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「ん、ん、ん……っくぅ」  俺は白いシーツをぎゅっと掴んで、漏れ出る甘い声を必死に堪えた。  声は出したくない。こんな女みたいな声。俺は女じゃない。  俺を四つん這いにして、バックから腰を打ち付けてくる柚希のリズムが早くなる。絶頂がもう少しで訪れる。俺はさらに尻を突き出して、この苦しみと快感の狭間で揺れる身体から解放されたいと思った。 「あ……いい。桜庭さん、イクっ」  柚希が俺の最奥に、熱い欲望を解き放った。  終わったぁ。時間にしたら30分程度のこと。俺からしたら、3,4時間の拷問を受けているようだった。  ずるっと柚希が俺の中から撤退して、ダブルベッドにごろんと横になった。 「桜庭さん、またイカなかった」  艶やかな低音ボイスで、柚希が残念そうに笑った。 「イケるわけないだろ」と俺は、冷ややかな視線を柚希に向けると、ベッドの端に腰かけた。ベッドのわきにある棚に置いた黒縁の眼鏡をかけた。  女扱いされて、イクはずない。 『これって今、付き合ってる女とも別れろってことですよね? 恋愛もダメ、女を買うものダメ。一方的にルールを押しつけて、さらに僕に歌え、と?』  俺は黒色のガウンを素っ裸で羽織って立ち上がった。  契約のとき、柚希が歌うことを突っぱねた。良い声をもって、声量もあって、良い耳をもっているのに。  女を堂々と抱けない生活になるから、と。たったそれだけの欲望のために、歌うことを拒んだ。  そう滅多にいない逸材なのに。才能よりも男としての本能を優先させると。 「桜庭さん?」 「もう寝なさい。明日は歌番組があるんだ。朝からスタジオに入って、リハがある」 「はあい」と柚希が素直に返事をして、布団を身体にかけた。  俺は柚希の枕元にある加湿器をつけて、電気を消して寝室を後にした。廊下に出ると、尻からどろりと柚希の液が漏れ出るのがわかる。  くそっ。また生でやりやがって。処理が大変だから、嫌だと言っているのに。  俺は仕事が残っているに、シャワーを浴びることにした。 「『僕に歌って欲しいって言うなら、条件が一つ。マネをしてくれるって紹介してくれた桜庭さん……だっけ? 必ず売れっ子にしてくるっていう敏腕マネのあの人、僕の性処理に付き合ってくれるなら、条件をのんでサインする』 「だとさ? どうする?」  事務所の社長・長瀬誠一郎が流し目で、俺を見やった。スーツに身を包んでいる俺は、眼鏡を押し上げると「わかりました」と返事をした。  断れるわけない。才能をもっている子を、また大海原に逃がすなんて出来ない。ここまで捕まえておいて、他のライバル事務所にあげるような馬鹿はしない。  この子は天才だ。美声に、声量に、音を正確にききわける耳に。感情を入れ込められる歌声は、どこを探しても見つけられない。  売れる。  男に抱かれたくないっていう俺の陳腐な感情なんて小さい問題だ。受け入れるしかない。 「じゃ、僕から契約条件を付け足して。その1、桜庭 耀が僕の恋人であること」  柚希が人差し指をたてる。「その2」と言いながら、中指をさらにたて、ピースサインをつくった。 「僕がシタいときは拒否しない。必ず受け入れる。あ、セックスのことね。その3、桜庭 耀と一緒に暮らす。その4、桜庭 耀の浮気は許さない。これを付け足したら、サインする」
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