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第42話 12、ジルの魔法!

 一週間しっかりと籠った二人は、やっと部屋から出てきた。  昨日はジルの発情も、だいぶ治まっていたのでゆっくりと過ごした。そのお陰で、ジルの体力は完全ではないものの少々復活していた。 「やっとでてきたようだね。体調はどう?」  アーロンに声をかけられ。何を意味するのかわかったジルは赤面した。 「あ、あの。お世話になりまして……」  尻すぼみに、ごにょごにょ話をするジル。 「はははっ。しっかり体力着けないとね。リヒトが相手だから、頑張ろう」  それが何を意味するのかわかり、更にジルは赤面した。それを聞き、リヒトは言った。 「当然なんだけど、あんまりジルをからかわないでよ」 「おや? 何を言ってるんだ、リヒトは。ジルくんが倒れたら困るだろう。我が家のαは精力的なんだから、しっかり体力をつけなくっちゃ。なあ、ソフィア」 「あらあら。まだ若い二人にそんなことを。ほほほっ」 「父さんと母さんの話は、なんか生々しいからいいよ」  そんな会話さえも赤面が止まらないジルだった。 「ああ、そうだ。報告。多分ジルに赤ちゃん出来たかも」  エヘヘと笑いながら、リヒトは言った。  ええ~? 今このタイミングで言うの~?  ジルはびっくりした。もし妊娠しているのならば、いずれ話す必要はある。しかしまだ確実ではない。 「リ、リヒト。まだ早いよ」 「早くないよ。もし妊娠してたら」 「うん。そうね。恐らく妊娠していると思うわよ、ジルくん」  ソフィアは微笑んで言った。 「え?」  なんでわかるんだろう。  そんなジルの疑問に答えるように、ソフィアは言った。 「ジルくんにもわかるわよね。私にもわかったわ。ジルくんの中に、リヒトと同じ魔力を感じるの。母親だからわかるのよ。ね」 「……はい」 「恥ずかしいことじゃないのよ。胸を張って。命を授かることの難しはわかるわよね」 「はい。もし、ここにリヒトとの命が宿っているなら、僕は産みたいです」 「ふふっ。大丈夫よ。リヒトも私達もいるのよ」 「はい」  ジルはリヒトを見た。リヒトもジルと同じように微笑んでいる。  リヒトの赤ちゃん。ここに、ここにいるんだ。  僕、産みたい。ねえ、僕は君を産みたいよ。君に会いたいよ。 「ねえ、リヒト。僕、この子を産みたい。この子に会いたいよ」  ジルはその思いをリヒトに伝える。リヒトも頷いて言った。 「俺も産んで欲しい。俺が守るから。ジルもこの子も、俺が守るから」  そして、アーロンとソフィアを向いて、リヒトは頭を下げる。 「まだまだ未熟なので、フォローお願いします」  それを聞き、アーロンとソフィアは微笑んだ。 「当然だ。任せなさい」 「ふふっ。大丈夫よ」  ありがたいなあ。僕はこんなにも守られている。  そう思い、隣に座ったリヒトの手に、自身の手を重ねる。  リヒトにもみんなにも、僕は守られている。  リヒトとこの子と一緒に、僕は生きていく。  ジルは改めてそう思った。その瞬間、ジルからエーテルが飛び出した。  ジルの体の背後から、白い靄のような、霧のようなものが上空に伸び、天井に消えていく。そして透明な光が、周囲を包み込むように消えた。  リヒトを始め、アーロンもソフィアも周囲の者も、それを目撃した。  しかしジルには、透明な光が霧散する様のみが視界に入っていた。 「あ、れ? 今の、魔法? リヒト、今の、見た?」  ジルはリヒトに聞いた。 「凄いね、ジルの魔法。今のエーテルだよ」  リヒトは微笑みながらジルにそう言った。 「連続で癒されるなんて、ちょとラッキーかしら」  ソフィアが、ふふっと笑みを浮かべながらそう言った。そう言われれば、体が軽い。 「エーテル? 僕が? 今?」  困惑のままジルは尋ねる。 「うん。番になったからかな、自然とジルと俺の魔力が繋がったね。そんで多分、その子が制御してるみたい。だから『大丈夫』って言ったんじゃないかな」  リヒトが頷きながらそう言った。 「ふうむ。そうみたいだな。なるほど、そういうことだったのか。これはまた恥ずかしい能力だね、ジルくん」  何かに辿り着いたアーロンは笑った。 「? あのぉ、それ、どういう意味、ですか?」  ジルにはよくわからないが、悪い話ではないのだろうと思った。思ったがジルのその意味を知りたい。 「はははっ。まあ、いずれわかるだろうけどね。ジルくんの能力はみんなで手を取り合うことで発揮される能力と言うことだね」  アーロンの言葉を考える。  みんなで手を取り合って? みんなで? ……?  アーロンにそう言われるも、よくわからないが考える。  リヒトと番になって、魔力が繋がったということは、僕自身に魔法が使えるということ。  僕の意志で使えるということ?  じっとリヒトを見つめる。  リヒトの精を受けた時も、一時的だったけど僕の意志で魔法が使えた。  そして今、アーロンさんが言ったこと……みんなで手を取り合えばってこと……この子も入れてってことだよね。  この子は……『大丈夫』って言ってる?  大丈夫……みんなで手を取り合って……はっ! そういうことか!!  何かに考えが行きついたジルは、顔から火を噴いた。 「はははっ。理解できた?」 「は、はい……」  みんなで手を取り合って。  ジルはそれを想像した。言葉通り、『みんなで手を取り合って、手をつないで』。それは、まさに言葉通りの姿だった。  リヒトとこの子がいる僕が、手をつないで……いずれ産まれるだろうこの子と三人で手をつないで、輪になって? 