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第25話 9、伸びていくジルの魔法

「後悔させないから! 絶対に幸せにする!」  リヒトはしっかりとジルの目を見据えてそう言った。 「うん。ありがとう。僕もリヒトが後悔しないように頑張るよ」  ジルも真っ直ぐにリヒトを見据えて言った。 「……よし! じゃあ、登録用紙に書けるかな?」  その様子を見守っていた受付のお姉さんはそう言った。そしてこの二人が噂の二人なのかと思った。  リヒト・ギュスターヴ。  名門ギュスターヴ家の天才と名高いα。その彼が選んだのが彼だ。  ジル・ノベール。  無属性のというレッテルを貼られたΩ。だが、それは今までのこと。リヒト・ギュスターヴの運命の番と言うことで、今まさに花開こうとしている。  ギルドは最新情報が飛び交っている。誰かしらが情報を持ち寄る。勿論この二人の話はギルドに届いていた。  何やら事情があるらしい二人。  リヒト・ギュスターヴは、今は幼さが見えるが醸し出されるオーラはα。そう遠くない未来に逞しい青年になるだろう。  その彼に守られるように立つ、ジル・ノベールは、世間一般で言うところの決して可愛い類ではない。彼一人でいれば地味な印象を受けるが、リヒト・ギュスターヴの横に並んだ途端、醸し出される清楚な印象。  彼は魔力だけではなく存在自体も、リヒト・ギュスターヴに影響されるのか。  受付のお姉さんは二人を見てそう感じた。ふと視線を感じる。それを見ると、先ほど登録変更の用紙を渡した二人が、ほくそ笑みながら自分を見ていた。受付のお姉さんは微笑んだ。 「さ、書いてしまおう」  そう言って噂の二人を見た。 「うん。じゃあ、書くね」 「うん」  ジルは書いた。 『ジル』  それだけを書いた。そして住所はリヒトがギュスターヴ家の住所を書いた。 『魔法属性・無属性』  ジルはそう書いた。 「……これでいいのかな」  ジルは、はにかんで笑った。 「うん。大丈夫」    そう言って、その用紙を確認しながら、二人で受付のお姉さんに渡した。  「はい。受け付けました。それでこの四人でパーティー組むってことね」 「はい。よろしくお願いします」  リヒトがそう言った。四人で顔を見合わせる。 「じゃあ改めてよろしく!」 「よろしく!」 「訓練はもう少し先かもしれないけど、もうすぐかもしれないから」 「うん、分かった」  そして受付のお姉さんに挨拶をした後、ギルドを出る。 「俺たちは先に戻るから」  クレスが言うと、ジルとリヒトは頷いた。 「了解。じゃあ、また学校で」  勿論ドニスとクレスは気を利かせていた。ジルとリヒトが歩いていく後姿を見送った。 「よし、じゃあ俺たちも戻ろう。あ、そうだ。ジル『学校に戻る』って思って?」 「学校に? うん、分かった……?」  学校に戻るって考えればいいのかな?  ジルは言われた通りにそう思った。繋いだ手から、リヒトの魔法が循環してくる。  学校……学校……そうだ、中庭。  学校と言われて、先ず考えるのが中庭とシメオンの研究室。その中で、中庭を思った。ふわっと胃が浮き上がる感触に襲われる。 「着いたよ」  そう言われて無意識に瞑っていた目を開いた。 「……あ、学校……」  学校の中庭に着いていた。 「ジルは凄いね。一発で学校に戻って来たね。今のはジルの移転魔法だよ」 「え? 僕が? 移転魔法……?」  ジルは心から驚いた。  移転魔法は単発の魔法ではない。複数の魔法が複雑に絡み合う高等魔法になる。  それを自分が唱えたというのか。  それもリヒトと同じ無詠唱で。 「やっぱりジルの魔法は凄いや!」  リヒトは笑った。  ……僕も無詠唱で魔法を唱えたんだ。  