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第24話 8、いざギルドへ

 翌朝早くに、ジル、リヒト、ドニス、クレスの四人は、早速ギルドにこの四人でのパーティーの登録をしに向かうことになった。寄宿舎の職員に外出手続きをする。 「兄貴も言ってたけど、取りあえずギルドに登録だけでもしておくかな」  リヒトが言うと、ドニスとクレスは賛同する。 「おっ、いよいよか」 「楽しみだな」  するとジルがドキドキしながら尋ねる。 「ギルドって、あのギルドだよね」  リヒトはうんうんと頷いた。 「そう。あのギルド。魔の森に実習もあるだろうし、登録はしとこう」  ギルドは、冒険者たちの集う場所である。魔の森での様々なクエストがあり、各ランク毎に請け負うことが出来る。そして魔の森に入るにはギルドでの登録は必須である。  純粋に仕事として請け負う者もいれば、今回のリヒトたちのように腕試しや訓練の一環で請け負う者もいる。  今回彼らは訓練の一環として魔の森に入る為に、登録をすべくギルドへ向かうことになった。乗合馬車に乗ってギルドのある街へ向かう。 「乗合馬車とか久しぶりだな。移転魔法で行ってもいいんじゃないのか」  クレスが言うと、リヒトは笑って言った。 「だって初めてのジルとの外出だよ。のんびり行きたいじゃない?」 「そうだね。僕も嬉しいよ」  ジルは素直にそう言って笑った。  嬉しいって! ジルも嬉しいって言った! もうほんと天使!  リヒトは爽やかに笑いながら脳内で悶える。 「……あ~、わかった、わかった」  ドニスもクレスも苦笑した。  リヒトがここまで浮かれる事はなかなかない。そのことをドニスとクレスは知っている。そして長年運命の番を探し求めていたことも知っている。  兄のラオネが優秀過ぎて常に比較され、リヒトは兄には敵わない、劣っていると言われていた。そんな風に扱われていたリヒトの幼き頃を二人は知っている。リヒトとラオネは十歳も年が離れている為、能力に差があるのは当たり前。それなのに他人はそう評価しなかった。  そしてそのラオネに、リラというとても可愛いΩの男の子が番になった時から、リヒトの身辺がが激変したことを知っている。  それまでラオネに群がっていた者たちまでもが、リヒトに群がるようになった。リヒトは戸惑い混乱し、言い寄ってくる全てのΩを丁重に拒否し続ける事態になったことも知っている。  それでもあきらめられず、未だ群がるΩたちへの対応に苦慮しているリヒト。もっとうまくやればいいのにと二人は思っているが、それがリヒトのいい所なのかもと考え、二人は一緒に対応してきた。  今まで『名門ギュスターヴの残りの一人であるα』としか見て貰えず、葛藤しながらも決して意固地にならず、運命の番に会った時に誇れるよう、天才なのに努力してきたリヒトのことを二人は知っている。  そのリヒトだからこそ、ジルのことを理解し寄り添い、共に生きて行こうと伝えることが出来たのだと二人は思った。  そんなリヒトが浮かれている。だからこそ、ついからかってしまうのは許して貰おう。二人は顔を見合わせ笑った。 「ジルはギルドに行くのは初めてだよね」  リヒトの言葉にジルは頷く。 「うん。初めてかな」 「『ジルの初めて』かあ……」  そっちの『初めて』も、貰いたい。  あ~早くジルとあんなこと、こんなことしたい!  今日こそは…… いや、あんまりがっつき過ぎるとジルが引くか?  いやいや、でもこのままじゃ俺がもたないし。  よし、今日が勝負だ!  リヒトの煩悩は止まらない。 「リヒトは行ったことがあるんだよね」 「あるよ。登録もしているから、俺たちは変更かな。今のパーティーはドニスとクレスと俺の三人だから、そこにジルが加わって四人になるよ」 「そっか。なんか楽しくなってきたよ」  微笑ましい二人(実際は四人)を乗せて、乗合馬車はギルド前に到着しようとしていた。  