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第44話 2、ジルの能力

 そういうことか。  シメオンはそう思った。  ジルの魔法は、今までは暴走するほどの威力を発揮していた。ジル本人の思いとは裏腹なほどに。しかし、リヒトと番になり、恐らくは妊娠し、子を宿している今のジル。それらが相互に作用して、またまた思いがけずに、ジルの魔法を進化させていると感じた。  ジルの魔法は、ジル一人では何の効果も発揮しない。しかし番というスパイスを投入したことで、効果が発揮された。そしてその番との子どもが宿されたことで、更に効果を進化させたのだと。  ジルは一人では無属性のΩであった。それはこの為だったのだと、シメオンは理解した。 「そのスライム、どうする?」  シメオンがジルにそう言った。 「かわいい……けど、連れて行ったらダメだよね……」  じっとそのスライムを見つめた後、リヒトに尋ねる。 「えっと、ジルはどうしたい?」  ドキドキしながらも、リヒトは尋ねた。尋ねながらも、ジルのその様子から、どうしたいのかはわかっていたのだが。 「……連れて行ってもいい?」 「うん。いいよ」  リヒトは即答した。先程は衝撃の為、若干驚いてはいたのだが、愛しい番であるジルの願いを叶えることが、リヒトの喜びなのだから。 「ありがとう、リヒト。でも学園では無理、だよね……」 「大丈夫。父さんに聞いてみよっか」  アーロンであれば、良策があるだろうと考えた。実際どうにかするのであったが。 「…………」 「……」  リヒトは脳内で交信を始めた。ジルもみんなもそれを見守る。 「うん。大丈夫。父さんもエーテルは使えるから、なんとかなるってさ」  そのリヒトの言葉を聞き、ジルは微笑んだ。 「よかった。ぷにちゃん」 「ぷにちゃん?」 「うん。ぷにぷにしてるから、ぷにちゃん。あ~かわいい」  思わず、すりすりするジルに、リヒトはジェラシーを抱いた。 「ジル、俺も」 「え?」 「ぷにちゃんだけにはダメ」 「……うん」  ちょっと恥ずかしかったが、ジルは素直に頷いた。当然シメオンとドニス、クレスは、さりげなく凝視した。 「……いい?」 「うん」  満足そうにジルの頬ずりを堪能したリヒトは、すぐにご機嫌になった。  ……簡単な奴……  そう思いながら生温かく見ていた。  さて、そうこうしているうちに、初級コースの中盤に差し掛かっていた。これまで順調にここまで来た一行だったが、ここで初級のボス級が登場した。大型犬のケルベロスだ。ちなみに牛肉の様でおいしい。それが複数犬現れたのだ。  スライムのぷにちゃんを抱えたままのジルに、リヒトは聞いた。 「ジル、こいつらどうする?」 「どうしよっかな。どうしたらいい?」  今までの道のりで、黒い犬のケルハウンドや蛇型魔獣のダカーハを、単体ずつ攻撃していた。ここでボス級の複数体である。 「うん、竜巻でいいかな?」 「やってみよっか」  ジルはもう一人で魔法を使えた。いや、正確にはリヒトと番になったことで、ジルは一人で魔法を扱えるようになった。そしてお腹の子の存在が、ジルの魔法を制御する。  出したい魔法を出したい威力で扱えることに気付いたジルは、リヒトの得意技である風魔法を選択した。そして飛び出す竜巻。ハリケーンにはならず、いい感じで魔法が飛び出していた。そして報酬としてケルベロスを得ることが出来た。 「今日の厨房は喜ぶぞ」 「ケルベロスは人気だからね」  ドニスとクレスも喜んでいる。ジルはスライムのぷにちゃんに微笑んだ。 「僕の魔法、使えたよ」  そんなジルに、リヒトも幸せを感じていた。  一行は無事何事もなく帰路に着くことが出来た。 「いい感じじゃないか、ジル」  シメオンも、なかなかの戦果に満足していた。あの稲妻程のレベルである魔法の威力を、ここまでコントロールするとは、正直シメオンは驚いていた。しかし仕上がりは上々だ。 「ありがとうございます。なんか魔法が出しやすくなったような気がします。なんていうか、魔力の流れがわかるっていうか……道筋が見えるって言うか」  ジルはぷにちゃんを触りながらそう答える。 「俺もなんか道筋っていうのかな、ジルへの俺の魔法の流れがわかる気がした」  リヒトも、うんうんと頷きながらそう答える。 「なるほどな。いい流れだな。じゃあ、ドニスとクレスは、リヒトと一緒に、もう一回行ってこい」 「「「え?」」」 「え、じゃないだろうが。お前たち何もしてないだろ? 最低ジルの戦果の五倍以上。当然だな」 「なるほど。了解!」 「だな」 「行くか」  そして三人はあっという間に中級コースの入り口に移転していった。 「あの、シメオン先生」 「ああ、あいつらはアルファだから問題ない。十倍は戦果を挙げてくるさ」 「かっこいいな」 「そうか? まあ、あいつらなら問題ないさ。そのうちジルも一緒に行こうな。でもそれは、この子が産まれてからな」 「そうですね。でも大丈夫なような気もするんですけど」 「それでもだ。もし万が一でもあったら、リヒトが暴走するだけじゃ終わらないぞ」  ははっと笑いながら、シメオンはそう言った。  ……僕はみんなに守られている。幸せだな。  僕もみんなに何かを届けたい……。  そう思ったジルから無意識のうちに、魔法が飛び出していた。ガード魔法だ。防御力を上げるガード魔法で、三人を援護していた。  無事に帰って来てね。  そう心に思った。  一時間後、約束以上の戦果を挙げ、三人は戻って来た。 「まあ、まずまずだな」  シメオンが、三人の戦果を見てそう言った。 「よかった。もう一回行けって言われるかと思った」  ドニスが言うと、シメオンは笑った。 「行って来てもいいぞ」 「今日はこのくらいで」  苦笑しながらクレスも言う。 「あっ! そうだ。ジル、俺たちに魔法届いたよ」  リヒトが嬉しそに言った。 「どういうこと?」 「ガード魔法届いたよ。防御アップだ」 「そうなの? ふふっ。よかった」 「ジルの魔法は凄いね。どんどん進化している」 「みんなのおかげだよ。僕の方こそありがとう」  そしてその戦果である魔獣を、厨房に移転させた。 「じゃあ、今日はもう帰ろうか」 「了解」  そして一行は、学園にジルの移転魔法で戻った。移転魔法は、その魔力により、移転させる人数が変化する。なんなくこの五人を、ジルは移転させていた。ジルは気付いていないが、四人は、ジルの魔力に感心していた。 「じゃあ、今日はここまで。また明日」 「はい。ありがとうございました」  学園の裏庭に移転した一行は、その場で別れることになった。 「お疲れ、ジル。体調はどう? きつくない? 念のためヒールかけとこっか?」  リヒトはジルの肩を抱きながらそう言った。 「ありがとう。でも大丈夫だよ。僕は意外に頑丈なんだ」  そう言うと、ふふっと笑った。 「そう? そうだね。でもきつくなったらすぐに言ってよ」  そう言いながら入浴の準備を進めた。魔の森に入ったので、先にお風呂に入ろうという話になったのである。当然煩悩リヒトは、ジルと一緒に入るつもりで。  そして当然、その流れでお風呂に入ることになった。若干恥ずかしくはあったが、ジルはそれに頷いた。ぷにちゃんを抱えたまま。
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