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第37話 7、葛藤

「……リヒト?」  リヒトの悲しそうな声が聞こえてきて、ジルはハッとした。   「俺がしっかりしてないから、ジルが自分のせいだって言っちゃうんだよ。俺がしっかりジルをフォローすべきなのに、ごめん。自分が情けないよ」 「そ、そんなことないよ。僕があんな魔法を出しちゃったからいけないんだ」 「そうじゃないよ。ジルはまだ魔法を使って間もないんだ。失敗して当たり前。それにどう対応するかが大事なんだ。それなのに……でもね、ジル。俺は逃げないよ」 「リヒト?」 「俺はジルと魔法を使いたい。一緒に頑張りたい。ジルと番になって、今みたいに一緒に魔法を使いたい」 「……リヒト」 「だから逃げないで、ジル。俺と一緒に頑張ろうよ。俺、もっと魔力強化するからさ。ジルが安心して魔法使えるように、俺、頑張るからさ」 「……リヒト。……うん」 「じゃあ、ここ、開けて。一緒に部屋に戻ろう?」 「……うん。ごめんね」  そう言うと、ジルは鍵を開け、部屋を出てきた。 「よかった」  リヒトはジルに近づき、そっと抱きしめた。ジルはそれを受け入れた。 「俺と一緒にいてよ。逃げないでよ」 「……うん。ごめん」  二人で抱きしめあった。 「じゃあもう大丈夫かな」  シメオンが言った。 「シメオン先生っ!」  ジルは慌ててリヒトから離れた。 「まあ、若いんだからさ。色々あるさ」  シメオンがそう言うと、ジルは俯き気味に顔を伏せるも、視線はシメオンを見る。 「シメオン先生……僕……」 「失敗を失敗と捉えるか、失敗を糧にするのか。それはジル次第だよ。今回の事態は、俺たちの想定が甘かっただけだ。ジルが気にする必要はない」 「でも……」 「そう思うなら、今までみたいに必死にコントロール覚えよう。俺たちも対応策を考えている。これ以上の暴走にも対応できるようにな。せっかく道が開けたんだ。進んで行こうな」 「はい。ごめんなさい」 「若いっていいね。ははっ」  シメオンは笑った。 「それよりも、威力だよ。あれは凄い。ラオネと俺の結界でやっとだった」  シメオンが言うと、慌ててジルは手を振った。 「それは、魔法を出すよりも抑える方が難しいからで」 「それでも、だ」 「……はい」 「ジルは体の調子はどうだ?」 「いえ、別に」 「……そうか。これだけの魔法を使っても平気か。やはりな」 「?」  シメオンは笑みを浮かべて、ジルに言った。 「まあ、とにかく、失敗を恐れずやってみるしかないだろう。お前たちはまだ若い。失敗して当然だ。だからいろいろやってみろ」 「そうだよ、ジル。一緒に頑張るんだよね」  リヒトもそう言って笑った。  本当はまだ怖い。  また暴走して大事になるんじゃないのかという、怖い思いが消えていない。  でも、一緒に頑張ろうと言ってくれる。  やってみろと応援してくれる人がいる。  とにかくコントロールを覚えよう。  そうジルは決意を新たに頷いた。  その後ジルは、コントロールを学ぶべく、戻って来たラオネとシメオン、それにリヒトが張った結界の中で魔法を放つ練習をする。  先程のような雷鳴まではいかなくとも、かなり大規模な魔法も飛び出し、ジルはその度に落ち込んだ。  確かに威力は、自分でもびっくりするくらいなんだけど、出したい魔法が、出したいレベルで出せない。  ジルの魔法は、威力はあるが、逆にジルの意志に反している。こんな大きな魔法を使いたいわけじゃない。  そよ風が風に。  小指の先ほどの明かりの様な火ではなく、何かを燃やせる程度の火。  小さな花ではなく大輪の花を。  あんな稲妻ではなく、キラキラ綺麗な光を。  思いと現実の落差に沈んでいく。  なんで、なんで僕の魔法は、僕のいうことを聞いてくれないんだろう。  今までは魔法を出したい、属性が現れて欲しいということに悩んでいた。