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第36話 6、暴走

 幸せ……幸せ……。  ああ、そうだ。リヒトと初めて繋がった時、とっても幸せだと思ったんだ。  その瞬間、キラキラと光が踊りながら現れた。瞬く間に流星群に変わる。  ……でも、でも、それがみんなにわかっちゃって、恥ずかしくって……。  ジルの心が揺れ始める。途端に光が陰り出す。  ……大丈夫かな、大丈夫なのかな。  その様子を見て、リヒトがジルに囁く。 「ジル、嬉しいこと考えようか」 「……?」  嬉しいこと? 嬉しいよ。  でも、みんなにわかっちゃうのは恥ずかしいから。  ちゃんと遮断できたよね? 大丈夫だよね?  ジルは今の心境を、そのまま考えてしまっていた。それがダイレクトに光魔法に表れ、陰りを見せた光は稲妻に変わった。 「リヒト」  ラオネがそっとリヒトに伝える。大きな声は、ジルを刺激すると考えたからだ。リヒトも理解し、ジルにそっと囁く。 「ジル、今何考えてる?」 「……?」  何? 何って、幸せなこと? だよね?   不思議に思い、閉じていた目を開くと、そこは暗雲の様な様相だった。 「え?」  な、に……これ……。僕がやったの? どうしよう!!  途端に心がかき乱される。と同時に、ドオオ――ンッという大きな音と共に、激しい落雷の光が大気を切り裂くように落ちてきた。  リヒトは魔法の遮断を図り、合わせて繋いでいる手を離す。しかしジルの魔法は止まらない。 「マズい! シメオン」 「ああ」  ラオネとシメオンは二人で結界を張る。しかしそれより速く落雷の光は大気を切り裂いた。  ドオオ――ンッ。  ピカッ。  目に見えるだけでも大きな規模の落雷に、ラオネとシメオンは大きく結界を広げる。 「ジル、落ち着こう。大丈夫だから」  リヒトは声をかけ続ける。しかし、この状況を目の当たりにしているジルには届かない。しかしリヒトもぼんやりしている訳にはいかない。ジルに声をかけつつ、ジル自身に強力な結界を張る。 「ああっ」  この状況を引き起こしているのは自分だということは理解しているが、どうしていいのかわからない。焦りが焦りを生み、更に混乱したジルは魔法を暴走させてしまう。  ドオオ――ンッ。  しかし、ジルの魔力は無尽蔵なほど底なしであり、威力が桁違いであった。リヒトが魔法の遮断を図っている以上に、ジルの魔力が上回っていたのだった。    どうしよう、どうしよう。やっぱり僕は魔法を使っちゃいけないんだ!  そう思った瞬間、今まで以上の魔法が飛び出した。しかしラオネにシメオン、リヒトに合わせ、この状況に気付いた教師陣が合わせて結界を張った為、その落雷は弾かれた。 「ジル、大丈夫だから、落ち着こう」 「リヒト、どうしよう。僕、どうしよう……」 「大丈夫だから」 「どうしよう、僕……」  幾重にも結界が張られ、更にリヒトがジル自身の魔法に結界を張ったため、これ以上の魔法は出なかった。 「予想以上だな」 「ああ。まだ早かったか」  ラオネとシメオンは、そう話しながら、被害の状況を確認し、壊れた建物の再生を図っている。 「ジル、大丈夫だから」  リヒトがそっとジルを抱きしめようとした時、ジルはハッと表情を変えて、思いきり後退った。 「ジル?」  その様子を不審に思ったリヒトが声をかけると、ジルは大きく首を振った。 「触らないで!」 「え?」 「僕に触らないで! 魔法がでちゃうっ!」  バッと勢いよく身を翻し、ジルは走り出した。慌ててリヒトも追いかける。 「来ないで!」  ジルは叫んだ。激しく混乱していた。  やっぱり僕は落ちこぼれのジルだ!  魔法なんて使っちゃいけなかったんだ! 「ジル、待って! 大丈夫だから」 「お願い、来ないで! 一人にして!」  