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第3話

「な…んだ? 何が起きた…?」 ポカーンと口を開けたまま動けずにいる朝日をよそに、それまで顔を伏せてイヤイヤと枕にしがみついていた小太郎がガバッと体を起こした。 その顔は涙でグショグショで、いつもの美形ぶりが見る影もない。 それどころか目元は落ち窪み、ひどくやつれて見えた。 ただ、そんな表情とはまるで裏腹に、それまでペシャンと力なくベッドに伏せられていた尻尾が、元気に力強く揺れている。 「朝日さんは…まだ僕をちゃんと……」 「ちょ、ちょっと待て。全然意味がわかんないって。今何が起こった? いや、それよりお前、なんて顔してんだよ…」 「朝日さん、朝日さん……」 感極まったとでも言うかのように、小太郎は声を震わせながらムギュムギュと朝日の腰の辺りに縋りついた。 まるで部屋の中をバタバタと走り回って遊びながら、時折『撫でて欲しい』と腹を見せながら甘えていた子供の頃の姿を見ているようだ。 朝日は去年の今頃をふと思い出す。 会社のクリスマスイベントに一緒に参加した。 朝日とお揃いのサンタクロース衣装を身につけ、里親と共に訪れた犬や猫達を出迎える『ホスト』として。 唸る事もなく、ケンカをする事もなく、得意気にサンタ帽を被った小太郎は、見事におもてなしをして見せたのだ。 緊張しているのか、飼い主の腕の中で震えている子は懸命に舐めて宥め落ち着かせ、飽きてきて会場で暴れ始めた子は首を甘噛みして諌めると、みんなを率いてプレイゾーンへと移動を促す。 どの子よりも賢く、どの子よりも優しい…その日朝日は、『うちの子が一番可愛い』と思っている参加者の中でも、おそらく一番強くそう思っていただろう。 家に帰ると同時に、それまで大人しくしていた事で爆発したかのように小太郎ははしゃぎまくった。 朝日の足にすり寄り、部屋の中を駆け回り…そして、撫でてほしいと腹を見せた。 甘えながらも、『僕、頑張ったでしょ?』と訴えるような瞳を向けられ、朝日は全力でそんな小太郎を抱きしめ、撫で回したのだ。 あの時の思いのまま、朝日はそっと頭を撫でてやる。 その気持ちを表すかのようにまた朝日の指先には柔らかく優しい光がボゥと灯り、そしてまたその光は小太郎の頭の中へと吸い込まれていった。 ********** 「もうだいぶ落ち着いた?」 布団を引っ張り、肩口に顔を埋めたまま離れようとしない小太郎の体にそれをかけ直してやる。 どうにか腰から引き剥がしてはみたものの、少し体が離れるだけでまた泣き出しそうな顔をする小太郎を放っておけず、朝日はそのままベッドへと横になった。 意図するところがわかったのか、小太郎はすぐに隣に横になると、肩口に顔を埋めてきた。 首筋に鼻をすり付け、スンスンと匂いを嗅いでいる。 朝日はかけてやった布団の上からトントンとゆっくりリズムを取るように背中を叩いた。 満足がいったのか、それとも吸い込める匂いすら無くなったのか、小太郎はそっと頭を動かす。 ようやくしっかりと目が合う。 ついさっき見た酷くやつれた様子が嘘のように、その顔は生き生きと輝いて見えた。 「あー…何から聞けばいいのかな……」 朝日のベッドで一人泣いていたのは何故なのか? 朝日を見送った時には特に変わった所など無かったはずなのに、さっき見たときのやつれた様子は何だったのか? そして…朝日の手から生まれた光は何で、小太郎にそれが吸い込まれるように見えたのは何故か? 聞きたい事はたくさんある。 けれど今は、質問以上に言わなければいけない事があった。 「小太郎…ごめんな? 俺、お前にすごく寂しい思いさせてたよな? わかってたのに…自分がお前の為にどうするのが正しいのか、考えたら考えるだけ頭混乱してきちゃって…逃げてた。お前ときちんと向かい合おうとしなかった。『お前なんかに飼われなければ、こんな不自由な思いしなかったのに』って言われるのが怖かったんだ。俺は小太郎に嫌われたくなかった…」 「僕は……」 ガバッと顔を上げたものの、何をどう話せば良いのかわからなかったのだろう。 小太郎はモゴモゴと口を動かしたものの、またバフンと顔を朝日の肩に埋める。 慌てなくていいと厚みと固さのある耳の付け根を柔く揉んでやると、気持ちいいのか落ち着くのか、小太郎は体の力を抜き長い腕を朝日の体に巻き付けた。 「僕は、ほんとならとっくに消滅してました。体内の神気はまったく無い状態だったし、父様の神気の外に出てしまって助けも望めない…朝日さんに出会った頃の僕は、本当にいつ消えてしまってもおかしくなかったんです。けど僕は消えなかった。それどころか、こうして狗神の姿に変化できるほど神気を蓄える事ができるまでに成長できました。普通ならあり得ない事なんですって…父様が以前ここに来た時驚いてたんですよ」 ようやく話す順序が決まったらしい。 ポツリポツリと紡がれる言葉を邪魔する事の無いよう、朝日は黙って小太郎の頭を撫で続けた。
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