ギルド前に乗合馬車が到着し、四人は降りた。  ここがギルドかあ。  ジルは初めてのギルドに、ドキドキしていた。  あ、ジル、ドキドキしてる。可愛い! 緊張してるジルも可愛すぎ!  リヒトはそんなジルの表情に悶えていた。 「……先に行くぞ」  ドニスとクレスは呆れつつも、さっさとギルドの中に入って行った。 「ジル、俺たちも行こう」 「うん」  二人は相変わらず手を取り合い微笑みあった。ゆっくりとギルドに入って行く。  カランカラン。  扉のベルが鳴る。 「こんにちは~」  リヒトが軽快に受付の人に声をかけた。 「こんにちは」  続いてジルも挨拶をする。既にドニスとクレスは変更するための手続きを始めている。 「新しく登録お願いします。さ。ジル」 「あ、登録お願いします」  二人がそう言うと、受付のお姉さんは、にこやかに言った。 「はい。新規登録ですね。かしこまりました。ではここに記入をお願いします」  そう言われ用紙に視線をやると、氏名、住所、魔法属性などの記入欄がある。 「……リヒト、どうしよう」 「え? どこ?」 「名前も住所も魔法属性も、どう書いたらいいのかな…… 僕、もう直ぐ除籍されるけど、今のままのを書いていてもいいんだよね?」 「……そうだね。とりあえずは今の名前と住所になるのかな」  二人が考え込んでいると、受付のお姉さんがその様子を見て声をかける。 「そんなに難しい内容だった?」 「いえ、あの……」  ジルはどう説明すればいいのか困ってしまった。 「ああ、そう言えば…… ちょっと待って」  リヒトは父親に連絡を取る。 「…………」 「あの……」  その様子にジルも黙り込んだ。 「……ああ、よかった。ジル、大丈夫。ギルドにはギュスターヴ名乗っていいって。住所もうちの住所を書くようにって」  リヒトが満面の笑みでそう言った。 「え? それ、どういう……」 「学園長と父さんが話し合っていたみたい。昨日のうちに」 「え? 話し合う?」  どういうことなんだろう。    昨夜のうちに、アーロンは既に手をまわしていた。  学園長を介して、ノベール家へ連絡を取り、ジルの身柄はギュスターヴへほぼ移行した。後はジルの決心のみの状態だった。だから。現行のノベールを名乗ってもいいし、直ぐ未来のギュスターヴを名乗っても、何の問題もなかったのだ。 「どっちを名乗っても構わないってさ。でも、ノベールは今更もう何も言えないよ。父さんも動いちゃったし。兄貴も動いてるだろうし。俺もジルを離さないし。ね」  ね、と言われても、ジルは混乱していた。  よく分かんないけど、もうノベールに拘ってもしょうがないみたいだな……僕だけがこだわっているんだろうな……。  そっか。やぱりノベール家の皆は、僕のことはいらないのか……。  分かってはいた事だが、悲しい事は事実として、ジルにのしかかっていた。その様子を見て、リヒトはハッとした。  浮かれていた。  正直、リヒトは浮かれていた。でもジルの様子を見て、喜ぶよりも先にしなければならないことに気が付いた。 「ごめん、ジル。ジルの気持ちを考えていなかった。ごめん」 「ううん。違うよ、大丈夫。ただ、現実を受け止めると、ね…… 僕の方こそごめんね。なんかこだわっちゃってて」 「ううん。当然だよ。俺の配慮が足りなかった。ごめん」 「あ、じゃ、じゃあ、もうリヒトの名前で登録しとこうかな。どうせ除籍されるだろうしね。ははっ」 「ジルはそれでいいの?」 「それでって?」 「諦めてもいいの?」 「……そう、だね。でも現実は現実で受け止めなくっちゃね。リヒトは僕と一緒でいいんでしょ。だからそれが僕の現実だし、未来なんだよね」  そう言ってジルは笑った。  ジルは強いな……。  リヒトは心からそう思った。 「……でも、もう少し、時間を貰えるかな。もう少し……」 「うん。いいよ、大丈夫」  リヒトは頷いた。
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