104 / 108

ネオンの微熱18

俺が瀬津を恋愛的な意味で意識する。どうなんだろうか。なんかそれとこれとは違う気がする。   「いや、違うだろ。そんなんじゃなくて、もっとこう…」   じゃあ聞くが恋人と友達の違いはなんだ。友人関係だって気に入らない人間と無理に一緒にいる必要なんてないはずだ。友達は、友達とお互いが言える関係なら、それはお互いが好きで一緒にいるのだ。好きで友達でいるのだ。確かにそこには儀式のような、誓いのような行為は存在しない。肉体関係は存在しないだろう。友人同士を友人と縛るものは物理的にはないのだ。   でもどうだろう。恋人よりもずっと近いところに友達という存在がいることだってあるだろうし、なんなら恋人は知らないようなことを友達が知っていたり、距離感なんてどっちもどっちだろう。体にしても、心にしても。決定的な関係があるのはたしかに恋人ではあるが。大切なのはどっちだろう。求めているもはどっちだろう。   「あー…なんかわかんなくなってきた」 考えれば考えるほど分からない。   「簡潔に答えろよ」   木下がじりじりとテーブルを中指で叩く。時間もそろそろ潮時かもしれない。そろそろ引き上げないと明日に響く。これ以上木下を拘束するのも悪い。   「お前はそいつを抱けるのか?イエスかノーで答えろ」 「や、どうだろ、え」 「おい」   畜産学科で牛やヤギを可愛がっている木下はきっと豚にもそんな目をしないだろう。もはや羽虫でも見るような目で俺を冷たく睨みつけてきた。残念ながら農学科の俺はその羽虫を可愛がるたちである。 別に俺はそう罵られるのが好きな変態ではないけれど、木下のそういう黒い部分を見るたびに思う。俺やっぱこいつ好きだわ。 とはいえ質問が質問だ。   「え、えーっと…あー、半分?」 「っはぁー…ほんっとあんた中身はそんなんなんだな。女子に王子様だとか紳士だとか散々言わせておいて、中身はくっそヘタレのクズが」   あー…おっしゃる通りで。ばれてんな、自分。   「……まあクズなのは置いといて。とっくに自覚済みだよ。ありがとな、ちょっと俺も考え方が分かったっていうか、考える方向に示しが付いたっていうか。」   木下がゲイだから、それ以前にこいつはこいつでいくら木下に助けを求めた時点でそれはあくまで木下の意見だ。俺の無遠慮でずかずかと踏み込んだ言葉には図太いこいつが傷ついたかどうかは分からない。が、付き合わせたのも無理に煩わせたのも俺である。   「付き合わせて悪かったな。今日はおごるよ」 「いい、やめろ。自分のぶんは自分で出す」 「…そう」 「…お前はなんで恋人と友達を一緒に考えたがる?明らかに違うもんがあるだろ。さっきも言ったけど、抱けるか抱けないか」   そうだろうな。そりゃ性欲は人間にとっても重要な一部分。でもそれを吐き出すだけの関係は嫌だ。たぶん俺には恋愛感情に対する信用がことごとくないのだろう。 財布と伝票を手に気だるく立ち上がりながら木下がぼそっと言う。   「…お前にそんな顔させてる時点で、十分瀬津ってやつがただの友達じゃないことくらい分かるよ」   とっくに好きなんじゃねーか、俺にはそんな顔させられない。木下が言った言葉はもそもそとしていてざわめきにかき消され不明瞭だった。聞き返したところで邪見に首を振られてしまった。   ホテルまでの道はやけにしずかで、俺たちの間に会話という会話はなかった。さすがに疲れた頭では考えたいことがたくさんあるのに、何もまとまらない。俺も木下も、どこかうわの空だったように思う。  
いいね
笑った
萌えた
切ない
エロい
尊い

ともだちとシェアしよう!