魔法を出すってこと? だよね?  チラリとリヒトを見る。リヒトは微笑んでいる。  ……そんな魔導士、今までいなかったよね。  でも、恥ずかしいけど、それが僕の魔法なんだ!  ジルは真っ赤な顔のまま頷いた。 「恥ずかしいけど嬉しいです。僕じゃないとこんなことは出来ないってことですよね。みんなと違うんだけど、それが僕なんですよね。リヒトがいるから出来ることだし、この子がいるから出来るようになることがある。それって幸せなことですよね」  ジルはアーロンにそう言った。 「その通りだよ。凄いねジルくんの魔法は。リヒトもお腹にいるだろう子も、恐らくはジルくんの魔法を活かすための能力に特化しているはずだよ。まあ、それはおいおいわかってくるだろうけどね」  アーロンがそう言うと、リヒトも言葉を添えてきた。 「俺も嬉しい。じゃんじゃんサポートするから、ジルはジルがやりたいようにやってよ。それが俺は嬉しいな」 「ありがとう、リヒト。うん。僕やってみる。魔の森の実務訓練にも行きたいし」  そうジルが言うと、リヒトは驚いた。 「魔の森、すぐに行くの? 安定期に入ってからの方がいいんじゃ」 「うん。そうだろうけど、多分大丈夫だと思うよ。だってこの子、リヒトとの子だもん」  ふふっと笑うジルに、リヒトもつられるように笑った。 「なるほど。しつこそうだ」 「しっかりしてるってことだよ」 「そうとも言うのかな」 「ふふっ」  そんな二人を、アーロンとソフィアは見守った。  妊娠中は不安定になりやすい人が多い為、見守りが必要と思われる。基本的にはいつもリヒトがいるし、学園にはシメオンもいる。必要があればラオネにしろアーロンにしろ動けばいい。いざとなればアーロンの弟である学園長も動かせばいい。  着々とアーロンの頭の中に、かわいい息子カップルへの包囲網が敷かれ始めていた。 「じゃあ、俺たち戻るから」  もうジルのうなじには、リヒトとの番の証である噛み跡がある。ジルの項にはあのプロテクターはない。 「ああ、気を付けるだろうけど気を付けて」  アーロンがそう伝える。 「いろいろありがとうございます。これからもよろしくお願いします」  ジルは頭を下げた。 「ああ、そうだ。リヒトと番になったんだから、名前、もういいね」  アーロンに言われ、ジルは素直に頷いた。 「はい。よろしくお願いします」  除名されることはわかっていたこと。しかし今、除名ではなく番になったから名前が変わることに、ジルの胸は何とも言えない思いを抱いた。  求められることって、こんなにも嬉しいことなんだ。ありがたいなあ。  感慨深い想いを抱いているジルに、リヒトがそっと声をかける。 「俺が守るから。一緒に頑張ろう?」 「うん。よろしくね。リヒトでよかった。リヒトがいい。リヒトの横にいるのは僕がいい」  心からジルはそう思った。 「勿論俺もだよ。ありがとう」  リヒトも嬉しかった。ただ守るだけではなく、共に支え合って歩いて行けることに幸せを感じてた。  そして二人は寄宿舎に戻った。そして、やはり待ち構えていた人がいた。 「特大魔法、出たなあ。さすが!」 「ほんと、最高。エーテル見たよ」  ドニスとクレスである。ジルとリヒトの魔力を感じ、二人が寄宿舎に戻って来たことを感じた二人は、急ぎここに集まっていた。 「ふっふっふ。そうだろう、そうだろう」 「おい、なんでリヒトが威張るんだよ」 「俺のジルだし。ジルが凄いと俺が嬉しいし」 「さすが花畑だな。リヒトは健在ってことか」  四人で笑いあう。そして報告。 「僕、リヒトと番になりました」  二人にはそう報告をする。仲間だから。 「そっか。おめでとう」 「よかった、よかった。ってことは、妊娠?」  リヒトのことを良く知っているふたりは、やはり妊娠に行きついた。 「……うん。多分」  恥ずかしいが、二人には正直でありたいと思うジルは、素直に頷いた。 「すっげ~なあ。在学中に子どもか。さすがリヒト。子連れ授業か」  ドニスが言うと、リヒトが笑う。 「学園長に相談するけど、多分そうなる。なんでもありだからな、この学園は」 「確かにな。以前そうしてた人たちもいたしな」 「うん。それにこの子もジルの魔法に、何かしらの影響があるみたいだしね」  リヒトがそう言うと、ドニスとくクレスがジルを見た。 「なんか僕の魔法はね、みんなで手を取り合って出すみたいなんだよ」  恥ずかしそうに、これも報告する。 「さすがリヒトの番さんだな、ジルさんは。うん、なんか面白くなってきたよ」 「こりゃあ、俺たちにもマジでおすそ分けあるかもな」 「いや、逆かもしれないぞ。今までの流れで考えると、そうだと思ったことより、なんじゃこりゃって方向に流れてないか」 「確かにそうだな。リヒトだし、そんなリヒトの番さんだしな。まあ、普通じゃあないわな」 「そうそう。そんなリヒトの番さんなんだぞ、ジルさんは。まあ、普通じゃあないわな」 「ってことは、産まれてくる子も普通じゃなさそうだな」  ひそひそと、ドニスとクレスは話をする。当然リヒトとジルは二人の世界に入っていたので、その様子は見えていない。  改めて二人は、ジルとリヒトを見た。そして笑った。 「まあ、よかったんじゃないのかな?」 「そうだな。ジルさんの魔法が暴走した時はちょっと焦ったけど」 「ちょっとか?」 「……だいぶ?」  二人は顔を見合わせると、苦笑した。
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