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第38話 8、ダイヤモンドダスト

「シャルルっ! やめろ」  慌ててリヒトはシャルルに結界を張る。しかしそれより先に、シャルルの魔法は飛びだし、リヒトの魔法は弾かれ、相殺する。  しかし再度氷の結晶が上空高く舞い上がったかと思うと、小さな氷晶が集まり、一つの集合体となる。その瞬間、ジル目掛けて降り注いできた。 「チッ!」  リヒトはジルに幾重にも結界を張った。  パア――ン!    結界に弾かれ、氷晶がキラキラと落ちていく。 「シャルル、それは違うでしょ。謝って」  リヒトはシャルルを見た。 「僕は悪くないっ! そいつが悪いんだっ! 僕のリヒトに近づいて、僕からリヒトを取ったんだっ!」  シャルルは再びダイヤモンドダストを放つが、それもリヒトの結界に弾かれる。  ダイヤモンドダストは水魔法の高等魔法になる。シャルルの得意魔法だ。しかしリヒトには通用しない。  パア――ン。  パア――ン。  何度も何度も弾かれる。 「ねえ、シャルル。俺はシャルルを番にしたいだなんて言った覚えはない。俺の番はジルだ。ジルだけ。他にはいらない」  リヒトは、再度シャルルに結界を張り、魔法を封じ込める。 「そんなの認めないっ!」  シャルルはダイヤモンドダストを放つ。しかしリヒトの結界に封じ込められていて、それは叶わない。 「俺、言ったよね? 二度はないって」  リヒトが更に魔法を使う。今リヒトは、ジルとシャルルに結界を張っている。その上で更に魔法を使う。  先ほどのシャルルの様に、上空に氷の結晶が集まってくる。先ほどとは桁違いの量に、ジルは慌てた。 「リヒトっ!」  ジルは叫んだ。 「なんで僕の魔法が出ないんだよっ!」  シャルルも慌てる。  今、目の前に、憎い相手がいるのに!  こいつがっ! こいつさえ現れなければっ!  しかし、シャルルの魔法は封じ込められている。 「リヒトっ!」  だめ! だめっ!  ジルはリヒトに飛びついた。リヒトがハッと我に返る。その瞬間、氷の結晶が勢いなく落ちてきた。  パラパラ……。 「リヒトっ! だめっ!」 「ジル……」  リヒトはジルを見つめた。ジルは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。 「ねえ、シャルル君。僕が嫌い?」  ジルはリヒトに抱きついたまま聞いた。 「嫌い? そんなもんじゃないよ。憎いよ! 消えて欲しいよ!」 「シャルルっ!」  そんなシャルルの答えに、リヒトは叫んだ。しかし。 「待って、待ってリヒト。ねえ、シャルル君。僕は君の気持ちはわかるよ。でも、これはだめ。やるなら魔法抜きでやらなくっちゃ。魔法じゃないでしょ」  そうジルは言った。 「何でもいいんだよっ! リヒトの番になるんだ! 僕なんだよ、リヒトの番になるのはっ! あんな恐ろしい魔法を使う君なんかじゃなくって!」  シャルルは叫ぶ。 「それでも、こんなことしても、だめなんだよ。魔法の使えない僕を好きになってくれたリヒトなんだよ? 魔法じゃないんだよ」  ジルはシャルルを向き、そう言った。 「シャルル、俺はシャルルと番にはならない。もうやめようよ」  リヒトはジルの肩に手を置き、シャルルに言った。 「絶体に許さない!」 「許さなくていい」 「絶対にあきらめないから」 「それでもだめだから」  ジルとシャルルは視線を絡める。  シャルルはわからない。何故自分が選ばれなかったのか。わからない。いつか分かる日が来るかもしれないが、今は無理であった。怒りのまま、シャルルは駆け出した。ジルはその後姿を見つめた。 「さっきはありがとう、止めてくれて」  リヒトはジルにそう言った。