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第34話 4、こ、こんばんは

 あ~もう! なんでジルはこんなに素直なの~!  可愛すぎる。可愛すぎて困っちゃうよ~。  抱きしめたい衝動にかられながらも、鋼の精神でそれを抑え込む。  俺、顔がにやけてる? 爽やか、爽やか。  イチャイチャは部屋まで我慢だ、我慢!  煩悩を心の奥底にしまい、爽やかな笑顔を前面に押し出すように、リヒトは微笑んだ。 「じゃあ、今日は早く寝なきゃな、リヒト」  ドニスがニヤリと笑って言った。 「明日が楽しみだな」  そう言ってクレスも笑った。 「うん。今日は早く寝ようね、リヒト。明日も頑張らなくっちゃ!」  ジルは気合を入れた。 「そうだね」  ささっと終わるかな……いっぱいジルを可愛がりたいんだけどな。  なんて、夜の営みに思いを馳せているリヒトは、相変わらずの方向で考え返答した。 「リヒト。今夜は『早く』寝ろよ。いいな、くれぐれもわかったな」  ドニスに念押しされ、ハッと我に返る。 「お、おう。任せろ」 「そういう意味じゃねえよ。『早く』寝るんだぞ。『夜更かし』するなよ。う~ん、大丈夫か」  ドニスが苦笑しながら諭す。 「いいか、風呂入ったらすぐ寝る! イチャイチャは今日は封印する!」  クレスが声をひそめながらもズバッと言うと、リヒトはグッと息を呑んだ。 「やっぱりな。いいか、前にも言ったけど#受ける方__・__#の負担を考えろよ」  クレスがリヒトにひそひそと諭す。  その間、ジルに不審がられない様ドニスが夕食を取りに行こうと誘った。よくわからないが大事な話なんだろうと思い、素直にジルはそれに従った。 「ジル先輩は今日が初めてだったんだろ? いきなり一日に二回は負担になるぞ」 「やっぱりそうかな」 「ヒールかければいいって問題じゃないんだからな」 「そうだよな」 「あんまりガツガツ行って嫌われたらどうするんだ?」 「! それは困る!」 「だろう? じゃあ、今日は控えてまた明日」 「! 明日、か。じゃあ、一日一回か」 「……お前、どんだけ花畑なんだよ。ほんと、残念な天才だな」 「い、いいんだよ。天才とかじゃないんだから、俺は」 「まあ、そういうことにしといてやる。とにかく、明日からジル先輩の魔法の特訓するんだから、ジル先輩の為にも今日は自粛しろよ。やり過ぎて明日動けなかったら、お前も後悔するんじゃないのか」 「……確かに」 「はあ……疲れる」 「なにお! お前の時だって」  そう反撃しようとした時、シャルルが突然に現れた。 「リヒト! ここにいたんだ」  そう言いながらいつものようにスルリとリヒトの腕に自身の腕を絡ませる。 「シャルル、どうしたの」  そう答えながらさり気なく腕を引き抜く。 「どうしたのじゃないよ。ねえ、向こうに行かない?」  再び絡めながらそうシャルルは言った。 「ええ~? 行かないよ」  そして引き抜く。  何かのコントのような攻防戦を繰り広げる。その時、夕食のトレーを持ったジルが、ドニスと共に戻って来ていた。 「あ」  ジルは先日に見知ったシャルルの姿を見て、思わず声を漏らした。 「あ!」  シャルルもジルに気付き、そう声を発した。 「シャルル、お前」  そうリヒトが言いかけた時、ジルが口を開いた。 「こ、こんばんは」  そう言われ、まさかジルに話しかけられるとは思っていなかったシャルルは息を呑んだ。 「っ……」  こいつが現れなきゃ、僕がリヒトの番になったのに!  そんな思いが渦巻くシャルルだったが、今リヒトや彼の友人がいるこの場所で、それを見せてなるものかと思い、シャルルは必死で笑みを浮かべた。 「……こ、んばんは」  シャルルの不自然な笑みを見て、ジルも強張ったまま笑みを作る。はたから見れば微妙な二人の笑顔に、リヒトとドニスとクレスはごくっと生唾を飲み込んだ。  ジルとシャルルはじっと見つめ合う。