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 長瀬は「なに?」と言わんばかりの能天気な表情で、にこにことしていた。 「言っている意味がわからない」 「柚希が本気になった。お前は? このまま、柚希にあってないキーで歌わせるの?」  俺は、ふうっと息を吐きだした。今日、歌う曲はそこまで合ってないわけじゃない。新曲のほうがもっと……。 「目の下のクマ。誤魔化せないぞ。寝ずにやったんだろ? 新曲と今日の曲の編曲を」  長瀬がガツッと俺の背中を叩いてきた。痛みで顔が歪む。 「出し惜しみすんなって」と長瀬がウインクしてみせた。  俺は室内の端に置いてある自分の鞄に向かう。中からクリアファイルを5枚だした。 「ハルト、練習は中止だ。今夜はこっちでいく」と言って、ドラムを叩いたハルトのところにいった。  ハルトに編曲した楽譜を見せてから、俺は自らキーボードの前に立つ。キーボード担当のルイにも楽譜を一枚、手渡してから俺は弾き始めた。 「柚希、この音に合わせて今の曲を歌って」  柚希が頷くと、メロディラインに合わせて歌いだす。  ばっちりだ。柚希のキーにあっている。  艶のある声が透き通って、今まで以上になめらかで、ハリがある。流して聞いている者が、おもわず聞き入ってしまうほどの魅力のある歌声に一気に変化した。 「やるじゃん、耀」と聞き終えた長瀬が満足そうに笑った。 「ルイ、できるか?」 「当たり前。何年、お前と仕事してると思ってんの?」  ルイがフッと笑う。  俺はギターのタイガとベースのショウゴにも、楽譜を渡した。彼らもぱっと楽譜を見て譜面台にのせると、「いけるよ」とドラムのハルトに視線を送った。
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