ジルはそのまま走り続ける。しかしリヒトも追いかける。ジルが飛び込んだのはシメオンの研究室だった。奥の小部屋に逃げ込み、鍵をかけた。 「ジル、開けて」 「来ないで。一人にして。お願い」 「ジル……」  そのままジルは閉じこもってしまった。しかしジルを一人にしておくことなど出来ず、リヒトはドアに寄り掛かりながら座った。 「ジル、大丈夫だから出て来てよ」 「ごめん、リヒト。一人にして。お願い」 「ジル」 「……」  事態の収拾をして、ラオネは戻って来た。シメオンは、教師陣に詳細の報告をするために教員室に向かっていた。 「リヒト、ジルは?」  ラオネの問いに、リヒトは声を潜めて答える。 「ここに」 「そうか。リヒト、来い」 「……」  ジルに会話を聞かれない様、少し離れた場所に移動する。 「まあ、驚くだろうな」  ラオネが言うと、リヒトも頷いた。 「混乱してると思う。俺がしっかりフォロー出来なかったから……」 「まあ、そう落ち込むな。俺たちだって、ここまでとは予想外だったんだから」 「でも、俺がしっかりしてなかったから……」 「そう思うなら今からしっかりやれ」 「……そうだな」 「結果はこんな状態だが、威力は半端ないことがわかったんだ。よしとしよう」 「まあ、ね」 「お前が落ち込むなんて、らしくないぞ」 「そ、だね。うん。俺が落ち込んでもしょうがない」 「とりあえずリヒトは、これ以上の暴走があると想定して、対応策を考えろ。このままジルを潰すなよ」 「そうだな。わかった」  その時、シメオンが戻って来た。 「皆には説明したから、大丈夫。学園長も想定内だったって言っていたから、問題ない」 「被害は?」 「まあ、見える範囲の建物が壊れたけど、その時、各人がそれぞれバリアを張ったから、けが人もいない。壊れた箇所は直ぐに元に戻っているから」 「そうか。それはよかった」 「それでジルは?」  シメオンがリヒトに言うと、リヒトは頷いた。 「ここにいるんだけど、一人になりたいって」 「そうか」  三人は顔を見合わせた。 「少し様子を見るか」  シメオンがそう言うと、リヒトは頷いた。 「俺も、ここにいていい?」 「構わんよ」 「じゃあ、俺は学園長の所に行ってくる」  ラオネはそう言うと、移転魔法を使った。  ジルは混乱していた。  もう、魔法はいい。魔法は使わない。  ぐるぐる、ぐるぐると、ネガティブな思考に囚われる。  ……リヒトと一緒にいたら、魔法を使っちゃうから……離れよう。  そう決意する。そんなことできるはずはないのに。    もう学園を辞めよう。僕には無理なんだ。  僕が魔法を使ったら、ダメなんだ。  そしてどんどん悪い方に心が沈んでいく。  みんなもそう思ってる。  僕は無属性のジルなんだから、こんな無理な事をしちゃいけなかったんだ。  身の程を弁えよう。  そんな思考に囚われているジルに、リヒトはそっと囁いた。 「ジル、部屋に戻ろう?」 「……僕はここにいる。リヒトの部屋には戻らない」 「どうして?」 「……どうしても」 「訳を聞かせてよ」 「わかるでしょ? 僕は魔法を使っちゃいけないんだよ」 「そんなことないよ。だって」 「そんなことあるよ。見たでしょ、あれ。あんなの、あんなの……」 「あれはあれで凄い魔法だよ」 「そうじゃないよ。あんなの、普通、街中で出す? おかしいよ。変だよ。僕は魔法を使っちゃいけないんだ。もう使わない。……使えないよ」 「そんなことない。俺がしっかりしてなかったからだ。ジルのせいじゃない」 「僕のせいだよ。リヒトのせいじゃない」 「ううん。俺のせい。ごめんね、しっかりフォローできなくて」  リヒトの悲しそうな声が、ジルの心に聞こえてきた。
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