思わず我を忘れるほどの怒りにのまれそうになっていた。しかしジルの声が、リヒトに届いた。 「ううん。僕の方こそ、守ってくれてありがとう」  ジルはそう言って笑った。 「まだまだ修行が足りないな」  苦笑してリヒトは言った。  感情にのまれるのは、何もジルだけではない。リヒトもそうなんだと、ジルは知った。だから。 「僕もリヒトも、同じなんだね。安心した」 「え?」 「僕もリヒトも修行が足りないんだよ。だから、一緒に頑張りたい。一緒に頑張ろう。今みたいなときにも僕がリヒトを守れるように」  ジルは笑った。そのジルを見て、リヒトも笑った。そして二人は、ジルの移転魔法で、学園長の部屋へ向かい、今の話を報告した。  シャルルは一週間の謹慎となった。本来であれば退学であるが、今回はジルの魔法の暴走ということが前提であったので、そのことを配慮された。  取り巻きたちも一週間の謹慎処分となった。見ていて止めなかったこと、さらにはジルへの嫌がらせを計画していたこと、それらを併せての処罰であった。  それが事実として、ジルの胸に重く残った。それを事実として受け止めながら、ジルは今日、リヒトの生家であるギュスターヴ家へ行くことになった。 「おはよう、リヒト」 「おはよう、ジル。よく眠れた?」 「うん。よく眠っちゃったから、寝坊しちゃったね」 「ううん。全然大丈夫」  二人は起き上がって、早速支度をする。  まだ二人の耳には、今回の騒動の話は耳に入っていない。だが、どんな風に噂されているのかは、なんとなく理解していた。  そして互いにその話には、敢えて触れない。  若干の気まずさを隠しながら、二人は支度をしていた。 「ねえ、リヒト。リヒトってさあ、僕の考えていること、わかるんだよね?」  ふいにジルが聞いた。 「うん、そうだね。でも普段はやっぱりプライベートだろう? だから蓋をしてる」  リヒトがそう言うと、ジルはふんふんと頷いた。 「それって、どうやってるの? いつもいつも出来るんでしょ?」 「どうやってって言われると、う~ん、待って。今考える。……うん、そっか。えっとね、自分の頭の中にバリアって言うか結界って言うか、そんな薄い膜を張ってる感じ?」 「薄い膜?」 「そう。昨日ジルに張った様な結界の薄いバージョンって感じかな」 「そっか。ちょっと手を繋いでいい?」  ジルはリヒトと手を繋ぎ、魔力の流れを感じた。  薄い膜……薄い膜……。  しかし上手くいかない。  薄い膜を張る。遮断する……。  理屈ではない感覚の問題に、ジルは苦戦する。 「……あ~、わかんない」  大きくため息を吐くジル。そんなジルに、リヒトは苦笑して答える。 「感覚の問題だからなあ……でも、諦めないでやってみよう」 「そうだね、うん。頑張る」  朝食を食べるために、ひとまず食堂に向かう。朝食の時間が終わる30分前なので、食堂には人は少なかった。また、週末なので、実家に戻る人も多く、いつも以上に閑散としていた。 「ゆっくり食べられるね」 「うん」  昨日の今日なので、ジルはあまり人に会いたくはなかったので、ホッと息を吐いた。二人で朝食を受け取ると、窓際の席に向かった。 「とにかくさあ、俺の魔力をあげてみることが一番の問題解決かなって思うんだけどさ」 「うん、ありがとう。僕も僕の意志に反する魔法について調べてみる。リヒトの家は魔法の専門書たくさんあるかな?」 「もちろん。自由に読んでよ」 「ありがとう。遮断、遮断かあ。あ、自分に結界を張っておくってのはどうかな」  ジルの魔法は無尽蔵なくらい溢れている。それならば、常に自分に結界を張っておけば、もし魔法を暴走させたとしても、抑制にはなるのではないのかと考えたのである。
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