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「へえ、長瀬の。これはまた……あいつが博打にでたか? 音楽業界で今やケイの隣に立てるライバルがいなくなったからなあ。お前が育てた歌手たちも、そこそこの人気はあるが。ケイには勝てないもんなあ」 「あの子たちはそもそもケイとは違うジャンルだ。勝敗はそもそもない」 「耀、お前がここまでマネージャーとして頭角を現すとは思わなかったが……この子は失敗作だな。長瀬も腕が鈍ったようだ。それなりのところまではイケるだろうが。ケイのように長持ちはしない。ケイの勝ちだ。キミは、一瞬だけ弾けて消える事務所の捨て駒だよ」  くすっと春臣が馬鹿にしたように笑い、柚希の肩をポンと叩いてから俺らから離れていった。 「白井さん」と俺は離れていく春臣の背中にむかって、口を開いた。 「柚希は事務所の捨て駒じゃない。貴方もわかってるでしょ? 柚希はケイよりも歌の才能があるって」 「だから使い方を間違ってるって教えてやったんだよ、いま。功を焦りすぎてる。才能があっても、使用方法をまちがえれば、耀と同じ道を辿る」 「捨て駒にしたあんたに言われたくない」  俺を利用できるだけ利用して、俺を捨てた。壊れた俺を無視して、さっさとケイと二人で大手事務所に移籍していったヤツに、柚希について語ってほしくない。 「柚希、いくぞ」と俺は言い、春臣に背を向けようと身体を反転させた。目の端で、柚希が春臣に近づくのをとらえた。 「おじさん、勘違いしてる。僕は捨て駒で構わない。それで大好きな人が満足してるなら。ケイってヤツにも興味ない。歌の才能があるって言うけど、僕にはその才能に興味ないから。ただ覚えておいて。桜庭さんの前で僕を『失敗作』って言うな。桜庭さんのせいで僕が失敗作なんじゃない。僕にそれだけの力量がないだけだ。馬鹿だよね、おじさんも。僕を怒らせたんだから。見てて、僕がおじさんに仕返しをするから」  綺麗な顔で柚希が冷たく微笑んだ。春臣の胸をぐいっと押してから、柚希が背を向けて歩き出す。その顔が、今までに見たことない怒りの色がにじみ出ていた。 「桜庭さん、控室でセックス。すぐに」と俺の横を通り過ぎるときに、柚希が囁いた。 「わお! いつになくストイックに練習してるね」とリハーサル室で最終チェックをしている柚希を見て、長瀬が目を丸くしていた。「ついでに、こっちも酷い」と俺の首筋を指でさして笑った。  わかってる。キスマークがひどいって言いたいんだろう? 噛みつきまくってたから。久々に穴も切れて、痛かったし。正直、立っているのが、キツいくらいだ。座るのも、切れた穴の傷口が広がって痛いが。 「どうしたの?」  長瀬がいつも以上に声を張って歌っている柚希を指でさした。 「白井さんに会った。失敗作で、事務所の捨て駒だって面と向かって言われて怒ったらしい」 「柚希が?」 「そう」 「お前じゃなくて?」 「柚希のほうが怒ってる」 「ふうん。面と向かって言われたのは、柚希にじゃなくて、お前にじゃないの? だから柚希がキレたんだよ。面と向かって言われたくらいじゃ、あの子は怒らない」 「は?」と俺は、長瀬を見やった。
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