45 / 59

第45話 3、一緒に入りますか?

「え?」 「え?」  二人は顔を見合わせていた。 「ジル、今からお風呂……」 「うん。そうだね」 「え?」 「ん?」  そう。ジルの手には、しっかりとスライムのぷにちゃんがいた。 「……スライムってお風呂入れるの?」  って言うか、何故に一緒? この至福の時間に、何故にぷにちゃんもっ? という、心の声には蓋をして、あくまでも爽やかに質問するリヒト。  だってさ、お風呂だよ? ジルと入るんだよ? 何故にぷにちゃんまでっ?  リヒトの心は、ハリケーンの様に渦巻いている。竜巻どころではない。しかしジルはこう言った。 「一緒だよ?」  あれ? なんかリヒトのいつもの爽やかな笑顔が、なんかちょっと違う?  ぷにちゃん? ぷにちゃんのこと?  不思議に思い、ジルは尋ね返す。 「……ん?」  リヒトの煮え切らないような返答を聞き、ジルは考えた。 「あっ! そっか。ごめん、気付かなくって。はい」  そう言うと、ジルはぷにちゃんをリヒトに差し出した。ぷにちゃんは、ぷるぷると不安そうだ。  それも当然であろう。  ぷにちゃんは感じていたのだ。リヒトの黒い煩悩を。  震えるぷにちゃんを凝視したまま、リヒトは考える。そんなリヒトにジルは微笑んで伝える。 「リヒトもぷにちゃんと一緒に入りたかったんだね。ごめんね、気付かなくって」  はにかみながら笑うジルもかわいいなと思うリヒトであったが、今は激しく動揺している。  ……これは、どうしたらいいんだ?  違うよって言ったら、ジルを傷つけることになるのか?  でもそうだよって言うと、このぷにちゃんを受け取って風呂に入ることになる。  うわあああああっ! どうする? どうする、俺っ!  俺はジルと風呂に入りたいの!  二人で一緒に入って、あんなことやこんなことをしたいのにっ!  高速でリヒトは思考する。しかしジルは、なかなかぷにちゃんを受け取らないリヒトに、首を傾げた。  どうしたのかな?  こんなにぷにちゃんかわいいから、困ってるのかな?  ジルは自分仕様に考える。 「大丈夫だよ、かわいいもんね、ぷにちゃん」  ふわりと微笑んで、ジルはそう言った。 「……ソウダネ。カワイイネ……」  リヒトはこめかみをひくつかせながら、その手を差し出していた。  それはジルが好きだから。  ジルに笑って欲しいから。  その一心だった。  しかし、別に断ってもいい様な内容ではある。  リヒトはジルと番ったことで、その独占欲に燃え盛るような火がついていたのであった。だからこその、このスライムであるぷにちゃんへの嫉妬に繋がっていたのだったが。  ぷにちゃんを受けとりながら、二人と一匹で風呂に入る。いや、二人+一人と一匹だ。  そんなリヒトの想いを感じ、ぷにちゃんは、ぷるぷると震えが止まらない。 「ねえ、お風呂気持ちいい?」  ジルはお腹にいるであろう子に、柔らかく話しかけている。そのお腹を愛おしそうに撫でている。  リヒトとの赤ちゃんが、ここにいるんだよね。  まだまだ小さすぎるくらい小さいんだろうけど、ここに命が宿っているんだ。  感慨深い想いを抱きながら、ジルは自分のお腹に思いを馳せる。そんなジルを、燃え盛るような嫉妬心で見つめるリヒト。  ……俺は今、ジルと風呂に入っているのか?  それとも、……ぷにちゃんと風呂に入っているのか?  メラメラと燃える様な嫉妬心を、あくまでも爽やかな笑顔で隠すリヒト。  リヒトはまだまだ15歳。多感なお年頃である。その時、誰かにいつの日か言われた言葉が思い出された。 『早めに花畑をばらしておいた方がいいんじゃないのか』  ……そうか。こんな日の為だったんだ……。  そう諦観した。そんなこととは露知らず、ジルはリヒトに話しかける。 「ここにリヒトと僕の赤ちゃんがいるんだよね。まだちっちゃいんだろうな。かわいいね。