時間にすれば十数秒だったが、ジルにはとても長い時間のように感じられた。沈黙を破ってジルが口を開いた。 「あ、あの。シャルルくん」  微妙な笑顔を張り付け、シャルルは答える。 「な、なに?」 「ぼ、僕ね、」 「あ、あ~、そうだった! 僕、呼ばれてるんだ。じゃ、じゃあね、リヒト! またね」  ジルの言葉を遮って、手を振りながらシャルルは駆け出した。 「あ、あの!」  ジルの声は虚しく消えていった。 「ジル、シャルルに話があったの?」  ジルとシャルルには接点はないはずだと思い、リヒトはよくわからないまま尋ねた。小さく息を吐きながらジルは言った。 「……うん、あのね。僕、リヒトとずっと一緒にいたいって思っているんだ。だからちゃんと、そのことをシャルルくんに伝えたかったんだけど。でも、そっか……」  そのジルの気持ちが、リヒトは嬉しかった。 「ありがとう、ジル。でもシャルルには俺からちゃんと話しておくから、大丈夫だよ」  ジルは持っていたトレーをテーブルに置いた。 「そう、なんだけどね。でも自分で言わなきゃいけないような、そんな気がするんだ」 「そっか。わかった。じゃあ、次に会った時には三人で話をしようか」 「……うん。そうだね」  ジルは自分の口で伝えたかった。シャルルの気持ちは、ジルには分かる気がした。恐らく自分も、逆の立場であれば、なにかしらの気持ちを抱いていただろうと思うから。 「さ、リヒトもドニスも、夕食貰ってきなよ」  クレスがそう言うと、二人は受付に向かって歩いて行った。 「ジル先輩、なかなかやるね」  イスに座りながらドニスが言うと、ジルは彼を見た。 「え? どういうこと?」  ジルも椅子に腰かけながら尋ねる。 「あのシャルルを黙らせるなんて、凄いな~って」 「そうなの?」 「そうなの。シャルルはね、リヒトも一緒なんだけど、俺たちの幼馴染だったんだ。まあ、シャルルはラオネさんの番を狙ってたんだけどさ。でもラオネさんに番のリラさんが現れた途端、ころっとリヒトに鞍替えしてね。俺たちもびっくりなんだよ。それからは怒涛の絡みがあってさ。しかもシャルルんとこも、名家だし、家同士のしがらみとかもあってさ。まあ、面倒な奴なんだよ」 「そっか。なんかいろいろあるんだね。僕はそんなこと全くわからなくって、なんか申し訳ないな。基本的なこと、僕は何も知らないんだね」  そう言うとジルはほうっと息を吐いた。その様子を見てドニスは言った。 「でもそれでいいんじゃない? だってリヒトはそういう人を探していた訳じゃないからさ」 「え?」 「一緒に頑張れる人を探していたと思うよ。だからジル先輩なんじゃないの? まあ、リヒトにとっては最高の番さんだと思うからさ、自信持ってよ」 「そう、なのかな」 「そうなんだよ。ずっと一緒だったからさ、俺たちにはわかるんだよ。信じてやってよ」 「うん。ありがとう」  励ましてくれたんだ。  それに気付いて、ジルは嬉しかった。こんな風に話をすることは今までなかったから。 「ありがとう」  もう一度ジルはドニスにそう言った。ドニスは一瞬驚いた顔をしたが、直ぐに笑って答えた。 「そう思うならさ、リヒトとジル先輩の恩恵のおすそ分け、よろしく」 「おすそ分け?」 「そ。エーテル開発しちゃったらさ、その後になんか俺たちともコラボ魔法しようよ」 「コラボ……うん。できるかな」 「わかんないけどさ、やってみないとわかんないしさ」 「うん。そうだね。やってみる」  二人で笑いあっていると、リヒトとクレスが戻って来た。 「なになに? なに楽しそうに話をしてるの? 超気になるんだけど」  やはりリヒトはその話に喰い付いた。ジルのことはなんでも知りたいリヒトは、トレーを置くと、ジルに尋ねた。 「うん、あのね」  ジルは先程の話を、かいつまんでリヒトに話した。
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