それはもう本当に賑やかで、ジルも笑った。 「それで兄貴、リラさんは順調なの?」 「ああ、今安定期だから今日は留守番だ」  リラさん? さっきお母さんが言っていたな。  そうか、ラオネさんの番さんのことだ。  ラオネの番のリラは、現在双子を妊娠中。通常よりも大きな赤ちゃんの様で、あまり動き回らないよう医者から言われている。先日はうっかり元気に家事をし過ぎていた為、一か月ほど安静にするよう厳命されていた。しかも子どもは上の子どもも双子である。そう、現在第三、四子の双子を妊娠中であった。   「元気良すぎるからなあ、リラは。まあ、暫く安静にしていれば問題はないだろう」 「それならいいけど」  結局ジルとリヒトの籍の件は、ジルの誕生日まで待つことになった。これはジルの考えであった。  ノベール家の考えを最後まで見届けたいという、ジルの想いだ。どちらにしろ、その時にリヒトの籍に入ることはギュスターヴ家の総意であり、ジルはそれを有難く受けることにした。断る理由を探す方が難しかったし、ここまでリヒトに言って貰え、ギュスターヴ家からも温かく迎えて貰えるのだから。 「じゃあ、俺たちは今日はもう帰るから。また週末に顔を出すよ」  そうリヒトが言うと、家族は笑って見送ってくれた。 「ああ、また帰ってきなさい」  アーロンに言われ、ジルは頭を下げる。 「ありがとうございます。よろしくお願いします」 「ジルの魔法はシメオンがついていれば、そう悪い事にはならないだろう。ただ光に関してはシメオンは扱えないから俺も教えよう」  ラオネがそう言うと、ジルは目を輝かせて言った。 「本当ですか? うわ~感激です! あの、後でサイン、とか……」  喜んでいたジルだったが、横でじと~っとした視線を感じ、言葉が尻すぼみになった。ちらっと見ると、この世の終わりの様な顔をしたリヒトがいた。 「ち、違うよ! リヒト、違うよ~! 純粋に憧れていたから、ちょっとサイン欲しかっただけなの! 僕が好きなのはリヒトだからっ!」  それを聞き、リヒトは表情を明るくし、ジルの両肩をやんわりと掴んだ。 「本当に? 俺だけ?」 「勿論だよっ!」 「ジル!」 「リヒト!」  相変わらずのペースで、やっぱり二人は抱き合った。 「……リヒト」  ラオネの声で、リヒトははっと我に返った。 「ああ、ごめん。じゃあ、また。兄貴よろしく!」 「ああ、またな。しっかり守れよ」 「勿論!」  リヒトは移転魔法を使った。 「恐らくこの移転も、彼はもう扱えるはずだな。要は使い方とコントロールか。まあ、シメオンならそこは分かってはいると思うが、後で連絡しておくか」  ラオネは可愛い弟カップルに手をまわすべく、静かに動き出した。  余談であるが、アーロンは魔の森の魔獣討伐に出ていた最中だった。さあ、もう少しで最終クエストという所で、ラオネから緊急招集がかかり、大急ぎで討伐し帰ってきたという訳だった。  アーロンは妻であるソフィアに頭が上がらない。それをこの兄弟は真近で見てきたので、Ωを溺愛するαの姿が、当然のように知らずのうちに叩き込まれていた。  なのでラオネに至ってはもう既に番であるリラを溺愛中である。リヒトがジルを溺愛しようとするのも無理のない話であった。そこもノベール家は見誤っていた。  ただの無属性のΩ。そうジルを判断し、見ないようにしてきた。今更ジルの価値に気付いてももう遅い。ジルはしっかりと、リヒトを筆頭にギュスターヴ家からも囲われている。  ノベール家が、例えジルの身柄を取り戻そうとしてももう遅い。今までのジルへの扱いを考えれば当然のこと。  家長であるアーロンは、早速魔法学園の学園長の所へ赴き、ことの次第を話す算段をつけていた。