早く会いたいね」  ふわりと笑うジルを見て、そのメラメラが、メラくらいにまで、リヒトの嫉妬の炎が鎮火した。 「……そっか、うん。そうだね」  そっか。俺との子どもだから、こんなにまで柔らかい表情なんだな。  そう思えると、段々メラっと燃える嫉妬の炎が小さくなっていった……様な気がした。 「気持ちよかったね」 「……ウン、ソウダネ……」  微妙な心境のままだったが、爽やかに笑顔を張り付ける。 「リヒト、どうしたの? 僕、なんかしちゃった?」  その笑顔が微妙なものとなんとなく気付いたジルは、リヒトの顔を覗き込んだ。 「……実はさ、俺」 「ん?」  ううっ! かわい過ぎるっ! 「俺、ジルと」 「うん?」 「……」 「リヒト?」  ぷにちゃんとお腹の子に嫉妬とか言えるか~っ!  そう思い、リヒトは爽やかに笑った。 「ううん、なんでもない」 「リヒト、どうしたの? 僕、なんかしちゃったのかな? ……言って?」  そう言いながら、リヒトを覗き込むジル。  かわいい! かわいいっ! 上目遣いとかマジやばいからっ! 「ジルっ!」 「えっ? リヒト?」  その瞬間、リヒトはぷにちゃんごとジルに抱き着いた。 「ジルが好きっ!」 「! 僕もだよっ!」 「……ぷにちゃんとお腹の子に嫉妬した……」 「っ!」 「ごめん」 「そっか。ううん。僕の方こそごめんね。そっか。うん。ごめん。今度は二人で入ろう?」 「ジルっ!」 「リヒトっ!」  ひしっと抱きあう腕に力が籠る。  そしてぷにちゃんは思った。  息苦しい……。  おいおい、二人でやれよ。  見た目にそぐわず、案外スライムのぷにちゃんは冷静な生き物であった。  さて、仲直り(?)をした二人は、早速食堂へ向かうことになった。 「今日は大量だったからな。豪華な夕食かも」 「そうだね。楽しみだね」  二人並んで部屋を出た。その時、リヒトの部屋の前にうずくまるシャルルがいるのに気付いた。 「あれ? シャルル、なんでこんなとこに?」  リヒトが訝しみながら言った。  当然であろう。  シャルルは先日、ジルとリヒトにダイヤモンドダストを仕掛けたのだから。 「うん、僕、謝りたいと思って……」  神妙な面持ちで、シャルルは言った。 「二度としないって約束するなら、もういいから」  リヒトがそう答える。 「……うん。約束、する」 「じゃあ、もういいよ」 「……あのさあ、リヒト、僕ね、体きついんだ……。部屋まで送っていってくれない?」 「え? じゃあ、誰か」 「……すぐそこでしょ。お願い」 「……しょうがないな。ジル、部屋で少し待っててくれる? すぐ戻ってくるから」 「……うん」  リヒトは不本意ながらも、幼馴染であるシャルルを放ってはおけなかった。ジルは渦巻く思いを抱えながらも、つい頷いてしまった。 「ありがとう。ほんとにごめんね」  申し訳なさそうに言うシャルルを、ジルも訝しみながらも信じてしまった。 「……うん」  ジルはそう一言だけ返した。  そしてリヒトは、シャルルに手を貸しながら歩いていく。その後姿を見ていたくはなくて、ジルは急いでリヒトとの部屋に戻った。 「……リヒト、ほんとにごめんね。もうしないから」  再度シャルルは謝罪を口にした。 「もう二度と、ジルには手をださないよね?」  リヒトが念押しする。 「うん。勿論だよ。には手をださないから」 「……」  そうしてシャルルは、リヒトに支えられながら、自室へと向かっていた。  部屋に入る。 「……ありがとう、リヒト。……」 「大丈夫?」 「……ううん。大丈夫じゃない、かも」 「しょうがないな」  そう言いながら、リヒトはシャルルを支えたまま、ソファーに向かう。シャルルはそこに倒れる様に座った。 「頭が痛いのか? 熱があるのかも。薬ある?」  リヒトがそう尋ねた時、シャルルは笑った。
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!