リヒトの魔法を使えるということがここまでのことだとは、ジルは全く考えてなかった。考えてはいなかったが、今の移転魔法が事実だと伝えている。 「……なんかびっくり、した」  ジルがリヒトを見ると、彼は当然だとばかりに微笑んでいる。 「ジルは自分のことを過小評価し過ぎだよ。もっと自分に自信を持って」 「う、ん。ありが、と……」  まだ半信半疑なため、戸惑いながら返事をする。 「もっともっと魔法の幅は広がるよ。あ~、楽しみだな~」  おどけたようなリヒトに、ジルの心も凪いでいく。 「うん。そっか。そうなんだね」  小さく頷くジルを見て、リヒトは素直な自分の番に、またまた悶えた。  ほんっっとうに、ジルは素直~!  そんなリヒトの脳内に、ジルの想いが届いてくる。 『リヒト、大好き』  ……なんのご褒美だ! 『リヒトと一緒にいたい』  ……! 『早くリヒトと番になりたい』  ……! 俺も! 「ジル! ジルは俺の番だからね!」  思わずリヒトは叫んでいた。 「……! あ、ありがとう」  それにジルは、はにかんで応えた。二人の頭上にはキラキラと光が舞っていた。それに気付かぬまま二人は微笑みあっていた。  早速シメオンの待つ特Fクラスへ向かう。キラキラ光るものが二人の後を追うようについていく。その状況を、生徒たちは目の当たりにしていた。今まで蔑んでいた無属性のΩに対する見方は変わっていく。  一方は羨望のまなざしへ。そしてもう一方は嫉妬のまなざしへ。  それに気付きつつもリヒトは何食わぬ顔で歩いていく。  当然だ。俺の番だ。  俺だけのジル。  そのジルを傷つけるものは一切の容赦をしない。  決意新たにリヒトは歩いて行った。  ジルはジルで思っていた。  早くリヒトの横に並んでも認めて貰えるような人になりたい。  そして番になりたい。  こんなにも僕の事を考えてくれる人なんて他にはいない。  彼の想いに応えたい。  決意新たにジルも歩いていた。 「おはようございま~す!」 「おはようございます」  元気に二人は特Fクラスに入った。 「おお、ご機嫌だな」  シメオンはにこやかに二人を迎える。 「ギルドに登録してきました!」  リヒトが報告する。 「ああ、昨夜ラオネからも報告が来たよ。こってり絞られたから、二人共今日も覚悟するように」  そう笑いながらシメオンが言った。 「は、はいっ!」  ジルは大きな声で返事をした。ただでさえハードなのに、これ以上は倒れるんじゃないかと思った。  でも頑張りたい。  今自分に出来る事を精一杯やってみたい。  そんな思いに駆られていた。 「大丈夫! 二人で頑張ろう!」  リヒトはそんな思いを見透かしているかのようにおおらかに笑った。 「リヒト、余裕があるな」  そんなリヒトにシメオンは意地悪く笑った。 「αには容赦ないですもんね、シメオン先生は。いいですよ、大丈夫! 頑張りますから」  リヒトがそう言うと、ジルもシメオンも笑った。早速講義に入る。 「リヒトの魔力の流れは理解したな。その流れがリヒトの魔法の根源だ。だからその流れさえ把握しておけば、いずれリヒトに触れていなくてもリヒトの魔法は使えるようになる。それは正式に番った時にわかるだろう。その威力は未知数だぞ」 「そう、なんですね」  ジルはドキドキしていた。だが話はどんどん進んで行く。 「だけど魔法に関しては、今はリヒトに触れたままで練習しよう。その方が確実だからな」 「はい」 「それでリヒトの方は、まあいいか」 「え? それだけ?」 「お前なら分かるだろう。まあ、分別を弁えて使え」 「はあ」 「と言うか、お前ならわかるだろう?」 「ですね」  リヒトとシメオンはほくそ笑みながら話をしていた。
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