ジルの気付かぬうちに、着々と確実に、彼は幸せへの囲いの中に囲われ始めていた。 「ジル、今日は突然にごめんね。疲れていたのに一緒に来てくれてありがとう」  部屋に戻った二人は、ソファーに並んで座った。 「ううん。驚いたけど、リヒトの家族が歓迎してくれて嬉しいよ」  ジルは微笑んで答える。 「そう言って貰えると安心する。ジルの家族になるんだから、遠慮しないでね」  リヒトは爽やかに笑う。 「ありがとう。そうなるといいな。僕、リヒトとずっと一緒にいたいよ」 「ジル! 嬉しい! 俺もジルとずっと一緒にいたいっ!」 「ふふっ。じゃあ僕、もっともっと頑張るよ」 「うん。一緒に頑張ろう!」  決意新たに二人は笑った。  今日はリヒトが先に入浴することになった。ジルが交代で入ろうと提案したからだ。勿論リヒトは脳内では一緒がいいと返答したが、爽やかに了承した。でも。  ジルが俺を選んでくれた! ジルが俺を選んだ!  リヒトの脳内は踊りまくっていた。  ジルは幸せの余韻に浸りながらも、いつものように短剣と針の手入れを始める。自分一人の時には、やっぱり不安が残る。いつもいつもリヒトに頼ってばかりではダメだ。  自分の最善を尽くそう。  ジルはそう思いながら手入れを進めた。 「ジル、いいよ~」  リヒトが声をかけるも返事はない。 「ジル?」  濡れた髪を拭きながらリヒトが戻ると、手入れを終えたジルが、またまたすやすやと眠っていた。勿論短剣を研ぎながら眠ってしまったので、膝に短剣を持ったままである。 「あっぶな!」  慌ててリヒトはジルの手から短剣を取った。  机には針が十数本綺麗に並べられていた。手に取った短剣と針を見比べる。どちらも使い込まれた様子で、リヒトの胸は何だかジーンとしてきた。  どういえばいいのか分からないが、とにかく何とも言えない心境になった。  この努力がジルを強くしたんだ。  絶対に報わせてやる。  リヒトは改めて心に誓った。とはいえ今日はかなりハードな授業だったので、疲れているんだろうと思い、そのままジルをベッドに運んだ。 「……んん」  むにゃむにゃと聞こえるようなジルの寝顔に、そっと口づける。  可愛い……可愛すぎる……もう、襲ってくださいって言ってるよな。  その寝顔を勝手に解釈して襲ってしまおうと思う黒い自分と、いやいや明日もハードなんだから、しっかり休ませてあげなくっちゃという白い自分が共存し、リヒトの脳内で大騒動を巻き起こす。  はたから見れば呆然と突っ立ている様なリヒトだったが、その脳内は理性と煩悩の戦いだった。暫しの間そのまま立ち尽くしていたが、ハッと我に返り、両手で頬を叩く。  よし、寝よう! 今日はもう寝よう。無心だ、無心! 悟りの境地だ!  心の中で叫び、そっと掛布に滑り込む。  でも、抱き着くくらいはいいよな。  誰にともなく許可を求め抱き着く。  返事は聞かない。だってそこにジルがいるから。  ……やばいな、俺。末期か?  なんて一人で妙な事を考え出したリヒトは迷走を始める。すると、ジルの顔がリヒトの鎖骨にくっついてきた。  くすぐったい……でも可愛い。  ジルの頭が顔にかかり、思わず顔を埋める。  ジルの匂いがする。良い匂いだな。  あ~、早く発情期がこないかな~。  あ、そっか。発情期がこなくても、ジルがいいって言ったら……やりたい。ジルの中に入りたい!  いいかな、いいよね。だって番だし。番うし。結婚するし。俺のジルだし。  あ~ジル、可愛い。可愛すぎ!  やはり今日も、脳内花畑の童貞リヒトは、煩悩に苛まれ、なかなか寝付けなかった。だけどそれも幸せだなと、一人リヒトは悶えていた。
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