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第43話 第四章・ジルの魔法! 1、気持ち新たに

 ドニスとクレスは、二人で今後の話をしていた。 「だよな」 「まあ、でも、面白くなってきたな。っていうか、魔の森、行けるのか?」 「行くんじゃないのか、この二人なら」 「……まだ全然安定期じゃないだろ、ジルさん。っていうかここ数日の話だろ、それ」 「だってリヒトだぞ。その番さんだぞ」 「……行くわな、多分」 「……」 「……」 「まあ、俺たちも微力ながら助太刀するか」 「だな。後でシメオン先生にアドバイスして貰おう」  二人は二人で、ジルとリヒトのことをフォローしようと考えたのであった。  周囲にささり気なくフォローされながら、ジルとリヒトは部屋に戻った。 「今日はどうする?」  リヒトに言われ、ジルは考える。 「今日は休みだよね? 明日から授業が始まるから、今日はゆっくりしたいな」 「そうだね、そうしよっか」  リヒトはジルと一緒であればどこでもいいし、何をしても楽しい。花畑のリヒトは、少し音階のずれた鼻歌を歌っていた。  リヒト、ご機嫌だ。ふふっ。僕もなんだか嬉しいな。  ジルはご機嫌なリヒトを見ながら、穏やかな午後を過ごしていた。  さて、こちらはあのシャルルである。やっと不本意な謹慎も終わり、さあ、と腰を上げていた。そして当然、エーテルの魔法が放たれたのを確認している。  しかしシャルルは諦めてはいなかった。  そう。αは一人だけではなく、複数の番を持つことが出来る。例えジルがリヒトの運命の番であっても、今までの人生から考えても、自分の方がジルよりも愛されると思い込んでいたのであった。  そして考える。どうすれば自分のうなじを噛ませることが出来るのかを。  ――ヒートだ。これしかない。  そうシャルルは考えていた。自身の発情期に合わせて、リヒトを誘い込もうと算段していたのであった。  リヒトは知らない。当然ジルも知らない。しかしシャルルは考える。  もう凡ミスはしない。やるなら確実に、正確に。  謹慎中、シャルルが動かなかったのは、そういう考えからであった。そんな状況の中、リヒトとジルは、仲間達と共に、魔の森への実務訓練に向かう計画を考えていたのであった。  翌日。ジルとリヒトは、学園長に今の状況を伝えた後、シメオンの部屋へと向かっていた。 「シメオン先生、一週間すみませんでした」  ジルがそう言うと、シメオンはニヤリと笑って答えた。 「知ってるよ。よかったね」  そのシメオンの言葉に含みを感じ、ジルの顔はほんのり赤くなった。  ……恥ずかしいけど、大丈夫。ううん。恥ずかしいなんて思っちゃ、この子に失礼だ。  そう思うと、恥ずかしいという気持ちよりも、嬉しいという気持ちが前面に押し出されてきた。 「はい。ありがとうございます」  そう言ってジルは微笑んだ。  僅かな変化ではあるが、ジルの様子が、一歩また一歩と前進していることを、シメオンは感じた。それと同時に、やはり運命の番と番う事の重みを感じているのであった。 「昨日聞いたけど、本当に実務訓練大丈夫?」  まあ大丈夫だろうとは思いながらも、念のため確認する。すると、予想通りの元気な返事が返ってきた。 「当然! な、ジル」 「うん。シメオン先生、よろしくお願いします。今のところ魔法はまだ不安定なんですけど、この子がいるからなんとなくだけど、大丈夫って思えているんです」  そう言うと、ジルはふわりと笑んだ。 「そうか。まあ、俺も一緒に行くから大丈夫かな」  そして三人は、実務訓練の計画を練り始めた。  今回は初級コースでの魔物討伐である。二年の他クラスと合同での訓練になる。とはいえ、コースは別である。ジルたちは初級コース。二年の他のクラスは中級コースである。  今まで魔の森に入ったことのないジルなので、まずは場慣れから始めようと考えたのであった。 「はい、そのコースでお願いします」  まだ魔法を制御できる自信はないのだが、なんとなく大丈夫だという思いが、ジルの中に生まれていた。 「ジルは無理をしないこと。少しでもダメだと思ったら、すぐに引き返すからね」  シメオンはもう一度念押しをした。 「はい。わかりました。よろしくお願いします。リヒトもよろしくね」 「勿論! 俺がジルとこの子を守るから」  番ったことで、より一層、ジルに対する想いが湧き上がっているリヒトであった。  そんなこんなで、一週間後。いよいよ魔の森の実務訓練に向かうことになったジル。当然リヒトを始め、シメオン、ドニス、クレスも一緒だ。 「いよいよだな。ワクワクするぜ」 「だな。マジでこのパーティーで行ってるなんて、面白過ぎ」  ドニスとクレスは興奮したように盛り上がっている。 「ジル、体調は変わりない?」 「ふふっ。大丈夫だよ、リヒト」 「そう? きつかったらすぐに言ってよ」 「うん。その時は言うね」  5分おきに聞いてくれるけど、僕は結構、丈夫なんだけどな。  ジルが好き過ぎて、リヒトは何度も何度も……そう、それは何度も何度も同じように、ジルにそう言っていた。  でも、こんなに僕のこと思ってくれるんだよね。嬉しいな。  心がほっこり温かくなることを感じたジルから、早速光魔法が飛び出していた。 「さすがジルさん。早速光魔法でちゃってるね。無自覚なのがまた面白い」 「だな。本人、全く気付いてないよな」 「でもさあ、なんか今までの光と違うくないか?」 「そう言やあ、そうだな。なんて言うかクリアになった?」 「威力増したか?」 「逆か? 抑えが利いてるのかも。お子様のおかげか?」 「番効果か?」 「どっちにしろ、まあ暴走はなさそうだな」 「どうなのかな。ほんと、わからん」 「ふははっ。だな」  ドニスとクレスは、そんな感じで二人の背後から観察していた。  ――魔の森。  ここは冒険者たちや、ジル達のような訓練生、そして腕試しの者達が集う場所。  今回ジル達が挑むのは、初級コース。比較的安全なコースではあるが、油断は禁物である。  今回の実務訓練は、ジルの腕試しと、パーティーの協力体制についての実践である。 「ジル、スライムがいるけど、どうする?」  今、目の前に早速現れたスライムに、リヒトがジルに声をかけた。 「か、かわいい……」  ジルが呟いた。 「「「え?」」」  リヒトとドニス、クレスは、声を揃えてそう言った。スライムはぷるぷる震えているように、ジルには見えた。 「かわいいね。リヒト、スライムだよ。かわいいね。ぷくぷくしてる」  そう言いながら、ジルはしゃがみ込んでその手を伸ばした。 「「「……っ!」」」  息を呑む三人をよそに、ジルはスライムをぷにぷに触った。その時、ジルのその手からは僅かに光が出ていた。そう、エーテルだ。  エーテルは一瞬で魔物を屠ることが出来る、全属性魔法の中でも高等魔法になる。そのエーテルをほんの僅かにその手に宿しながら、スライムに触れていた。  だからスライムの魔属性が、ジルの手に宿った僅かなエーテルにより、消えた。 「ふふっ。かわいい。ぷよぷよだ」  ジルが振り向くと、その手の中にスライムを抱えていた。 「……ジ、ジル?」 「どうしたの? リヒト? かわいいよ、スライム」  嬉しそうなジルに、三人は絶句していた。しかしシメオンは笑みを浮かべていた。
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