しかし今は、魔法の威力に悩まされているのであった。  午後の授業も終わり、ひとまずは今日は終わりになった。 「とにかく今は、ゆっくり休むこと。いいね。今一人で特訓とかは控えるように」  ラオネがそう言うと、ジルはこくんと頷いた。 「はい。わかりました」 「俺も気を付けるから」  リヒトもラオネに伝える。 「そうだ。母さんから伝言。明日は週末だから、うちに帰ること」  ラオネがそう言うと、リヒトは頷いた。 「わかった。そうする。ジルもいいよね」 「え? あ、うん」  ジルは頷いた。 「じゃあ、ひとまず今日はこれまで。また来週だな」 「はい。シメオン先生、ラオネさん、今日は僕の為にありがとうございました」  ジルはペコリと頭を下げ、退室した。廊下を歩きながら、ジルは先程のことを考えていた。  とにかく魔法を抑える。  ひたすらに考える。そんなジルに、リヒトはゆっくり話しかける。 「ジル、大丈夫だから」 「……うん。わかってるんだけど、やっぱり、ね……」 「俺が頑張るからさ。信じてよ」 「リヒトのことは信じてるよ」 「うん。でもさ。やっぱ、うん。頑張る。ジルが安心できるように」 「リヒト……ありがとう」  そんな話をしながら、寄宿舎に向かう。やはりというか、なんというか。リヒトの部屋の前にはシャルルとその取り巻きたちがいた。 「リヒト!」  やはりシャルルは、リヒトに抱き着いてきた。 「ちょっ、シャルル」  リヒトはシャルルを引きはがそうとするが、今日のシャルルはいつもと違い、しっかりと抱き着いている。 「リヒト~。僕、今の怖かった~。何なの、今の」 「シャルル、あれはな」  その言葉を聞き、ジルの心臓は跳ねた。  今、今のっていうのは、僕の魔法のこと、だよね……。  心臓がドクンドクンと煩い位に聞こえる。  わかってる。僕が自分でしたことだから。皆の気持ちもわかるから。  自分が逆の立場であれば、あんな魔法がいきなり振ってきたら、堪らないだろう。シャルルとその取り巻きたちの怒りと不安は、よくわかる。  わかるからこそいたたまれない。でも。  リヒトと約束したから。  シメオン先生もラオネさんも、フォローしてくれるって言ってくれたから。  僕は自分の魔法を信じたい。 「ごめんなさい。僕です。僕がしました。ごめんなさい」  ジルは頭を下げ、謝罪する。 「ジル! ジルだけのせいじゃ」  慌ててリヒトは言い募るが、シャルルはその言葉に上乗せする。 「ええ~? 君なの? あんなに怖い魔法を君が出したの? そんなにこの学園が嫌いなの? 君のことを認めない学園を破壊しようとしたんだよね。皆もそう言ってるよ」 「そ、そんなつもりはなくって」 「そんなつもりはないっていうことは、潜在意識って言う奴~? もっと怖いよ! 無意識に壊したいって思ってるんだ! リヒトもこの人から離れた方がいいよ。あっちに行」 「シャルル、いい加減にしろ!」  その時、思いきりシャルルを振りほどき、リヒトは叫んだ。 「え?」  シャルルは呆けてしまった。  リヒトはなんで怒っているんだろう。  こんな恐ろしい魔法を使う無属性の人を、なんで庇うの?  僕がリヒトの番になるんだ!  こんな……こんな無属性の人なんかに、僕が負けるの?  認めない!  認めないっ!  僕はこんな奴、認めないっ!  シャルルはジルに魔法を放った。それは違反であった。学生同士の魔法での争いは校則違反であった。しかしシャルルは怒りのあまり、それを忘れてしまっていた。  シャルルの取り巻きたちは慌てた。  話が違う。  ただ、この無属性の人をいじめてやろうとしていただけだ。  こんな、魔法を使うなんて聞いてない!  取り巻きたちは退学になどなりたくはない。しかしシャルルは魔法を放っていた。
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