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第32話 2、お願い! シメオン先生!

「あの」  ジルは戸惑いながら口を開いた。このまま疑問を残して話を続けることは、ジルには出来なかった。 「なんだい」  学園長に言われ、意を決してジルは言った。 「学園長、ですよね。本当に学園長なんですよね」 「ああ、そうだよ。誰と思った?」 「あ、の。その……」 「よく似てるでしょ。だって双子だからね」 「双子……」 「そう。知らなかったかな? まあ、知らなくても当然だから。気にしないで」 「は、はい」 「それにしても、リヒトに出会ってからのジルの伸びは凄いね。我々も予想以上の能力に驚いているんだよ」 「あ、それは、僕だけの力ではないですから」 「ジルのように人に媒介して発揮する魔力のタイプは、今まであまり前例がなくてね。まさかジルがそういうタイプの魔力とは想像していなかったから、今まで辛かっただろう」 「あの。大丈夫です」  アイロニー・ギュスターヴ。ギュスターヴ家の家長アーロン・ギュスターヴの双子の弟。一卵性の双子の為、全くの瓜二つであった。彼がこの魔法学園の学園長であった。 「いや、話には聞いていたから、わかっているよ。頑張ったね。でももう大丈夫。リヒトはあのアーロンの子どもだ。己の番一筋なのは、もはや遺伝だけではすまないほどのレベルだろう。安心するといい」 「は、はい」  それは十分すぎる程、ジルは理解していた。そのジルの返事を聞き、リヒトも嬉しかった。自分の愛情が伝わっていることを確信したのだった。 「アーロンもラオネもリヒトも、まあ俺もそうなんだが、ギュスターヴ家のαは、恐ろしい位己のΩを溺愛するからな」  アイロニーとアーロンは、一卵性の双子であり、容姿は瓜二つ。そして己の番を溺愛するのもよく似ていた。 「そうなんですね。僕もリヒトに十分すぎるくらい守って貰っていますから。それはよくわかります」  ジルはリヒトを見て微笑んだ。 「よかった。でもまだまだ足りないんだけどね」  リヒトも笑んで答える。 「ううん、ありがとう。あっ! そう、そうだ。その、今までいろいろとお世話になってて、すみません。そしてありがとうございます」  ジルは勢いよく立ち上がりそう言って頭を下げた。 「学園在籍が、ジルの今年の誕生日という中途半端な約束になってしまって、悪かったなあと思っていたんだよ。まあ、もしそうなったとしてもどうにかしようとは思っていたんだがね」 「そうなんですね。すみません。迷惑かけてしまって」  ジルは頭を下げた。 「ははっ。まあ、座って。これからは安心して過ごすといい。このままギュスターヴに任せればなんの心配もいらないから」 「それなんですけど、本当に甘えてしまっていいんでしょうか」 「というと?」 「なんか、夢みたいで……現実味がなくって……」  リヒトはジルの手を握った。 「大丈夫だから。信じて」  ジルはリヒトを見つめた。 「うん。信じてる。でも本当に現実なのかなって、時々思っちゃうんだ」  えへへとジルは笑った。 「まだまだだな、リヒト。精進するんだな」  アイロニーの言葉に、リヒトは苦笑した。 「全くですね。まだまだ愛が足りないな」  それにはジルが真っ赤になって反応した。 「あ、愛って」 「愛が足りないんだ。よし! 気合入れるぞ~!」 「リヒト! つ、伝わってる。伝わってるから」  これ以上愛されるなんて、身も心も持ちそうにない。  今でさえリヒトの愛情を目いっぱい感じすぎて恥ずかしい位なのに。  ジルは慌ててリヒトを諫めた。しかしリヒトの気合は止まらない。決意新たにリヒトはもっともっとジルを愛そうと心に決めた。  学園長であるアイロニーと今後の話をする。 「とにかく、アーロンとは話をしてあるが、ノベールには口出しも手出しもさせんよ。ジルはこのまま学園に在籍すればいい」 「……いいんでしょうか。でも実家と縁が切れてしまったら、あの……学費とか」 「それは心配はいらないよ。ジルの学費は元々私が払っているんだから」 「え?」  ジルは聞き間違えたのかと思った。 「それが条件だったからね。ジルの為にはびた一文払わないと言っていたから、売り言葉に買い言葉かな。それならばこちらが払おうとなった訳だ」  アイロニーは笑っているが、衝撃の事実を知ったジルは驚愕した。 「じゃあ、もしかして、今までの生活費とかも……」 「そうなるかな。足りなかったかな」 「いえ! 十分すぎるくらいです」  ジルは頭を下げた。 「本当に、なんか、どう言っていいいのかわからないんですけど。僕をここにいさせてくれて、ありがとうございます」  込み上げる感情に逆らうことなく、ジルは思いのままにそれを伝えた。 「それはよかった。だがそう思うのならば、これからもリヒトと共にいてくれよ。それが恩返しだ」  アイロニーはそう言って笑った。 「……はい。よろしく、お願いします」 「じゃあ、そういう訳だから。学園長、今後ともよろしくです」  リヒトも立ち上がり、アイロニーに言った。 「ああ、任せておきなさい。後でアーロンにも連絡しておくよ。可愛いリヒトの番が来たってね」 「そうでしょう。もう可愛すぎちゃって」 「リヒトっ」 「ん?」 「は、恥ずかしいよ」  それを聞き、アイロニーは大きく笑った。 「はははっ。あんなに盛大な光を振りまいておいて?」 「そ、れはっ!」  ジルは赤面した。  やはり皆にばれていたんだ。  恥ずかしすぎて俯いた。 「え~、でもこれから毎日、暫くは光ると思うから、何かの恒例行事的なものかなって皆思いますよ」  は? 恒例行事?  リヒトは何を言っているんだ?  ジルは赤面したままリヒトを見た。 「しかし授業中はいかんなあ。やるなら夜だ」  ……学園長? 学園長って先生ですよね?  そういうこと勧めるんですか~?  ジルは心の中で突っ込みを入れた。 「そっか。でも夜だと逆に眩しくないですか?」  ええ~? 問題はそこ~? 「花火みたいで、逆にいいんじゃないのか」  ……もう、言葉がありません。 「よし! 夜だ! 決定! 毎日の恒例にしちゃおう」  リヒト、嬉しそうなんだけど。  ……あ、そういうこと? あの会話はそういう意味だったんだね……  ジルはここで先程の会話の意味を納得した。とはいえ恥ずかし過ぎることには変わりはないので、早急にコントロールを覚えようと、硬く心に誓った。 「じゃあ、戻ります」 「ああ、しっかりしろよ、リヒト」 「了解です」  そして二人は学園長の部屋を出た。廊下に出ると、ジルが必死の形相でリヒトに縋った。 「リヒト、シメオン先生の所に行きたい」 「ん? シメオン先生? いいけど、何かあった?」 「聞きたいことがあるんだ」 「了解」  リヒトは移転魔法を使った。まだ疲れているだろうジルを考え、今日はバンバン魔法を使うリヒトだった。 「シメオン先生!」  シメオンの研究室の前に立ったジルは、いつにない勢いで扉を開けた。 「お、ジルか。体は大丈夫か」  それを聞き、赤面していたジルの顔が更に赤くなった。 「シ、シメオン先生! コントロール! コントロールを早急に覚えたいんです!」  シメオンはいつにない、ジルの必死の形相に驚いていたが、その言葉を聞き笑った。 「はははっ。成程な」 「ええ~? ジル、そんなに急がなくても平気だよ」  リヒトはそうは思っていなかったので、のん気にそう答えた。
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